たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

いいか!アニメに限界なんてないんだぜ!「空色動画」

アニメって本当にすごいよ。
だって絵が動くんですよ。絶対にありえないような世界で、絶対に見ることのできないものを見せるんですよ。
こんなに面白い空想遊戯はなかなかないです。ああ、どっぷりとアニメに漬かりたい。
「それって現実逃避?」
う、うーん・・・。
 

●絵が動くこと●

読んで一発でやられた快作、「空色動画」
このマンガのすごいところはなんと言っても、平面の静止画であるマンガの中で、「動き」ではなくて「動画」を描写していること。
 
物語は、手書きアニメーションを描くのが好きで、いつも現実逃避ばかりしている少女と、いわゆるクラスの人気者が出会うところから始まります。
そう、絵が動くって本当に現実逃避に最高だし、それはとてもいいことです。ですがじゃあクラスでも目立つ子たちがそこに感動しないのか?と言われたらそんなことはない。
本当にすごい感動にはそんな境界線ありません。マイナスのベクトルだろうがプラスのベクトルだろうが「衝撃」「感動」が持つパワーは同じだけあります。

だから、静止画である二次元の上でイキイキとした「動画」が、心を掴むものじゃなければならないのですが、このマンガはやってのけました。
子供の時に大好きなアニメを見たあの感覚、拙いパラパラマンガを教科書の隅に描いて動いたのを見た時のあの感覚。
小さな空間の中でも、自由に絵が動くことによって、たとえ極端すぎる夢でもかなってしまうことに気づいたあの感覚。
 

リア充と現実逃避●


もうバリバリの文化系マンガなんですが、出てくるキャラの9割がギャル系という変り種のマンガ。最初は視点がおどおど現実逃避娘の地味っ子ヤスキチにあるため、その世界は正直「怖い」です。
このへんのスイーツ(笑)さん達の描写もちょっと秀逸で、かなり最初は極端なんですよ。でもとにかく世の中が「怖い怖い怖い」というヤスキチにしてみたら、こう見えるであろうことがうまく描写されています。
 
実際、絵を描くことでこの怖い世の中から現実逃避する彼女の気持ちは痛いほど伝わってきます。
そのへんコミカルに描かれるために笑いながら流せるのですが、「絵が動く」ことに「自分の気持ちのすべてを託す」という原動力になるのも事実。マイナス方面で。
それに対して、同じように夢中になりはじめるバンドガールのノンタ、帰国子女のジョンは、いわゆるリア充*1です。もうみんなの人気者だし、どこにいっても目立つ美人だし。
ヤスキチはちんちくりんで、おどおどしていて、人と話すのがとても苦手でいつも現実逃避。そんな自分が夢中になっている「絵を動かすこと」の面白さを共有できた時の、このつかみどころのない感覚はなんだ!?

ああ、そうか、そうですよね・・・。
 
隠すことなく、リア充スイーツ(笑)な子たちと、現実逃避でネガティブな子の差異を軽快に描いているから、ギャグっぽいマンガなのに妙に胸にくるんですよ。
特に自分が「あの人は人気ものだから」「あの人は美人だから」と、違う世界に感じていた経験があるならば、そのギャップは痛いほど感じます。だから現実逃避にアニメを選んだわけですが。
でもね、さっきも書いたけど、本当にすごいものはそんなものを簡単に埋めるんだぜ。
自由を見ちゃったんだもの、乗り越えるのは簡単だよ。
 

●動画の可能性は、誰にだって無限大じゃないか●


左から、ノンタ、ヤスキチ、ジョン。見たままの性格です。このへんのキャラデザは極めて秀逸。
3人とも「絵が動くって面白いじゃん」でつながる過程は、大げさでコミカルながらもぐっとくる。
人間関係って複雑だけど、どれを簡単にぶちやぶるものってあるんですよ。この作品では、それは「動画」なのです。さまざまなマンガの実験的技法を取り入れながら「オレたちの!」「わたしの!」「絵が、飛び出していく!」という爽快感がみっちりつまっています。
一度それを感じたら、もうカベなんてないね。無限の可能性の魔力は、今遠くに見えているあの青空なんてやすやすと飛び越えるじゃん。

ジョンだけ極端に絵がヘタなんですが、それでもアニメはすごい。だって動かせるんだもの。
動いてしまえば「絶対ない」は絶対ない。
あるのは可能性だけです。*2
このラクガキみたいな車に乗って、どこまでもいけるんだよ!北は北極から南は南極まで、いや宇宙にだって行けるんだよ、動画すげーよ!

やることは地味だけれど、その地味な作業が生み出す信じられない世界。一度見たらもう離れられない彼女達のこの気持ち。
もちろんウジウジしたヤスキチがそれですぐおおらかになるわけじゃないです。でも確実に彼女はその「現実逃避」を最大限ステキなものに変えていく力を手にしていこうと動き出せるんです。
 
このバリバリリア充なノンタとジョンがまた、いいんだ。実際「怖い!」「私とは世界が違う」ってのはヤスキチビジョンだからです。
彼女達だってただの少女。もちろんクラスの人気者だけど、知られないでコツコツやってる一面もあります。
それらがほんのりと、やはりコメディタッチで描かれているのにはなんだかたまらないものがありました。特にジョンの回は必見。これずるいよ、泣くよこんなの見たら。泣かせない演出でこんな見せ方させられたら。
誰だって不安なんだ。誰だって見えない現実から逃避したいし、立ち向かいながらもコツコツとやらなきゃいけないこともある。
でもさ、動画を本気で描いて、本気で動かした時くらい完全に現実の鎖から解き放たれてもいいんじゃない?
3人とも、もう飛び立つための翼は手に入れました。もう怖いものは何もない!
あとはそのための、えーと・・・お金とか・・・技術とか・・・。・・・。
 
現実逃避も結構苦労が必要でした。
でも、そこは飛び越えられるよ、だって楽しいんだもん。それぞれのベクトルはばらばらなんだけど、その矢印の長さ分の力を全部まとめたらすごいことになるじゃん。だから。
 
空色動画(1) (シリウスKC)
コメディタッチで基本的にはド明るい「アニメ作る女子高生」マンガですが、こんなにバカやりながらポジティブにアニメに向かう彼女達のパワーにとにかく泣けてくる。ああ、年取ったかな。
でも動画が無限大の可能性を持っていると思うのは本当。彼女達と縛られることのない旅に出ようよ。
 
〜関連リンク〜
片山ユキヲ/空色動画(マンガ一巻読破)

*1:「リアルが充実している」という意味を、ネガティブ視点から見て距離を置く、という意味で

*2:実際のアニメだってできないこともある、なんて野暮なことは言わない。この子たちはプロじゃなくて自由な少女達じゃないか!