たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「すごい!」の「すごい」エネルギーで「すごい」アニメを作ろう!「ハックス!」

●「すごい」●

人に感想を言う時ってね、色々言葉を選ぶわけですよ。
それはなぜかというと、何らかの形で表現しなければ相手に伝わらないからです。「甘い」と言ってもどのくらい甘いのかというのは人によって感覚が異なるので、「頭が痛くなるほど甘い」「とろけるように甘い」「幸せいっぱいに甘い」などなんとか相手が理解できるようにひねくりだします。
そんな「自分の感覚」の中でも、最も表現しづらく、かつ面白い感情があります。
「すごい!」です。
「すごい!」って、ほんとそれだけでは「伝える手段」にはならないわけですよ。何がどうすごいのかの説明があってはじめて伝わるんです。しかし、その根っこの根っこのそのまた根っこには、どうあがいても説明しきれないような魂の揺さぶりしかありません。
それが、「すごい」なのです。
時に人は「すごい」を求め、「すごい」を原動力にして生きています。
 

●「すごい」をカタチに!●

はて。
「すごい」という感情に貴賤は、ありません。
何が優れていて、何が劣っている、というのはありません。
人から見たらたいしたことではなくても、その人にとって本当に「すごい」ならば、それは「すごい」のです。魂を揺さぶられたのです。

ハックス!」の主人公の少女みよしは、とにかく語彙が少ないです。
とにかく何度も何度も「なんていうかこう、なんか、すごいんだよ」と、「すごい」を繰り返します。
「なんか、わかんないけどすごいって思いました。」
「バーンって突っ込むところがすごかったです、なんか。」
すごいアニメ作ります!」
ここまで「すごい」を連呼するヒロインはなかなかいません。
 
もちろん文字で何かを表現する際、「すごい」だけではやはり伝わりません。
しかし話し言葉で、身振り手振りという「表現」を加えた「すごい」は、一層強く伝わります。
そしてその「すごい」をなんとかカタチにせんと、人は絵を描いたり音を出したり走ったり飛んだりします。全ては「すごい」と感じたことを何らかのカタチで表現したいがゆえです。
 
この作品の面白いところは、とにかくみよしが「すごい」のを、すごい以外の言葉で表現しないことなんですよ。
みよしはとあるアニメを見て、激しく感動するんです。それを色々な角度から言葉を使って表現することも大事なのですが、みよしはそうしません。
このページが非常に印象的なので引用してみます。

「あれ」「それ」「すごい」「うーって」「なんか」。
もうとにかく抽象的な言葉をひたすらに並べ立てます。マシンガンのように撃ちまくります。真ん中にいる他の生徒との温度差もありますが、その温度差を乗り越える熱量で上下からみよしが挟み込んでいるのがわかるでしょうか。
みよしが抱えた「すごい」の強烈な温度を絵で表現しています。これはマンガという表現だからこそできる物です。
アニメを見た!「すごい!」と思った!
たったそれだけのことが、この一冊の本の中に恐ろしいほど詰め込まれています。開いたら溢れるよ。
 

●天然な子を見る冷静な視点●

はて、では「すごい」という熱血をなにもかも全部大肯定しているハイテンションマンガかというと、これが違うから恐ろしい。
ハックス!」は基本、みよしの「すごい」がガンガン前に進むことで描かれるマンガですが、周囲の目は極めて冷静です。

熱中がすごくて、ガンガン突き進んで、かつ割と天然なところが多い子は、ある一点において誤解を招いてしまうと、途端に「空気読めない」「うざい」と手のひらを返されます。
マンガの世界の中では熱血やアホはチャームポイントですが、そういう裏があることも、あるんです。少なくとも万人に好かれる人なんていない。
 
アニメに感動し、「すごい!」と叫び、がむしゃらに絵を描くみよしはとても魅力的です。一緒に作る楽しさを共有したいと感じるパワーを持っています。
しかし、作中のキャラは必ずしもそうではありません。中には温度差を感じるキャラもまた存在するのです。
じゃあどうする?悩む?止まる?
進むしかないっしょ。
 

●周りを巻き込め!「すごい」のチカラ●


自分は、人が感動したり没頭したりするのを聞くのが大好きです。
冷静で分析された話も、言葉にならず興奮する仕草も、その後ろに「好き!!!」があるだけでとても魅力的になります。たとえそれが、自分にとっては感動できないものだとしても、相手がその時感じている本当の感動って伝染するんですよね。
 
