「夏のあらし！」のOPで面影ラッキーホールを使うシャフトは、奇才か暴走か〜昭和日本の下層のリアル〜

WEB拍手より。

たまごまごさんは『夏のあらし！』はご覧になってますか？　OPの面影ラッキーホールもかなり強烈なんですが、本編中にも山本リンダやちあきなおみが流れてたりと、昭和歌謡がフューチャーされた作りになっているのが気になっています。サブタイトルも「プレイバックPart2」「少女A」です。
新房監督作品ですし、何か書いてくれないかなーとうずうずしながら待ってます。

…なんですって…！？
面影ラッキーホールが、「夏のあらし！」のOPですって！？
ちょ、な、何かの間違いなのでは…。
　

ほんとだった。
　
し、シャフトは奇才なんじゃないだろうか…あるいはすごい労力をつかって爆発させるバカなんじゃないだろうか…。
　

●悦びと哀しみラッキーホール●

まあ見ての通り、歌詞も過激なこの曲なんですが、そもそも「面影ラッキーホール」を知っている人だったら度肝も抜かれるというものですよ。
　
面影ラッキーホールは、一度はソニーで、歌詞があまりにもアレなために発売中止になったことすらあるというカルトすぎるファンクバンド。
知る人ぞ知る、知らない人ぞ知らない極端なグループです。
なんせグループ名でふるいにかけられますよね。ラッキーホールですよラッキーホール。
それってなに？という方も、もしかしたらいるかもしれない（というか現在壊滅していると思うので、１０代で知っている人はほとんどいないはず）ので、カンタンに説明します。
　
風俗の一種なんですが、実際に女の人と絡みあわないんですよ。
壁に穴が開いていて、その穴にちんこを突っ込むと壁の向こうで女の人が手でしごいて抜いてくれる、というシステム。
壁になにもないとさみしいので、ラクガキみたいな女の人の体が描いてあって、アイドルの顔写真を切り抜いて貼っているので気持ちも高まるという。一応若い女性がーみたいな口上ではありますが、誰が抜いてるか分かったもんじゃないです。
参考動画
はたしてこの動画を、最後まで冷静に見ることができるでしょうか。
　
アラーキーの「東京ラッキーホール」なんかを見ると更によく分かるかも知れないですね。

東京ラッキーホール

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わかりますでしょうかこの、猛烈なむなしさと哀しさ。それでいてただのベニヤ板の穴に群がる男達と、お金を稼ぐ女達のエネルギー。
本の内容はこちらが参考になります。
東京ラッキーホール
　
新宿歌舞伎町に渦巻く「性」と「生」と「死」のカオス。生きている限り抗えないけれども、そこに貪欲に執着し、一抹のむなしさすらが心をかきむしるこの感覚。
イメクラやキャバクラのような風俗も、確かにそういうどんよりとした命と性の不安と快楽がごちゃまぜではありますが、「ノーパン喫茶」や「ラッキーホール」のカオスさには到底かないません。
　
あわせて「面影」というのは、国産初のダッチワイフ「面影一号」からとられたもの。
一応医療用ですが、ダッチワイフの歴史は今も連綿と続く技術と性と生と悲しみと悦びの渦巻く世界。

南極1号伝説ダッチワイフからラブドールまで-特殊用途愛玩人形の戦後史

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ちょっと脱線しますが、ダッチワイフの歴史を、儚さから技術への感動まで描いている本。面白いです。
　

