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わたしたちが動くから、アニメは動くんだぜ!「空色動画」2巻

●動き出すのに必要な物●

アニメってすごいよね。
目の前に広がるのは無限の可能性。不可能なんてないんだよ?すごくない?
どこまでだって走れるし、どこまでだって飛べるんだ。
 
だけど。
そのアニメを動かすのには労力がいるし、心から楽しむにはお金や時間がいる。
残念ながら、無限な夢は蛇口をひねれば出てくるようなものじゃあない。
現実の話しをすると現実逃避がしんどくなりますが、でもアニメはすごいんだぜ。
それをも超えて「好きなんだ!」って突き動かすんだもの。
 
絵が、夢が、動き出すのに必要な物。
それは、なんだろう?
 

●動き出せーーーっ!●

空色動画 2 (2) (シリウスコミックス)
もう何度も「このまんがは本当にすごい!」と絶賛し続けるほど大好きな「空色動画」
自分のいろいろな思い入れもあって、かなり信者的なほどの押しっぷりで申し訳ないんですが、それでも好きで好きでしかたないです。
 
そもそも、自分は「何かを好きだという人が好き」なんです。そういう漫画を見るとボロボロと泣き出したくなるんです。
楽しいことをやろうとすると、必ず何かつらいことに行き当たることがあります。一歩踏み出して「好き」を形にするのはそりゃーもう大変なことです。逃げた方が楽です。
それをも越えて「好き!」って言うことがいかにすごいことか。それを描く作品がどうしようもなく好きなんです。
 
「空色動画」も二巻になり、気の弱いヤスキチ、真面目不良なノンタ、ダイナミックなジョンの3人は、空想で思い描いた「動き」の面白さを「形」にするため動き出しています。


絵が動く感動って、たくさんの人が持っていると思うんですよね。
好きな作品がテレビで動いている感動。ニコニコなどで自主制作されたキャラアニメを見た時のゾクゾク感。
ましてや自分が作った絵が動き、それを誰かが見るんですよ!
ゾクゾクしないわけないじゃないですか。
 

●「魂を込める」●

この作品の面白いのは、その「動く感動」を形にするのが、必ずしも100%完璧じゃないところです。
そもそも女子高生がやっていること。現実的に考えて、どんなにうまくても限界があるのです。

見ての通り、ジョンは上手くないんじゃなく「下手」です。
作中でも、明らかに下手くそなんです。少なくとも他のクラスメイトのレベルよりも。
じゃあ、なぜいい物を作ろうとしているのに、彼女はこうして描いているの??
 
この漫画は、きっちり丁寧に「絵を動かす」ことを描写しています。
だからこそ「作りたい!」「動かしたい!」という一番強い思いも、上手い下手だけでは切り捨てないんです。
もちろん現実問題として、そりゃ上手い方がいいです。気持ちだけではどうにもならない部分もあります。むしろジョンのこの絵の下手さは「どうにもならない部分」であることを認めてすらいます。
いますが、ジョンは本当にこれが好きなんですよ。思いつきで動く子だけど、同時に最後まで絶対諦めないんです。3人で一生懸命やることに魂を込め、動いたときに誰よりも喜びます。
そんな気持ちを捨てられるわけない。むしろそんな気持ちがあるから、彼女たちは前に進めるんじゃないか。
 

もう一人、ノンタはアニメなんてほど遠い存在にすら思えるような、クラスでも憧れられるパンクロッカーです。だけど「アニメ面白い!」というのを包み隠さないんですよ。
そして、その「好き」を他の人に伝えます。他の人を心から褒めます。
「好き」が生み出すパワーは、いろいろな物をプラスに変えていくんだ!
そう、彼女たちは信じて疑いません。だからこそ、絵は動き出そうとするんです。
では、ヤスキチは?
 

●好きだから●

ジョンを中心にものすごい勢いで「アニメ面白い!楽しい!」が駆け上り、現実逃避が趣味だったヤスキチにも、全力を振り絞る場所ができました。
まるでブレーキの壊れたジェットコースター状態なのですが、いいんですよそれで。今まで動きもしなかったものが動き始めたら、ちょっとくらい暴走したほうがちょうどいいよ。若いんだから。
 
しかし、スピードに乗り始めた車は、横からちょっとした圧力がかかることで揺らぐことだって、あるんです。

アニメが好き。打ち込めるこの瞬間が好き。目標に向かおうとする感覚が好き。
そして、それ以上に、初めて出来た友達が、大好き。
好き、好き、好き。
なによりも、一番大切で簡単なはずのことだけど、だからこそ失われるのは怖いです。守るためには努力が必要です。

この漫画は、ヤスキチが心の中に抱え込んでいた不安や恐怖を、とにかくひたすらに「好き」で乗り越えていく様を描いています。
根性!とか、それほどのものでもないです。なんてことはないことなんです。でもそのなんてことはないもののために踏み出さざるを得ない一歩はとても大きいんです。
 
絵が、夢が、動き出すのに必要な物。
答えは一つじゃないけれどさ。
とりあえず思ったその「好き」を全力の大きな声で、叫べばいいんじゃないかな?
ヤスキチはね、叫ぶんだよ。
だからこの漫画は、動き出すんだよ。
 

●もう一つ、大切なこと。●

一番好きなコマを一つ引用します。

自信がなく、いつもおびえていたヤスキチが、クラスメイトにこんなことを言いました。
実際、絵を描くってそうそう簡単なことじゃないわけですよ。技術だって一朝一夕では付きません。そんなのは承知の上です。
大事なのは、思いながら描くこと。文も音楽も絵もアニメも一緒です。
これを言えるヤスキチは、強くなりました。正確には「強くなろうと努力し続けています」。
 
そりゃね。アニメは夢を縦横無尽に広げる力があるけれど。
夢を動かすには最初に一歩必要です。分かってはいてもなかなかできません。逃げるのは簡単ですが、立ち向かうのはものすごい労力を使います。
でも、好きだから。

真ん中にいるヤスキチの、イメージ絵と現実絵のポーズの違いに注目してください。
空元気でもいい。
がんばれ。
 

「熱い」というベタな褒め言葉しかどうしても浮かばないのですが、やっぱり「好き」の持つ熱量をストレートに突きつけられるのをどうして避けられますか。そりゃ受け止めるしかないでしょう。そんなマンガ。
読むとわかるのですが、このマンガかなりテクニカルなことをやっていて、いろいろなアニメーションの技法を漫画表現にかえて描いています。
それがうまく、作品のリズムを生み、そして彼女たちがアニメのように動き出すかのように感じられるよう描かれています。
一度はそのリズムに身を任せて読み、2回目からはコマ運びや描写の効果などにも注目しながら見るのも楽しさ倍増です。自分ももう一回読み直してみます。

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