たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

猪突猛進ウェンディの割と強引な冒険と、童話の闇の世界「ウェンディペイン」

 
えー。ぶっちゃけていいますとですね。
怪物王女」のスピンオフだと思っていましたすいません。
だってデザイン似てるんだもの!!(デザイナーさんは一緒だとかなんとか)。
 
そんなわけで表紙を見てもいまいちどんな話かつかみづらい本作なのですが、基本的にはウェンディが童話の国を次々と旅するというアクション物。
近年で童話物というと「月光条例」を思い出しますが、なかなかどうしてやはり童話ネタは調理次第でなんとも面白いんだなあ。
 

●快刀乱麻ウェンディ●

ウェンディと言って思い出すのはそう、「ピーターパン」です。
とはいえ、このウェンディ、原作のイメージとあまりにも違う。

むしろ魔女っ子状態です。
ウェンディって割とお姉さんチックなイメージ(というか実際お姉さん)がありますが、この作品ではそのイメージは皆無。思ったままに突き進み、がっしがっしと自分の目的のためにこなしていくファンキーお嬢様と化しています。
義理と人情の世界に突入するおとぎ話ネタ作品も多いですが、この作品は自分の目的が明快なうえ、ウェンディの芯がめちゃめちゃ通っているのでそのへんに惑わされないのも魅力。ようは「自分の目的のために動いてますから」と言い切ってるんですよ。
とはいえ、本当にどうしようもないときにはちょっとだけ手を貸す。自分の目的を果たすために他の人が助かるなら、まあそれもいいんじゃないの?女の子なんですがむしろダンディズムにすら似たものを感じさせるウェンディさん超かっこいい。
 
さて、勢いに乗って赤ずきんちゃんの国、三匹のこぶたの国、ピノキオの国、オズの魔法使いの国、親指姫の国と飛び回るんですが、ここで問題なのはそれぞれの主人公が「影」を取られてしまっていると言うこと。
色々設定は難しい部分があるんですが、簡単にいうとキャラクターのアイデンティティが無くなるんですよ。
実はウェンディもそのせいでこんな姿に。だからそれを取り戻すために旅を続けています。
 

●剥奪されたアイデンティティ

いやあ、この設定なかなかうまい。
というのも、おとぎ話の国のキャラの「アイデンティティ」って、作品のテーマそのものなんですよね。
つまりそのテーマをむしり取られたときに何が起きるかを、POPな感覚でざくざく料理できます。逆に言えばこの設定のおかげで、おとぎ話が抱えた矛盾や問題点も丸裸にすることができるわけです。

ちょっと意味深なシーン。
こんへんまだ語られていないので何とも言えないんですが、アイデンティティを失った他の登場人物とも関わってきそうです。
 
おとぎ話はキャラクターの性格一つ一つに理由があります。
たとえばそれは子供を戒めるための警告だったり(赤ずきんちゃんなど)心の純真さを描くためだったり(人魚姫など)します。
それが無くなると言うことは、致命的なわけです。
しかし、元に戻してアイデンティティを与えたら丸く収まるかというと、実はそうでもない。
覆水が盆にかえらないことも、あります。
現時点では割とほんわかよかったねーで終わる回が多いですが、オズの魔法使いの回などを見ていると、どうやら今後厳しい展開も待ち受けていそうです。

 

●まあせっかくだし、おとぎ話に萌えようか●

基本重い話ではなく軽快にずんばらりと進むため、出てくるキャラクターも個性様々。
たとえば赤ずきんちゃん。

これはおおかみがダメ人間だな。いやダメおおかみ?
つるんとした乳房という表現は始めてみました・・・房?とにかくロリぃです。なんだか大好物な響きだぜ「つるんとした乳房」!
赤ずきんちゃんの世界を「ロリコンだらけの国」にしてしまいました。
しかし赤ずきんちゃんの赤い頭巾が元々は生理や破瓜を表す、なんて説もあるくらいですから、だいたいあってる。
 
また、三匹の子豚の世界では。

ええええ。
さすがに「なんで?!」となりましたが、まあこの辺は読んでもらうと言うことで。
というか「ソーセージ屋の子豚」が出てきた時点で「どこから突っ込めば!」と思いましたが、突っ込まずそのまま流れました。すげー、これがおとぎ話の力か。
 
ちょっとしたネタも豊富です。

えーと、これ・・・鼻ですよねってことは。
 
こんな感じで軽快に楽しめます。
軽快ですが、きっちりおとぎ話が抱えている「闇」の部分も盛り込んであり、ウェンディが自分の思いを果たせば果たすほどドツボにはまりそうな雰囲気がぷんぷんしています。
楽しみながら、不穏な影を感じる・・・あ、それこそが「不安」でいっぱいに満ちている昔話系のおとぎ話そのものの存在にそっくりですな。これだから童話をおいしく調理した作品はやめられない。

月光条例」はもうちょっと人情芝居寄り。そもそも主人公の目的の位置が違うので、ざっくばらんに自分の目的を果たそうとしつつ、達観すら感じる「ウェンディ・ペイン」と比べるのも面白そうです。まあ「ペイン」ってくらいだから、なにやら痛そうですが・・・。
あとはさすが森見明日先生、という感じの痛さと軽快さ、プラスちょいエロさも全開です。ファンなら買っていいと思います。