たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

戦え!ぼくらの「ガスマスクガール」

 
アマゾンで見るとすごくざっくりしたデザインで、パッと見よく分からないんですよね、この表紙。
これ帯がついて真価が発揮されるデザインです。
 
ガスマスクガール 1 (MFコミックス アライブシリーズ)
こうなる。
うん、これこれ!
こういうマンガなんだよ!
帯と表紙であわせ技一本。あわせて表紙をめくったところをマンガ読んだ後に見るとさらに面白さ倍増。
 
そんなわけで、「ガスマスクガール」面白いです。
ちと絵にクセがあるので読む人を選ぶかもしれませんが、「日常を過ごしていた少年」と「特別な力を持った少女」というパターンの構図をうまく活かしながら、力とはなんなのかを問うていく作品になっています。
 
正統派少年漫画でありつつ、かなりやってることは変化球。
そのへんやはり編集さんも分かっているようで…。

読者プレゼント、なんかおかしくね?
 

●撲殺ガール●

物語はいきなりネタバレから始まります。
都市伝説的に話題になっていた、「マスクさん」。首なし死体に紙袋をかぶせている不思議な事件に必ず出てくるマスクさん。その正体は誰もしらないはずだった、のに、実はそのマスクさんは、僕のクラスの女の子だった!
じゃじゃーん!
当に少年漫画の王道的展開、ですが、いかんせん起きている出来事に使われているガジェットが面白い。

ガスマスク+セーラー服+ガスボンベ。
なにがすごいって、この子ガスボンベでぶん殴って相手を撲殺するんですよ。
もっと便利なものあるだろうに!
と思うけれどもこのビジュアルはなかなか心くすぐりまくります。
 
一巻の後半になるにしたがって、それぞれの力をもった仮面をつけた能力者同士の戦いも始まります。
仮面と、それに見合った特殊能力。ガスマスクだからガスボンベ。
とても中二病的な設定、というのは作品の中でも自らネタにしています。

インターネットでガスマスクさんの話をしたときのネットの反応。
こういうメタ的な視点があるから、極めて大げさで仰々しいビジュアルもきりりと映えてきます。
いいじゃない、ガスマスク少女!
セーラー服のままってのがキモですね。ここものすごく大事。
もっと動きやすい衣装にすればいいのに?いやいや、セーラー服は少女のアイデンティティみたいなものですもの。
セーラー服で撲殺するってのがいいんです。
 

●なんにも出来ない僕●

この作品、いわゆる「巻き込まれ型」ではありません。
逆です。主人公の少年ワッタが、積極的に追いかけるんです。
どうにもならなくて逃げ場がないわけじゃないんです、むしろ逃げるべきなんです。けれどもワッタはガスマスクガールを追い回します。自ら足を踏み入れていきます。
どこにかというと、非日常、という世界へです。
 
少女が運んでくる非日常、というのはラノベやマンガでの大きなテーマの一つです。
読者の少年達は非日常を望んでいる、だけれども実際に起きては当然困るからマンガやラノベに託す。
そして、遠くから見て憧れる。いい構図です。どんどん非日常に憧れまくって、その分のパワーで新たなものを作り出せばいいと思うんだ。
 
ところが自分から非日常に足を踏み入れようと積極的になると、また話が変わってきます。
読者の意思がどうあろうと、ワッタはどんどんずいずい踏み込んで行っちゃうんですよ。
目線は、どこまでも強い憧れとしてガスマスクガールに向かっています。
だから読めば読むほど、ワッタの視線フィルターを通じてガスマスクガールこと氏家霧花さんは輝きを増します。一つ一つのアクション、行動がどんどんキラキラ輝いていきます。
 
かっこいいよ、ガスマスクガール
すごいよ、ガスマスクガール
 
テンション上がりまくりのワッタに対して、霧花の見てきたものは、そして現実は、限りなく残酷でした。

ガスマスクガールは正義のヒーローなんだ!」と大騒ぎテンションクライマックスのワッタに対して、冷水をかける霧花。
この自分の熱気と相手の冷静さのギャップに戸惑うことになります。
なんだろう? どういうことだろうこの感覚。
僕はガスマスクガールの力になりたいんだ。ガスマスクガールを助けたいんだ。
 
本当に?

