たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

澪の誕生日と、律のプレゼント。

「さて、と」
1月15日の夜更け。澪は、自分の部屋に持ち帰ってきた誕生日プレゼントを見渡していた。
「そんなに大人数じゃないのになんでこんなに大量なんだ?」
思わずそうつぶやいた。
平沢家で行われた澪の誕生パーティーに集まったのは、平沢姉妹、むぎ、律、梓、和、さわ子先生。7人だ。しかしその人数分にしてはどうも量が多すぎる。
「まあ、だけど…」
彼女は思った。
7人に囲まれて自分の誕生日を祝ってもらうなんて、今までの内気な彼女としてはありえないことだった。
なんだか、うれしいな。
澪は椅子に座りながら思った。
と、それはともかくだ。
やたらでかいのが幾つかあるんだけれども…とりあえず開けて確認してみよう。
 
一つ目。これはむぎのだ。
なんだか恐ろしいほど高級そうなお菓子が入っていた。
センスがいいなあと感じさせるのは、その箱がちょっとした小物入れになるようにできているところだ。
値段は…きっとすごいことになっているだろうから考えないようにしよう。
 
二つ目、これは梓の。
新しいストラップとシールド。
なんとも質実剛健な梓らしいプレゼントだが、ストラップがちょっとかわいいハート柄なのが彼女らしい。
これつけて練習にいったら梓、顔を真っ赤にして喜ぶんだろうなあと考えると、頬がゆるんだ。
 
三つ目は憂ちゃんの。
手編みのマフラー…っておい! あの子なんでもできるんだな! できすぎだろう。
うわー、恐れ多い…と思いつつもやっぱりこういうのは嬉しいもので。
気の利く憂ちゃんは、マフラーにウサギさん柄を織り込んでいた。至れり尽くせりすぎである。
 
四つ目は…さわ子先生のだ。
薄くて小さくて、軽い。
うん、CDだな。
……いやな予感しかしないので開けないで置こう。
 
五つ目。ここからがなんだかおかしい。これは和の。
やたら箱が四角くて重いんだけどなんだこれ…よいしょ…と。
ごとん。うわあ…な、なんだこれ。
いっぱい水みたいな液体がはいっている円柱なんだけども、下の方になにやらどろっとしたゲル状の物体が…ん?どっかで見たことがあるような。
近くにあったコンセントを入れてみると、下からもわもわと物体が浮遊し、液体の中をゆっくりと動きながらあたりを照らし始めた。
確かにこれはすごいものだ…けど、誕生日プレゼントのセンスとしてはなかなか特殊と言わざるを得ない。
 
鈍い光を見守りながら、六つ目の包みに手をかけた。
でかい。
でかくて柔らかい。
これは唯のだな。
とりあえず箱状ではないので、ちみちみと包装紙を破く。すると中からもこもこの耳が出てきた。
「うさちゃん!」
誰もいない部屋で、思わず口から声が出た。急に恥ずかしくなって肩をすくめるが、ワクワクは止まらない。
ゆっくり破いているのももったいなくなってしまい、どんどん包み紙を破く。
うさぎだ。うさぎのぬいぐるみだ。
とびっきり大きいやつだ!
澪は思わず目を輝かせた。
ビニールの包みをがさごそと取り除き、ゆっくりうさぎのぬいぐるみに触れた。柔らかい。ふわふわだ。
手をつないでみる。ふかふかしている。
ぎゅっと抱きしめてみる。
ぎゅっ!
『お気に入りのうさちゃん抱いて、今夜もオヤスミ』
自分で書いた歌詞を思い出して、ちょっと照れくさくなった。でも今夜はこの子と一緒に寝よう。
とびっきりの誕生日プレゼントありがとう唯!(あとおそらく、憂ちゃんも!)
 
はて、残りの一つが…ことさらにでかい。
というか、やけに軽い。
えーと残りは…律のだよなあ。
首を傾げながらその真四角の包装紙を突いてみると、どうもふにゃふにゃしている。
あれ? あれれ?
えいっ。
指で包装紙を突くと、穴が開いた。
「あれ?」
開いた穴に指を突っ込んで、びりびりと破く、中にはくしゃくしゃに丸めた新聞紙みたいなものばっかりしか入っていない。
「はりぼて?」
疑問符付きで思わず言ったが、確かにこれはりぼてだ。中には何にも入っていない。無駄にでかいはりぼてのプレゼント。いやプレゼントというにはあまりにもお粗末なゴミの塊だった。
「ふーむ」
澪は思ったほどショックを受けてなかった。
なんせあの律のことだ、という思いが先に立っていた。
毎年律のプレゼントにはヒドイ目にあっているんだ、ヘビのおもちゃだったこともあるし、リアルに動くゴキブリフィギュアだったこともある。今更何が起きてもそうそう簡単には驚かない。
 
