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ロボットは「萌え」を手に入れることができますか?「轟けっ!鉄骨くん」

ラブプラス+
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コナミデジタルエンタテインメント (2010-06-24)
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いきなりですが「ラブプラス」です。
ラブプラスについてはもうさんざん語られつくしていて、いいから語る前にプレイしてみるがいいさレベルだと思うのでここでうだうだ書くつもりはさらさらありません。
しかし、ラブプラスというゲーム(ゲームと言っていいのか?)に興味がない人でも、その現象には興味がある人は多いと思います。
実際、受け答えする少女はかわいらしいんですよ。だがその反応に対して、ネタとして使う「俺の嫁」以上に激しい感情を揺さぶるってのは、こりゃ尋常なことじゃない。
ここで浮かび上がってくるのはプレイヤー側の中の感情です。
プレイヤーによって全く変わってくるのですが、人によってはラブプラスいわば自分の萌えの鏡と認識している人もいる可能性がある、ということです。
自分の望むものを投影していくための最高のシステムをゲーム内に作っている、ということです。
今後少女達は3DS立体視出来たり、ジャイロ機能によって窓から覗いているようにもなるらしいですが、こちらの愛情、平たく言えば「萌え」を反射する鏡だとしたら、同じ愛花や凛子や寧々というキャラであっても「俺だけの愛花」なわけです。
 

という前置きをした上で、今回は佐藤マコト先生の「轟けっ!鉄骨くん」の話をします。
 

人工知能の代用品●

ぼくの大好物のロボットマンガ。どこが大好物かって、ロボットは何を考えるかロボットに対して人間はどう反応するかです。
まー見事にこの作品はその不可解な「感情」「羞恥心」「萌え」などをロボットを通じて描きあげました。
そういえば佐藤マコト先生といえば「サトラレ」の作者。
なるほど、心理が相手に伝わるという機微が論理的に描けるわけです。
 
たいていのロボットは、AIを積んでいる設定になっています。
と言ってもAIって現在は完成していないわけで、理論としてどのようにするかをモヤモヤ考えている段階。今後の展望も正直なところ相当きついでしょう。
梅干を見たら唾液を流す。これはロボットでも学習できます。
しかし、たとえば梅干を見て「おいしそう」と思えるかというと、それは感情なので出来ないわけです。
このAIの仕組みについては数多くのSF作家や科学者が想像を巡らせました。大量の情報の集積の中から一番最善のものを導き出せばそれが感情になりうるのではないか? ミスと経験の積み重ねで感情に似た回路を自分で作ることができるのではないか?
 
この「鉄骨くん」はとんでもないネタに走りました。
一定対象の脳の回路をコンピューターに移してコピーしてしまうという手段で「感情に似た何か」を産んだのです。

下町の科学者のオヤジが、息子石田公一の思考パターンをまるまるコンピューターにコピー。
そこから電波でこの鉄骨くんに思考パターンを転送して動く、という仕組みです。
よくわかりづらいのですが(一巻全部読んでもまだモヤモヤする部分が残されているので分かるわけがない)、簡単にいうと公一のコピーをAIのかわりとして利用しているのです。
だから鉄骨くん側にしてみたら、「俺が目の前にいるとはどういうことだ」となるわけです。
しかしどこからどう見てもロボット。思考だけ移したコピーです。
 
無論決定的な違いはあります。
一つは機械の体としての行動パターンは、別途自分で学習していくということ。
今ここでお遊びのようにドリルやらフライパンやらやっとこやらめちゃくちゃに取り出していますが、今後「驚き」や「怒り」のパターンを知ったときに機械としてどの行動を取ればいいのか、最善を学習していきます。これは人間の学習と同じですが、要はこの瞬間から「コピー」でありつつも一体と一人は別の道を歩むことになります。中身は同一人物なんですけどね。
もう一つは思考パターンは一緒でも、それを行動にうつすかどうかは別だということ。
これが「鉄骨くん」の一番面白いところになっていきます。
 

●羞恥心はどこからうまれるの?●


この作品はギャグマンガなので、唐突にオヤジも鉄骨くんも珍妙な行動に出ることがあります。
そもそも「頭脳をコピーしたロボットってアレじゃね?」という部分からして笑い飛ばしていいよという前提で描かれているので気楽に読めます。
まあこのシーンなんかもそうですよね。ロボットなにやってるの。
公一本体は割とクールで真面目な好青年。しっかりした青少年です。
しかし同じ思考パターンを持っているはずの鉄骨くん、羞恥心がほとんどと言っていいほどないんですよ。
公一側にしてみたらこれを見たら「なにやってんだよ!(でもオレの分身だよ!)」と、もーイライラ。
 
人間には社会的な地位や尊厳や責任や権利があります。
だから、おかしなことは基本的にストッパーがかかります。一番分かりやすいのは性欲でしょうね。性的に興奮はしても、相手にどんな思いをさせるか、自分がそれをすると社会的にどうなるかが分かっているから手を出さない。
しかし鉄骨くんは、気づいてしまうんです。
ああ、いくらどんなに頑張ろうがなんだろうが、自分は鉄の塊じゃないかと。

