たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

人の心を読めてしまう少女の苦悩は、必ず救われる。必ずだ!「琴浦さん」

もういろーーーーんな方から勧められていたWEBマンガの「琴浦さん」が本になりました。
 
これね。やばいスわ。
表紙一見すごくほんわかなごやか系のまったり4コマに見えるじゃないですか。
しかもストラップとか、立体フィギュアとかすっげーかわいいのが付いてて。「かわいいは正義」的なノリに見えるじゃないですか。
全然違うの。
もちろんゲラゲラ笑えるシーン満載なんですが、正直ゾクッとすることの方が多い。
 
とりあえずWEBマンガ版を読んでいる人はもう言うまでもないですよね。この漫画のすごさは。
ENOKIX(琴浦さん漫画) by enokids
こちらで全部読めますが、本の方は大幅に加筆修正されているので、WEB漫画版のファンは買う価値ありです。
 
漫画の本数がものっそい多すぎるのでいきなり一気に読むにはハードルが高いんですが、本の方は非常に読み易い作りになっているので、簡単に「ここが面白い」というのを紹介してみます。
 

●超能力なんていらない●

ヒロインの琴浦さんは最初、全然掴み所のない妙な子として登場します。
この子の能力は、相手の心を全部読み取って、会話のように聞き取れること。
面白いのは「聞こうとして聞く」のではなく、「会話のように耳に入ってきてごちゃ混ぜになってしまう」ということなんです。
この微妙な差が、今までのESP漫画と一線を画しています。
「聞ける」というのは、一般人からみた特殊な能力という見解。
「聞こえてしまう」というのは、超能力者からみた自分の厄介な能力という視点なんです。


しょっぱなからこうなんですよね。
琴浦さん、心完全に閉ざした状態から物語は始まります。
 
人に近寄れば、嫌なのに、聞きたいわけじゃないのに、傷つけたいわけじゃないのに心の声が聞こえてしまう。
そうして、みんなが傷ついていってしまう。
意図して読むことが出来るのであれば、それは自分の中だけに閉じ込めれば済みます。
しかし会話の声も心の声もいっしょくたに聞こえてしまうなら、自分の中で処理しきれ無い上に、相手の悪意の渦に飲み込まれてしまうことも、言ってはいけない秘密が秘密かどうかわからなくなったりもしてしまう。
これは相当に厄介なことです。
一見うらやましいけれど、聞きたくないことが聞こえるのは本当に心がすさむよ。
人間は黙する力を持っているから、コミュニケーションが取れる。
だから、彼女は「黙せない」「相手の声が黙してくれない」ため、人から離れていこうとします。

私がいるとみんな不幸になる。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
 

●受け止めるよ、ああ好きだからな!エロスだからな!●

これだけで終わったら本当に重くてしょーもないきっつい話になってしまいますが、「琴浦さん」が読み終わった後笑顔になれる素敵な漫画になっているのは、ちゃんとわけがあります。
それは主人公真鍋くんの存在。
普段は「事なかれ主義」で過ごしていた彼が、なぜか琴浦さんに惹かれていくんです。人を避けようとしている琴浦さんにちょっかいを出し始めます。
最初は好奇心にも近いことでした。なんせ琴浦さんかわいいしね! 
青少年ならエロイことも考えるよね!
気づいたら、「エロイ妄想をして琴浦さんに読み取らせて赤面させる」のが趣味になるという、とても紳士な男になっておりました。
うん。やるじゃん真鍋。グッジョブ!
 
しかし真鍋君は本気でいいやつなんです。ただのエロスじゃないんです。
琴浦さんのことがどんどん好きになっていくに連れて、自分の心が読まれてもいい、と覚悟も決めます。というか元々裏表のない本当にいい性格のヤツなので、琴浦さんに読まれても平気なんですよ。
琴浦さんは真鍋君の心を読んでしまうことを申し訳なく思っているんですが、真鍋君全く動じず。
むしろ読めくらいの勢い。
 
今までの人は、琴浦さんを気持ち悪がって避けていた。
琴浦さんが意図せず傷つけてしまった。
でも、傷つこうがなんだろうががっちり追ってくる真鍋君。
琴浦さんの心は、彼によってようやく開かれていきます。
決して彼女の能力がどうこう出来るようになったわけでも何でもない。変わったのは、彼女の気の持ち方。
 

●ラブ☆コメ●

途中から、琴浦さんと真鍋くんさっくり付き合い始めます。
だよね!
だって「好き」って気持ち筒抜けですもん。心読めるから。
まあそれだけじゃないんですが・・・ここは読んで!
このデレモードになった琴浦さんがもうね、かわいくて、死んでしまう。

ああっ!
心を読める少女の取る行動とは思えないピュアさ!
 