みよしはアニメを見て「すごい!」と言います。
「すごい!」エネルギーを体感します。体中の血が沸き立ち…とかそういう飾った言葉はとりあえずいいや、すごいんですよ。
その吸収した「すごい!」のエネルギーを、出力する「すごい!」に変換しよう、とそういうわけです。

「そんなの無理だよ」と冷めたぬるオタ状態のアニメ研の先輩達を尻目に、みよしのパワーは爆進。同じように「すごい」を感じたコジマ君も語ります。
ねえ、このセリフいいと思いませんか。「単純に…すごいと思った」。
 
第一段階が何かの作品を見て「すごい」と心を動かされることだとしましょう。
第二段階が「すごい」と口に出したり心で叫ぶことだとしましょう。
第三段階が難しい。それを表現するか、心に秘めるかです。
どっちでもいいんです。感動して自分の心に秘めるだけでもそれは素敵なことです。しかしいざ火が付いて「人に伝えたい!」「表現したい!」というステップに進むには、ものすごいカロリーが必要になります。あ、今カロリーっていわないのか。ジュール?
みよしは「すごい」という言葉しか使いませんが、彼女は実際に絵を動かすステップに足を踏み入れ、そのまま突き進むのです。
 
先ほども書いたように、この作品の面白い所は、突き進む彼女はそれを苦とも思っていないのですが周りは「変なやつ」「天然ぶっている」と最初冷たいことです。単純な愛されキャラじゃないんです。
動画サイトに自主制作アニメをアップするシーンもあるのですが、「www」などの定番の言葉の中に「絵下手だな」とぼそっと書き加えられているのが生々しい。みんなが感動するわけじゃあない。
それでもなおこの作品は突き進む!びっくりするほど止まらない。
同じアニメを作る漫画の「空色動画」は、友情とか青春とかいっぱい詰め込んでいましたが、こちらの「ハックス!」はまだその段階に至っていません。みよしとコジマ君ががんばっているくらいです。それでもなおこの本が引力を放つのは、みよしの中の「すごい!」が第三段階に進み、さらに第四段階「人にすごいと感じさせる」所まで足を踏み入れているからなのです。
 
感動したらまずは「すごい!」って言ってみよう。
「すごい」を人に伝えたかったら、何か考えて表現してみよう。
そうすれば、「すごい」が伝導していずれ…「すごい」の巨大な玉が出来るんじゃないだろうか!?
そんな期待、してもいいよね。
 

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青春漫画というより「すごい!漫画」という表現の方がぴったり来そうなこの作品。みよしの情熱と、「努力が苦にならないタイプ」の秀才肌っぷりがなんせ面白いのですが、それ以上に見逃せないのが…。

みよしちゃん、めっちゃ好みのタイプなんだ。
まずこの学校の制服、すげーレトロタイプなんですよ。みよしは小さいのでそれをだぼだぼに着てるんですね。やばい!超かわいい。もっさい制服大好きなんです。
あと、日頃から言っていますが、ムダによく動く女の子が大好きなので、みよしちゃんツボです。
んでここで恋愛沙汰などありそうなものですが、彼女の天然暴走熱血の性格は現実的には「なんかうざい」になってしまうという諸刃の剣、男女ともにそんなに相手にされていないのもまた興味深いところ。
彼女の周りの人間関係が、この「すごい!」を通じてどう変化していくかも見物です。
加えて、「オタク文化」への偏見もこっそり紛れ込んでいるので、そのへん悩んでいる人にとっても面白いんじゃないかと思います。明らかに隠れオタなみよしの友人の女の子キャラがいるんですが、クラスで「ハツネミクが趣味とか引いた」とか「萌えとかやめてよね」というさらりとした言葉に冷や汗をかくシーンはなかなか痛烈。そういうのありますよね。そんなのを気にしないみよしの笑顔もまた、対称的で今後どう展開するか楽しみ。好きな物を好きと叫べたら、いいね。

「空色動画」と「ハックス!」は同じ「高校生がアニメ」という題材を扱っていながら、ベクトルが全く違います。しかしどちらも熱くたぎるものが伝染してくる傑作。大好きです。大好きです。
 
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