全く別の能力の持ち主と出会ったとき、彼はワッタにいいます。

「君に出来ることは何も無い。だからこそ問いたい。君は一体何をしたいんだ?

ガスマスクガールやその他のマスクの持ち主は、自らの能力を持っているわけです。非日常に向かって突き進む権利があるともいえます。
しかしワッタはただの人間です。本当にただの人間です。
巻き込まれ型によくあるような、特別な血も、隠された秘密も持っていません。
極端な言い方をすれば野次馬なわけです。

一心不乱にガスマスクガールにまつわる事のために頑張っていたし、様々な謎を解き明かそうとすらした。
けれども僕に何が出来る?
なにもできないじゃないか。
当然戦う能力はない。相手を指示する知恵もない。撹乱する素早さもない。
いわば、足手まといでしかない。
一体僕は、なんのためにここにいるんだろう。
 
僕は無力だ。
それを知ることが、この物語のスタートラインでもあります。
 

●力の招くもの●


この世界での能力は、ワッタ視点だと「ものすごいもの」のように見えますが、実は逆に一般的には忌み嫌われているかのような匂わせ方をしています。
ワッタにとっては、ヒーローなんですガスマスクガール
しかし、世間一般からしたらガスマスクガール連続殺人犯扱いです。

こうして改めて見ると…
噂の中のマスクさんって本物とずいぶん違う。
多分、既に想像のマスクさんが、一人歩きしてるんだ。

マスクさんこと霧花の持つ力は絶大です。
しかし世間一般からは隠れ、しかも誤解を一身に背負うハメになっています。
 
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」
With great power comes great responsibility.
スパイダーマン」に出てくるおじのベンの言葉です*1
アメコミヒーローは割と何でもありな力を持っていますが、ヒーローでありつつも苦悩を抱えている場合が多々あります。
例えば「スパイダーマン」であれば「大いなる責任」によって、ヒーローとして生きるために自分の人生そのものを変えざるを得なければいけない決断が求められました。「X-MEN」では素晴らしい力を持っているにも関わらず、逆にそれはヒーローではなく「ミュータント」として差別扱いされました。
ガスマスクガール」も比較的その血をついでいるように思われます。

少女はかっこいいしめちゃくちゃ強いんです。ワッタから見たらもう憧れまくりなはずなんです。
だけれども、世間には殺人鬼扱いされているし、上のコマのように苦悩に責めさいなまれることもある。
力を持っているが故に、重荷を背負ってしまった。
この作品は、作者が、ワッタが、読者がヒーローに憧れる故に生じる葛藤に指を差し込んでいます。
その指が食いちぎられるか、はたまた温かく包まれるか、それはまだまだ分かりません。
少なくとも、ガスマスクガールはこう語ります。

後悔しちゃ、駄目だからね

凛々しく、雄々しく、力強い背中。
同時に悲しそうで、寂しそうで、苦しみに満ちた背中。
 
ここでガスマスクガールが女の子であることが生きてきます。
僕は、彼女のために何が出来るんだろう。
何もできない。
何もできないけれど。
 
作者が読者とワッタをどこに連れて行ってくれるのか、楽しみです。
ただひとつだけ、後悔せずに言おう。
「闘って!ガスマスクガール!!」と。
 

「御影石材」のプロフィール [pixiv]
カタミチキップ
マスクさん情報局
マスクさん情報局
男の子の方が女の子のよりも目がでかい、という変わった絵柄のせいもあって、とにかくワッタが幼く、そしてガスマスクガールが大人びて見えます。この比較は面白いかも。
能力バトル漫画としても楽しめますが、ガスマスクガールとワッタがどの道を選んでいくかの方が興味深くなりそう。
「力」っていったい、なんなんだろうね。
 

*1:ちなみにはじめてこの言葉が用いられたのはセリフではなく漫画のキャプションでした