彼女はもっとどす黒いものや淫猥なものも目にし、耳にし続けているはずなんですよ。
でもね。青少年の本気の「好き」に勝るものなし! 
なにがあろうと、どんな苦しいことがあろうと、人を信じられなくなろうと、少年の純粋な「好き」にゃ勝てんのよ。
ディスコミュニケーション琴浦さんが心を変えようと踏み出せるようになったのは、ひとえに真鍋くんの(だけじゃないけど)おかげ。
正直琴浦さんかわいすぎるので「くそー、真鍋のやろうー」とおもわんでもないですが、ここまでいいやつだとむしろ真鍋くんを抱き締めたくなるレベル。
でも腹立つから、イチャイチャはよそでやれよな!by ESP研究会部長。
 
ディスコミュニケーション打破物語としても、いちゃラブものとしても逸品な作品。
展開は時折恐ろしいほどハードできっついです。が、必ずカタルシスがある。だから、本当に真鍋くんと琴浦さんが、愛しい。
 

●濃すぎるやつら●

その周りを固めるメンツもめちゃめちゃ濃いんですよ。
特にESP研究会部長の百合子さん。豪快でとっても頼りになるいい子なんですが。

これネタバレシーンじゃないんです。これが前提シーンなんです。
本当は言いたい話じゃないけど、琴浦さんは心が読めてしまうから、部長も言っちゃうんですよ先に。
いきなりヘヴィーすぎだよ。そんな話されたってどうすればいいんだよ!
 
百合子さんはまだまだ奥があるのでそのへんは実際に読んでもらうとして。
琴浦さんを恨んでおり、親が新興宗教団体の教祖という森谷さんがまた濃い。
設定だけでも濃いのに、キャラが濃くてもう大変。
 
無論、いい人ばかりじゃない。
けど悪い人ばかりでもない。
何もかも筒抜けに聞こえてしまう琴浦さんの苦悩はまだまだ消えない。崩壊した家族の物語も、人の暗部で出会うこともこのあと続き、どんどん重みは増します。
だけど、きっと、少しずつ、必ず、解決されるって信じたい。
信じられる。
 
琴浦さん」はESP漫画4コマですが、そこで背負っている重たい鎖は誰もが持っているものです。
第三部ではこんなセリフもあります。

ただの仲良しクラブってわけじゃなさそうだな

仲良しではあるよ。でもそうさ、人間関係ってそれだけじゃ測れないんだよ。そういうのを全部乗り越えた上で一緒にいるんだよ。
人間の歴史における最大の苦しみとも言える「相手とのコミュニケーション不和」を、このような形で描き、かつ「必ずなんとかなる」と力強く描いてくれるこの作品は、表紙じゃわからないとんでもない熱量で満ちてます。
 

「琴浦さん」特設サイト トップページ
ENOKIX(琴浦さん漫画) by enokids
うーん、やっぱフィギュア欲しいなあ。フィギュア付きも買うか……。
琴浦さん」はネタがヘビーなんだけど、絵柄とデフォルメ絵がかわいらしいのでマスコット的に昇華されているのが素晴らしいですね。
とりあえず真鍋くんと琴浦さんの恋の行方をそっと見守り……見守ってて大丈夫かなあ。エロスだし。
 
しかしアマゾンの解説がすごい。

琴浦さんはどこにでもいる普通の女の子。
でも、実は他人の考えていることがわかってしまうのです。
そんな彼女と、彼女にぞっこんラブの真鍋くんと、とりまき一同による、
笑いあり、萌えあり、癒しあり、ポロリはないけどホロリはある。

ぞっこんラブ!!!!!!
何十年ぶりに聞いたか!!!
でもあってる。ナイスキャッチフレーズ。