たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ときめく三十路のための少女漫画。「未満れんあい」

●ときめき世代、高齢化●

少女漫画とかさ。
ギャルゲーとか。
なんかそういうラブラブだったりするのに、男らしくもなくときめいた自分がいるわけですよ。中学高校くらいに。
どっぷりそういうナンパな*1ときめき作品に浸かりながら、大人になんてなりたくないな、大人はきたねえな、盗んだバイクで走り出すな、なんてやってたわけですよ。
とりあえず、ぐだぐだなおっさんにはなりたくないなあとか。
 
なんだ。
気づいたら、おっさんなのは自分じゃないか。
今日も電車で仕事に向かいながら。
少女漫画にカバーをかけて読む。そんな暮らし。
 

●大人の男性のための少女漫画雑誌●

少女漫画好きの男性は、世にたくさんいます。
しかもその世代が、現在の20代後半から30代に集中しています。まあ世代論とかそんなのはどうでもいいんですが、どうもそうなっちゃったんだなこれが。
この状況を見越してか、成人男性向けの少女漫画風(少女漫画ではない)雑誌が次々と刊行されます。
エール、きららシリーズ、百合姫S、そして、幾度の苦労を重ねて安定しはじめたコミックハイ
自分もコミックハイは定期購読しています。なんせね。おっさんの少女心に訴えるんですよ困ったことに。
確かに萌えが強すぎると感じる人もいるかもしれませんが、ちょっと狙い所がずらされてるんですよね。「つぶらら」は百合展開とかラブロマンスになるかと思ったらそうでもない青春絵巻になったし、「こどものじかん」もエロリ漫画かと思いきや、ハードな教育+人間感情どろどろ漫画に。いやあ面白いな。
その中でも、まさに三十路のための決定版とも言える「男性向け少女漫画風漫画」が単行本化しました。


高嶋ひろみ先生の「未満れんあい」です。
ちなみにね。この帯がもうね。またいいんだ。
 

●三十路にさしかかるぼくらのトラウマ●

さっきから「少女漫画風」と連呼してますが、少女漫画ではないです。
なんせ主人公は29歳のむさい汚いエロゲ会社のおっさんです。
その現実がとてもとても生々しくて、見ていて切ない気持ちで満載になります。

エロゲー作って売れてるからまあ成功者です。たくさんのエロゲキャラを落として、美少女キャラグッズに囲まれて。しかしテンションは上がらず。感情は盛り上がらず。
とぼとぼと一人かえって、帰ってゲームして寝る。
なんて身につまされるんだろう。
年を経るごとに感じる複雑な思い。幸せじゃないのか?いや、そうでもないんだけどね。そこそこ幸せなんだけどね。
でもなんかね。なんだかね。
夜風が寒い。
 
彼の境遇を印象づけるエピソードがまた、妙に生々しくて心をちくちくさすんです。

詳しくは読んでいただいた方がいいと思うのですが、彼には一つ強烈なコンプレックスと、ぬぐえないトラウマがあります。
ええ、彼は比較的成功している人間なのです。でも、ふとしたときにフラッシュバックして、パニックに陥らせるほどの心の傷。
なんてことはない、なんて思われるかもしれません。が、本人にしかその傷の深さは分かりません。
 
心に傷をかかえたのを必死に隠し、誰にも言わずエロゲを会社で作り、とぼとぼと夜帰る道のり。
30歳一歩手前。迷いの時です。でも迷ってもどうなる?どうもならない。そもそも結構うまくいってるじゃん。うまくいってるよ。
 
 
え?少女漫画じゃないじゃんって?
そうですよ。これは三十路のための少女漫画風漫画です。
少女漫画でイケメンが出てきて女の子が「私…でもそんなに目立たないし…」を、男向けに変えてリアルにしたら、確かに現実はこうだ。
それを生々しくぶっつけてくるんです。なんだか身に覚えがありそうで、心の裏がちょっとちくちくするくらいがいい。
いや、痛いんですが。
 

どうしようもない僕に天使が降りてきた

だが、ぼくたちはときめきがほしいおっさんです。
エロエロりんなものはもちろん大好きだ!だけど、もっとピュアでドキドキしたいんです。おっさんなのに。おっさんだから。