●昭和日本の底辺を這いずり回る●

面影ラッキーホールはまさに、そんな日本人の歪んだ性と死とを体現し続けているから、すごいバンドなんです。
歌で人生を語るとき、「がんばればいいことあるよ！」という応援ソングもあれば「体制に逆らえ！何もかも破壊しろ！」というロックもあるし、「人生は波と苦しみの浪花節だねえ」という演歌もあります。
しかし面影ラッキーホールのほとんどの歌詞は「ああ、もうだめだね」と人生の暗部をただひたすらに、絶望的に語りかけるだけなのです。希望なんて微塵も与えてくれないことのほうが多いです。
　
たとえば「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた･･･夏」と言う曲があります。もう題名でいやな気分満載ですね。J-WA○Kもがっかりだよ！
結婚したはいいけれど、飲んだくれで仕事しない旦那と慣れない子育てで心がすさんでいたお母さん。そのお母さんは神経限界まですり減らして生きているわけです。
そんなストレス人生の中の一瞬の楽しみがパチンコ。ほんの３０分、窓もあけておいたし、ほ乳瓶も置いておいたのよ！ほんの、ほんの３０分のはずだったんだけど…「代紋TAKE2」はかわいてくしゃくしゃに、「ミナミの帝王」のビデオはのびてしまい、そして娘は…。
という歌詞。
いやすぎる。あ、オチはないです。
ほら、人生ってオチなんてないでしょ、って言われているかのような重い気分になります。
　
個人的にインパクトが強かったのは「俺のせいで甲子園に行けなかった」です。
高校球児の少年が、甲子園行きまで決まって希望に燃えていたわけです。
しかし彼女がレイプされてしまうんですよそこで。
そりゃ殴るだろう？殴るよね？
そう、彼は殴った。そして次の日の朝新聞に載ります。
甲子園行きは、消されました。手のひらをかえしたように監督も、ナインも、実の親も、みんなが彼をけなし始めます。
甲子園に行けなくなったのは俺のせいだ、俺のせいなんだ…と。
いやすぎる。はい、オチはないです。
ほら、人生って（略
　
こんな感じで人生の、幸せとは無縁の暗部をとつとつと歌い上げるんです。子供ができたけど堕ろしたくなくて、腕にコンパスの針で好きな男の名前書いたりとか。特に性がらみでの人生の苦しみを歌い上げることが多いです。
　
逆にセクシャルでつかみどころのない、日本人の不思議な部分をどよどよと歌うこともあります。
「今夜、巣鴨で」では、幼い少女がおじいちゃんを好きになり、山手線にのって会いに行く話が歌われます。
もちろんそんな美談ですませるわけもなく、おじいちゃんと少女は体を重ね合うわけですが。この独特の雰囲気と淫靡さは実際に聞いてもらうしかありません。
その他にも、とりあえずこいつとならセックス出来ると思ってレイプした幼馴染みの女の子が孕んでしまって、その親父に殴られて飛び出したあと二人で必死にお金を貯める生活を送る様子、といういかにもありそうで怖いシチュエーションを歌う「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」など、不安にまみれて生々しい。
　
日本の、六畳一間、風呂トイレなしの部屋で、同棲はしてるけどお互いが何やってるのかわからない生活。時々男に殴られる。パチンコですっちゃったので、コンドームも買えない赤貧で暑さの中ごろごろしながらタバコの灰をこぼしている。仕事なんて見つからない。
そんな絵柄が永遠に続くかのような、あまりにもいやな後味のこのバンド。それを貫いているからすごいのです。
　

●面ラホの怖さ●

自分が初めて買ったのはこのCD。

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「代理母」
確か絵はケン月影先生。って時点ですごいじゃないですか。
ファンクのリズムに乗せて歌われ突きつけられる、人生の暗闇。ああ、いっそ「死ね！」とか「狂っているんだ！」とか叫んでくれたらよかったのに！
目の前にある事実だけを淡々と歌い上げて、目の前の闇がどこまで続いているのか、逃げ出して死にたくても死ねない気分になるもんだから、最初は一回聞いて怖くて聞けなくなりました。
また音がね。すごいいいのですよ。昭和の匂いが激しく薫っていて。
おそらく時期としては昭和４０から５０年代。バブルになるでもなく、世界は冷戦で不安に怯え、お金がない赤貧ぐらしの中で性を売ったり買ったりする、まさにラッキーホールのような空間をとつとつと歌い上げるのです。
どうしようもないくらい、怖かったんです。
　

●「夏のあらし！」に面影ラッキーホールを起用した理由？●

聞けるようになったのはずいぶんたってから。
目を背けたいほどいやな世界って、逆に言えば「気になって仕方ない描写」でもあるわけですよ。どっぷりはまりこみました。
なんせ日本語の使い方がうまい。そしてまぎれもなくここに描かれているのは日本人。
　
一貫して、暗い日本人の性と生と死を歌い続ける面影ラッキーホール。
ここまで書いて、ははあなるほどと少しだけ納得できました。
そもそも非常に健全なマンガである「夏のあらし！」になんで面影ラッキーホール！？とびっくりしたわけですが、あの作品の根底にも日本人の生と死が漂っています。
真っ青な空の下、明るすぎて逆に不安を感じさせるような、一瞬で過ぎてしまいそうな時間の中を。
描写されている内容も昭和の時代。そういう意味では面影ラッキーホールを使ったのはものすごい大冒険ながらも「是非やりたい！」という意気込みは感じられます。
決して「原作通りですね！」とは自分も言いません。さすがに仰天しました。しかし、こういう情熱を持っているのは嫌いじゃないむしろ好き！その気迫、最高だぜ。
　
シャフトはサブカルバンドを愛しすぎです。
だからそろそろ人間椅子を起用してください。
　
さて、OPのネタですが、２ちゃんねるでものすごいパワーを使って解明されています。
正直今までのシャフトのように「オタクなら知っている」というネタじゃないし、むしろ「その頃生まれてないんですが」というパロディばかりなのですが、…人間ってすごいよ！
『夏のあらし！』OP映像の元ネタになっているジャケット探し（２ｃｈ）
よくここまで…いやいやほんと感動しました。
第一話の題名が「少女A」だそうで。
あきな！あきな！あきなと言えばアッキーナじゃなくて中森！
　

Hしなくてごめんね、なんでもさせてあげるから、だから殴らないで、捨てないで、と懇願するのがあまりにも哀しすぎる一曲。心当たりのある人もいるのではないかと感じさせる、厳しいがゆえにやさしい歌でもあります。
でもPVの頭の悪さで相殺。さすがだぜ面ラホ！