恋愛が成就しない恋愛ゲームを解いてみよ。「神のみぞ知るセカイ」

●現実なんてクソゲーだ！！●

開始当初から話題になっていた「神のみぞ知るセカイ」。
どんなマンガか、というのを説明しはじめる前に、この一コマがあまりにもこの作品を物語るに最高のものなので、先に引用しておきます。

すげーインパクト。
　
主人公の少年はギャルゲー攻略のテクニシャン。
そんな彼の元に突然やってきたエルシィの事情に巻き込まれ、現実の女の子の恋愛攻略をする羽目に…。
おういえす、なんといい意味でのご都合主義。リアル恋愛シミュレーションゲームの始まりだ！
そりゃもうね、オタク文化の巨大な一角になっている「ギャルゲー」の文法を最大限に生かしているのがすばらしい。読者と作者の間に「ギャルゲー」があればそれで万事オッケーという見事さであります。
　

●現実じゃねぇ、ギャルゲーだ。●

ほんと、面白いくらいすっぱりと、ギャルゲーという共通言語をネタにしています。
いろいろな局面でそれが例に出てくるのですが、たとえばこれ。

現実の人間関係がどう築かれるのかというのは、一旦おいておこう。
ギャルゲー文法でいえばこれは確かになのですよね。
自分はそんなにギャルゲーやってない方*1なんですが、それでもそこそこにはいくつかやるわけですよ。
そしたら「ここをこうするのかな」というカンみたいなものが出てきます。たぶん１０００本以上クリア余裕ですという猛者だったら、さらにそのへんは鋭いことでしょう。やっぱりゲームはやりこんでなんぼですよね。
とにかく「出会い」が重要、というのはまったくなことで。
　
もうひとつ。

このへんもオタク文化の「うまみ」をうまいこと抽出してます。
「オタク世界のルールだと女の子キャラは云々」と真っ向から言うと、そもそもルールというのは何だろう？という話しからになってややこしくなってしまうのです。しかしオタク文化作品内（マンガ）でオタク文化（ギャルゲー）を分解して語り、しかもそれを実践するんですよ。
巧みな見せ方です。「あるある」ネタと、ゲームを読み解く楽しさと、「女の子かわいい」をいっぺんに味わえるんだもの。
　

●ゲームのエンディングの後には…？●

さて、この作品の面白さは「謎解き」「女の子かわいい」「オタク的ルール」などいろいろあるのですが、個人的にひどく心にきたのは、攻略後にその記憶が消えるという設定です。

人間に対して「攻略」と言い切る潔さもさることながら。
そもそも彼が楽しんでやっているわけではなく、巻き込まれてしまって「やらざるを得ない」ゲームなわけです。別に人間の女の子と恋しわいたけじゃないのですよ。
だから、彼女たちのハートをつかみ終わった後は、一切なし。終わりです。なんて潔い。
　
読んでいてこれほど切ない展開も（おとこのこ視点だと）ないのですが、どこかでこの感覚、見たような…。
あ、そうか。ゲームってクリア後は余韻は引きずっても、エンディングはエンディングなんだ。
　
まれに二作目三作目ファンディスク・・・と続くこともありますが、ゲームは一回限り。クリアしたら終わりです。
ほんのりとキャラクター達にぼくらは恋をしながら、その余韻を持ちつつ「エンディング」をむかえます。
おかしな話ですが、そういう意味では恋愛*2が形式として成就してしまわないからこそ、恋愛ゲームの中の恋愛はさらに理想の完全体として成就していくのかもしれません。
　
主人公と、攻略対象「人間」ヒロイン達の間は、そのようにして忘却されることで「ハーレムエンド」には向かいません。
ただ、ほんのりと記憶ではない複雑な感情だけが心に残るのですが…これがまたなんともね！想像をくすぐるというか！
あれですよ、ハードボイルド映画のヒロインが、主人公と別れるときの感覚。
たぶんもう会わないし、恋も成就しないんだけど、ほんのりとかかえた感情がここにある。
　
１巻では二人がそのようにして攻略され、余韻を残してフェードアウトしていくわけです。
「エンディング」は迎えても、現実的な恋は成就していない。だからこそ彼と彼女らの世界は、僕らの知らない不思議な魅力をたたえます。
もっとヒロイン達がたくさん絡んでほしい！けど出ない。４コマで補完されるだけ。今はどうなってるかわからないですが…。
　
そうか、このセカイこそが「神のみぞ知るセカイ」の領域なんだな。
　