妙なめぐりあわせで出会った女の子は、そもそもは彼の好み(だと思っていた萌えポイント)とは全然かぶりもしない子でした。
おれは、汚い*2、むさい、くさい、ださい。
分かってる、分かってるよ。そんなぼくの前にいるこの、なんつーか、全く別の世界の生き物のような少女が、そんなおれのことを気にかけるわけなんてないってことをさ。
でも、ときめいちゃったんだよ。スイッチ入っちゃったんだよ!
これは恋?いや、恋とかよくわからないし。
ただひたすらに、会いたい。君の顔を思い浮かべるだけで、一日落ち着かなくなる。こんな気持ちはじめてだよ。
 
恋じゃん。
 

いや、単なる「萌え」かも。
本人聞いても「いや、なんだろう」と、曖昧な返事を返すでしょう。
分からないんですよ。この子に今抱いている感情は。そもそもそんな冷静に「今俺は恋をしている」とか考える余裕ないんですもの。
 
たくさんのトラウマに囲まれ、女の子とリアルに話す体験なんてほとんどなかった彼にとって、それは未知との遭遇でした。
特にこの女の子が全くすれていないため、予想外な出来事がぽんぽん起こります。といっても割と現実味のある範疇の物ですが、何もかもが彼にとっては奇跡です。
 

●こんなにも、ぼくはどうすればいいか分からないけど●

一度、大きなコンプレックスを抱いて挫折した人間には「自分はだめなんだ」という思いが強くつきまといます。正直しんどい。

もしかしたら嫌われているかもしれないな。
エロゲ会社って知られたらいやがられるだろうな。
冷静に考えたら、気持ち悪いもんなおれ。
困ってたら…ごめんね、本当にごめんね。
 
ただ、ここで彼の中に大きな変化が生まれているのも確かなのです。
自分のことを考えるよりも先に、相手のことを思いやって悩んでいる。それは無気力に過ごしていた彼にとっては信じられないほどの変化です。
そう、その彼の思いこそが、大きな奇跡でした。

相手は中学一年生。オレは29歳。
付き合いたいとか、そんなこと考える余裕なんてないよ。
ただ、少しでもその笑顔を見ていたい!というものすごく純粋な思いだけでいっぱいです。
 
いいじゃん。おっさん。
そう、この感覚こそが、三十路の少女漫画。
 
ちょっと一番好きな部分を引用します。

個人的にラブコメしているシーンよりも、彼が悶々としていたり、必死になって泣いたり、寂しげにしているシーンの方が好きなんです。もう見ていて胸が苦しくなります。
それだけ自分が年取ったということでもあるんですが。妙な現実感を、もらさず描いているあたりにとても好感がもてます。だって、彼のすね毛もじゃもじゃなんだぜ?だよね。そうだよ。そんなもんだよ。
だけど、漫画の中ではせめてときめきたい。その一瞬の奇跡に期待したいじゃないですか。
彼が落ち込み、苦しみ、必死になるほどに、少女の笑顔が明るく輝くんです。
そこが、ぼくらおっさんが夢見る部分。たまには、いいよね。
 

そして、最初の帯付きのとこの表紙比較してみてください。
こんなささやかな描き方のやさしさすらも、うれしい!
 
はて、おっさん描写がリアルなだけに、相手が中一女子と言うことにものすごく違和感が生まれます。漫画自体はいっぱいいっぱいな彼が中心なので、それほど違和感はないのですが、やっぱりファンタジーとリアルの境界線に気づかざるを得なくなってしまうわけです。
そもそもこれうまくいったとしたらどうするの?あるいはこの子の視野が広がったら簡単に壊れるんじゃないの?そんな不安でいっぱいなわけですよ。
でも!彼はそれどころじゃないんだ。今はそれでいい。それでいいんだ。
この少女が、いるだけで、いいじゃないか。
 
〜関連リンク〜
おしごとblog.(高嶋ひろみオフィシャル))
エロゲ会社の社員が女子中学生に恋する物語 −未満れんあい(MOON CHRONICLE)
未満れんあい 1巻(それはロックじゃない)

*1:むろん褒め言葉ですよ。

*2:風呂に全然入らない