あなたはどう読んだ?男女から見た「ブラッドハーレーの馬車」の見方
ブラッドハーレーの馬車が好きな女性って結構多い気がします。(私の周りが多いだけかもしれませんが)内容や描写の巧さもありますが、絵柄が綺麗なのがあまり嫌悪感感じさせないんじゃないかな、と思ってます
少女たちの夢と希望は丘の向こうに…「ブラッドハーレーの馬車」
●気分が悪くなった。でも見てしまう。●
「ブラッドハーレーの馬車」発売当時の騒ぎはセンセーショナルでした。「おひっこしのひとがこんなマンガを!」「無限の住人で好きだったけれど苦手に」。しかしそんな話題がさらに好奇心を呼び寄せ、気づけば数多くのマンガ好きが虜に・・・という不思議な状況が生まれました。
この作品をどう感じるのか、というのは一概に言えないんですよね。猟奇でエロを目指した氏賀Y太先生や、陵辱で少女の心理を描く町田ひらく先生のような方向性でもなし。黙々と後味の悪さを記録していく、陰惨絵画状態が非常に心地悪いのです。
心地悪いと思っても見てしまう。女性はそのようにおっしゃる方多かったです。「とても気持ちわるい」「くらくらしてしまう」「ぞっとする」・・・「だけどまたひらいちゃう」。一緒にラジオやらせていただいている葉月ゆらさんも同様に、読んだあとはばったりしていましたが、また開いてしまってこれは完全にはまったのでは、と言っていました。
このような反応を示すのは女性に多く思われます。
先ほどの拍手にもあった「きれいな絵柄」というのもあるのですが、ゴス的な美しさはありません。リアルに眼球や歯やチクビをもぎとられる残虐絵巻。なんだかそこにいっぺんの救いを見たくなって、全部スカされるっ!
それでも女性がブラッドハーレーを好むのは、おそらくそこに破壊されつくした少女像があるからでしょう。
決してあんな状況を望んではいないけれども、自分のもやもやした心理状態を超越した部分での物語り。惹かれるというよりは、浄化作用に近いように思います。
ひどい、最悪、気持ち悪い。それは二次元で昇華しきれるのです。
だからたまによみたい本ベストに入るのでしょう。
友人いわく。
「あの隣の部屋にいた女の子の声が心の支えだったけれど、本当にいたんだろうか?」
捕まえられてありとあらゆる虐待を受け、死にそうな日々を送る少女の心の支えは、隣の部屋から聞こえる知り合いの少女の声。
恐ろしい世界にさしたいっぺんの光です。
もう目玉もなくなり、体もぼろぼろな彼女。彼女が持っていたある秘密をその子に打ち明けた時、許しの声を聞きました。
こんなにも絶望的な世界で、希望があったんだ、ありがとう、ありがとうと涙するのです。
しかしそのあとのコマで、彼女の寝ていたベットの横に部屋がないことを読者は知らされるのです。
事実は何も述べていません。ただ、壁の向こうは外の吹きすさぶ風しかないのが淡々と描かれるだけ。
ああ、この世界は真っ暗だ。イヤダイヤダ。
しかしそれでも見てしまう。もしかしたらそれは、自分をリセットするためかもしれません、二次元の贖いによって。
●男子のほうがひけごしなモチーフ●
一方男子はこのへん複雑。
作者沙村先生は自分のこの絵で「ぬける」と公言しています。実際ブラッドハーレーの状態で反応するかどうかは試金石。もちろん反応するもよし、しないもよし。
ただし、反応しようとしまいと、男性は女性と違ってこの本を読むとき、いくらファンタジーであっても「罪人」であることからはじまります。ましてや反応しようものなら「共犯者」です。
「あんなひどい気持ち悪いことを、といっておきながらなぜそんなにうれしそうなんだい?」
「君が二次元の少女を見ているその視線、やつらのものと何が違うんだい?」
「ほう、ヌくのかい。ヌけばいいさ。死にかけたこの子に乱暴を働いてな。」
沙村先生は、分かって描いています。それが自分の性欲の一つの証であることを。そしてそれを人に認められざるものであることを。
女性側はそれをその字義通りに、神の視点から見ることが出来ます。私たちの分身のような「かわいいもの」が破壊されている。嫌悪感沸く世界ですが、同時にその世界はアンリアル。限りなくリアルに近いんだけれどもファンタジー。
男性側もファンタジー・・・では受けきれないんです。マンガの中で攻撃するのは男。
つまりレイプ物って男性=悪、女性=逃げるウサギ、なわけですよ。
そのケダモノが自分の中にいるんじゃないのか。いるじゃないか、ほら反応しているじゃないか。
お前のやっている行為はサディスティックで恥ずべきことだよ。でも興奮したんだろう?
そんないたたまれない気持ちが襲ってきてしまい「ブラッドハーレーは女性には読ませられない・・・」と日和ってしまいます。自分もそうでした。
そうなんだよね、この時点で「自分の攻撃性や性癖を守りたい」というこずるい心理が働いちゃっているのかもですよ。
いっそ沙村先生のように「ごめん、おれぶっちゃけ興奮した!おれってドエスすぎるな!だから見せられないし見るなら自己判断ね!」くらいタフでないと、男性には極めてきつい作品だと思います。自分が悪であるのを一瞬でも感じる作品は、キツいのです。
しかしそれでも見てしまう。
女性はもしかしたら、死んでいくスケープゴートを見て気分の切り替えをするために、残虐で悲しい物語に酔いしれるために、世界のゆがみをも感じ、自分の生きる証にするために。
男性が読み続けるのは実は非常にマゾヒスティック。痛くて気持ち悪くてひたすら責められる機械に飛び込むようなものです。あとはそれらをひっくるめてげっははと笑う豪快漢か。自分は「痛い痛い」と自省するきっかけにしているので前者。
他にも様々残虐もの・陵辱ものありますが、中でもきわめて手に入りやすかったという利点が大きかったため話題になった「ブラッドハーレーの馬車」。
短い一冊ですが、男女の価値観に一発のケツバット叩き込むだけの作品であると思います。こわいかも・・・という人もチャレンジしておくと人生観かわるかも。かわらないかも。
でも自分の見方はきっとかわる。