そうか、毎年もらってるんだなあ。
律のプレゼントもどきをぐしゃぐしゃと丸めながら、澪は考えていた。
10年くらい、ずっと律はなんだかんだと私にプレゼントをくれた。毎年一緒に過ごしていた。
なんだかちょっと今考えてみると不思議なことだが、律の誕生日には自分もプレゼントしているし、気がついたら「いて当たり前」の存在になっていた。
だから、こんなわけのわからないものをもらっても不思議だと思わなかったし、不安にもならない。
「ふーん」
澪は自分でもあまりだしたことのない声だなあと思いながら、プレゼント?を眺めていた
 
ふと、下からチャイムの音が聞こえた。
もう結構夜遅い時間だ。
「はーい」
「こ、こんばんわー…とか…」
玄関を開けると、小さくちぢこまった律がいた。
「来ると思ってた」
澪はドアを開けると、律を中に入れた。
「えへへ、ばれた?」
「ばれいでか」
律は、澪の笑顔を見ると鼻をむずむずさせながら恥ずかしそうに笑った。
「びっくりしたよ、はりぼてなんだもの」
澪は玄関にしゃがみ込んで言った。一応もらいものだし、しかも律のことだからなにかあるに違いない。「なんだあれ」とは言わなかったし言えなかった。
「いやっ!だって!……私のが、一番大きいプレゼントでいたかったんだもん」
律がすごく小さな声で言った。
「その、見栄というかですね…はい、見栄です」
律が顔を伏せる。伏せた後、そっと目をあげたところで、澪と目があった。
あはは。
澪は笑った。いつものように、楽しそうに笑った。
それを見て、少しだけ張り詰めていたような律も顔をほころばせた。
「な、内緒ね」
「うん」
あのとき『プレゼントは家に帰ってからあけような!』と律が言ったのすらも、今となっては笑い話。
 
「で、本物のプレゼントを持ってきました」
律が玄関に腰かけながら言った。
「えっ、ほんと?」
澪は思ったままの言葉を口にした。
今まで割とネタはネタのままで済ませてきていた律だったので、この展開はちょっと予想外だったのだ。
「うん、本物です」
律はがさごそとポケットから、小さな小包を出した
「ちっさ!」
これもまた澪が思ったままの言葉だった。
「だからー、なんとなく大きくしたかったんだよー」
律がぷうとふくれて言った。
「そんな、子供じゃないんだから大きさなんて気にしないよ」澪がたしなめるように律に言った。普段は律もここまで甘えた声は出さないのだが、二人きりの時は特別。
 
「開けてみていい?」
「うん、開けて」
律と澪は、目をあわせて言った。
とても小さな紙袋。手のひらにおさまるくらいの、小さな小さな紙袋。
ピンクの包装紙に、くるくるとリボンが巻いてある。
澪は思う。
こういうのってほどくのがもったいないんだよなあ、と。
でももったいないのを開けることが出来るのが、誕生日という特別な日なんだとも、思えるようになった。
まあ開けたらいつも変なものが飛び出すのが律のプレゼントなんだけども。でも今回のはきっとそういうのはない、と何故か理由のない自信があった。
おそるおそるリボンをほどくと、中から小さな箱がでてきた。
音を立てて箱が開く。
「あ、ネックレス!」
澪は箱の中に入っていたチェーンを取り出し、右手にかけた。細くて優しい光を放つ、さらさらしたシルバーのネックレスだ。
ペンダントトップにはベース型のシルバーアクセサリーがついていた。ところどころに渋みがありながらも、存在感を湛えている不思議な光。
「きれい…」
澪は左手でペンダント部分を握っていた。完全に見入っていた。アクセサリーの種類なんかはよくわからないけど、この銀のベースが自分に話しかけてきてくれているのだけは感じる。
「すてき、すてきだよ律」
澪は律の方を向きながら言った。
律は体をくねらせながら答えた。
「いやその、ごめ、レフティの探したんだけどなくて…なんつーかそういうの恥ずかしくてさ、えーと、いやあもうなんか恥ずかしいな!」
「恥ずかしくないよ」
澪は律に言った。左手に握ったネックレスを、胸元にあてながら。
「ありがとう! ほんとはその、高かっただろとか色々気になるけど、なんて言えばいいかわからなくて、嬉しくてさ!」
澪が右手で、律の手をとった。
本当に嬉しかった、嬉しかったんだ!
今までだって嬉しいことはいっぱいあった。でもこうしてまた律が『嬉しい』を運んできてくれたことが、何よりも嬉しかった。
「ほんと?嬉しい?」
律は子供のような目で澪を見た。
「うん、嬉しい!」
澪も子供のような目で、律を見返した。
「よかった」律は首を傾げながら言った「お誕生日おめでとう」
「うん、ありがと」澪は微笑みながら言った。
「澪と一緒にまたいられて、よかった」
「うん、ずっと一緒、だろ?」
「うん」
一緒にいてくれてありがとう。
産まれてきてくれてありがとう。
いっぱい言いたいことはあったけど、照れくさくって言葉にならなかった。
言葉にならなくて、それでいいと澪は思った。
 

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お誕生日おめでとうございました、澪!
 

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