たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

女の子二人の毒POP大活劇「そして船は行く」の完全版だ!

以前も何回か紹介していた、雑君保プ先生の「そして船は行く」完全版がとてもいいです。
どのへんが完全版かというと、実はこの作品1999年から連載はしており、旧単行本では4巻で終わっているんですがそれ不完全な終了をしています。
で、今回の完全版では、3巻までで旧4巻までの内容を収録、4巻目は完全描き下ろしという、まさに完全版。
今から10年近く前のマンガになるのですが、面白さとテンポのよさは全く色褪せていません。
 

●毒POP作家、雑君保プ先生●

ちょっと先に、雑君先生について書いてみます。
コミックゲーメスト読者なら、知らない人はいないであろう雑君先生。特に逆のキレと毒っぷりがあまりにも印象的で、絵を一度見たら一発で覚える作家さんの一人です。
真ん丸い顔にひょろっとした体で、突っ込むスキを与えないスピード感でネタを詰め込んで行く手法、非常にクセになります。

「そして船は行く」より。その他のゲームパロディや「ワールドヒーローズ」もこんなノリが随所に入ります。
 
クセになるにはちゃんと理由もありまして。
ものすごいアッパーなテンションでセリフが矢継ぎ早に繰り出されるんですが、その根っこにあるのはやたらとダウナーなコンプレックスやらトラウマやら、あっさりした死やら。ハイテンションなのにローテンションなんです。
これが見れば見るほどやめられなくなるというか。苦いのにうまいというか。雑君先生にしか描けないなあとつくづく思います。ゲーメスト時代にその洗礼を受けた人はかなり多いのではないでしょうか。
 
雑君先生は自分のことを「毒POP漫画家」と書いてます。まったくもっていいえて妙。確かにギャグ時の絵柄はかわいいし、とてもPOPなんですが、やたらと毒っけが強くて、なぜかハイテンションな反動のせいか物寂しい。
そんな意図的に計算されたバランスが絶妙な作家さんだと思います。
 

●女二人、参る!●

雑君先生のギャグじゃないストーリーマンガのすごさは、この異常なテンションのギャグを交えながら、確実に物語の重みをほんのちょっとずつ滲み出させる所だと思います。
どうしてもハイテンションギャグのシーンが麻薬的にじわじわくるため、そっちの印象が強くなって仕方ないんです。ですが、その裏でドタバタやっていたはずのキャラクターそれぞれの性格やら負ってきたものがじわじわと見え隠れしています。
ハイテンションであればあるほど、死のにおいもまた漂う。重い背景があるほどに、キャラたちは明るくイキイキしはじめる。なんだか不思議な作りなんだなあ。

このマンガ自体は、豪快な女二人組が海賊をなぎ倒して行く、爽快な冒険活劇です。
右が銃の使い手アン・ボニー。左が剣の使い手メアリー・リード。
セクシー&キュートな二人が筋肉ムキムキの海賊たちを、文字通りばっさばっさとなぎ倒して行きます。もうそれだけで楽しくて仕方ない。
 
完全に信頼しあう女二人組ってすごく魅力的、というか正義だと思います。
女の子二人組んだら、男なんてかなわないよ!
マンガ的には、ヤラレ役の男はでかい方がいい。もう絶望的なほどにでかい方がいい。腕握られたらつぶれるくらいの剛腕がいい。
あるいは死ぬほど悪人面な方がいい。いかにも悪そうな、死亡フラグビンビンにたってそうなくらいにベタな悪そうな顔の方がいい。
 
そもそも海賊の世界に「善悪」なんて存在しません。私利私欲のために戦っている時点で、全員善だし悪なのです。そういうもんです。
ヒロイン二人があまりにも豪快に海賊をなぎ倒して行く上に、明確に敵が悪役しているのでそのへんすごくさっぱりぶった斬られているんですが、なにげにヒロイン達のやっていることはとんでもなく極悪非道。そのへんを笑って済ませられるかどうかが鍵になってくるんですが、細かいことなんて強い女の前ではどうでもよくなるのもまた事実。
 
「かっこいい」を知っている女は、かっこいいんだよ。
 

●曲がらないもの●

1巻は途中まではとても軽快に冒険活劇一色です。あと毒POP。極めて高いテンションで駆け抜けます。
ところが後半、彼女たちがなぜ旅をしているのかが描かれ始め、作品は急に色を変えます。
 
彼女たち、途中まで全然悩む素振りを見せないわけですよ。もう何も考えずただひたすらに海賊をなぎ倒して行きます。それが気持ちよくもありますが、「なぜ?」という疑問を払拭することはできません。

絶対曲がらないんです彼女たち。
あまりはっきりとは描かれていませんが、おそらく数多くの人間を殺してきているはずです。すごくサラッとしか描かれていないですが、多分、間違いなく。
話は軽快ではありますが、その裏にとんでもなく重たいものも横たわっています。むしろそれがあるからこそ、決して曲がらず前に爆進し続けられます。
 
ギャグカラーがものすごく強いので、リアルな話が差し込まれると結構ギョッとなります。歯を削ってたら神経に触れた時みたいに。
でもアッパーな空気はそれらの「人生色々あるもんだよね」という神経の上に成り立っているのも、読んでいるとふんわりと分かり始めてきます。そうなると雑君先生のマンガはえらい面白いんだなあ。
 

                                                                                                                                          • -

 

もう旧版を読んでいる人も、今回の完全版で本当のラストが読めるわけですし、また改めて読みなおすのもいいのではないかと。
しっかり時代考証もされていて、小物を見ているだけでも楽しいです。
赤・青はゲーメスト時代からの色々なネタマンガ集ですが、シュールというかシニカルというか毒POPというか。突っ込みようがないくらいハイテンションだったり、かと思えばいきなりローギアだったりする雑君ワールドの集大成になっています。あの目玉キャラはほんとゲーメスト時代、頭から離れなかったなあ…。個人的に急に無音になるときの異常な物寂しさが好きです。