決死の努力で人の生命を助けても、壊れてしまえばゴミ扱い。
家電製品となんにも変わらないじゃないか。
となると、自分の地位はそもそも社会に存在しない。犬以下です。ロボットに尊厳なんてないんです。
だったらこれ以上落ちないんだから、羞恥する必要すらなくね?
カチャカチャ、ピコーン。
難しいことは考えません。だってロボットだもの。合理的な結論を選んだらそうなるだけです。
 
同時に、視覚・聴覚は脳に直結してはいるものの、性器は当然ありませんし、触覚も大量の情報でパンクしてしまうのでなし。所詮鉄骨です。
だからこそ乱暴な行動に出ない、出ても仕方ないというのが面白いですね。だから性欲がふくれあがろうと何もする必要がない。
でも中身は健全な青少年なので、女の子に「ハダカ見せてください!」と土下座するくらいのことはしちゃいます。
 
なんかもー、笑えるのを通り越して健気じゃないですか。
だって見たところでどうするの? どうもならないんだよ。
女の子の方も、どうせロボットだし見られたからってどうなるもんでもなし、家電製品の前で服を脱ぐレベルの感覚しかありません。鉄骨くんにしてみたらそれも分かっての上なので、まーなんかおいしいのやら悲しいのやら。
 
同じだけの性欲や、人を慕う感情は公一にもあります。
しかし公一は社会的に守るべきものがあります。それを人間の理性と思いやりで隠し、羞恥心を持ちます。
同等の人格を持ちながらも、理性はどこから生まれてくるかを解くカギの一つが、至極明解に描かれているからこの作品面白いんですよねえ。思考原理は同じなのに、行動の違う公一と鉄骨くんなのです。
 

●所詮ロボットだからこそ●

しかし、ロボットだからこそ人間側がとれる行動というものもあります。

とある少女と鉄骨くん(というか公一の思考)が葛藤をするシーンです。
これが公一なら、少女は拒絶をしたでしょう。人間だからです。
しかし鉄骨くんロボットじゃないですか。だからこの少女、一番大事なこと言えちゃうんですよ。
だって、家電製品と同じだもの。中身は公一だとわかっていても、やっぱりロボットはロボットなんです。
 
このへんの感情は興味深いですね。
たとえば大好きな人がいても、その人に恋人がいるとか、あるいはなんらかの原因があって近づけない場合、「好きだ」とは言えないわけです。それが人間の理性です。
しかし相手がロボットだったらどうでしょうか。ロボットに今のところ人権はない。だから無碍に扱って捨てることもできますが、逆に「好きだ」というのも自由なんです。
むしろ、「好きだ」って言いやすいですよ。相手の感情とかよくわからないんだもの。しかも言ったところでどうなるわけでなし。
 
何かにたいして「あいしている」「好きだ」または「嫌いだ」などのような感情の爆発をぶつけることは、自分の中に眠っている様々なものを引っ張り出してきます。
DSの画面に初めて「あいしている」といった時のドキドキ感を経験したことのある人なら特に分かるんじゃないでしょうか。
ラブプラス」は場合によって「愛してる」と言わないと起動すらしないことがあるのです。コナミは「二次元の壁を破ってこい」と言ってるよね!
 
このシーンは女性がロボットの鉄骨くんに対してのシーンですが、ちょっと逆も見てみましょう。

オヤジは鉄骨くんの思考(つまり公一の思考)に沿って「反応」をするロボットを作りました。名前はマナカちゃん……いや、オヤジ、ラブプラスにはまりすぎだろう。
まあそれはさておき。
鉄骨くんは公一の「思考のコピー」が「学習」をするAIもどきです。まあ、コピーなので「もどき」。
マナカちゃんは「相手の思考に反応して一番最善の行動をとる」というロボットなんです。
だから自律型、AIじゃないんですよ。AといえばBが答えと返す、そちらに近いです。
しかしこれも究極のロボットのあり方の一つですよね。
考えても見てください。自分の脳波を読み取って、一番ドキドキする反応を取ってくれるロボット少女がいたらどうですか?
買うでしょう? 僕は買うよ!
ただ、それはAIじゃないし、心はないですけどね。あくまでも自分の深層心理の鏡です。
ここで「これこれこういう行動を取るロボットだったら僕は買う」と言いたいところですが、正直自分の本当のアニマはわからんです。
自分が認識している萌え=アニマとは限らないですし。
それを無意識の中で見せられたとき、人は二次元に恋をするのかもしれません。
 
夢のない話をすれば、無限大にありそうな行動でもやはりパターンはあるわけで、大まかに一つの反応に対して千通りくらいまで絞り込んで、その中の一つを最適な時に最適なチョイスで見せてくれれば、わりとコロッと人間はロボットに恋に落ちる気がします。
ん? 逆に言えばそれならAIじゃなくても可能かもしれないので、夢があるのかな?
ん?ん?
分からなくなってきましたよ?
 
本当の幸せってなんなんだろう?
ロボットについて考えることは、人間そのものを考えることに跳ね返ってくるのではないかと思います。
泣き笑いできる「鉄骨くん」は、非常に哀れでありつつも、羨ましく見えるのは自分だけでしょうか。
 

ロボットだから感情が表情に出せない。そのため毎回表情をペンで自動的に書いてはけしているのが笑えます。笑えつつ悲しくなります。
鉄骨くんは愛を見ることができるのでしょうか。それともそれは単なる反復による学習にすぎないんでしょうか。