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日向まさみち「ロンリー・コンバット!」に描かれる、ロリコンという名前の業

ロリコン先生が生徒を本当に愛するのは悪いことですか? 日向まさみち『ロンリー・コンバット!』(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
 
エキサイトニュース書かせていただきました。
にしてもねー。

すごい劇薬読んじゃったなーという感じ。
本当に、ロリコンに向けて描いた、ロリコンの文学の誕生、という感じです。
かなーりキッツいタイプの。
文体はすごいライトです。ラノベかと思うくらい。
でも内容と描写はラノベよりリアリティ重視でハード。
ラノベと文学の中間にいるような不思議な作品なんですが、それがこの作品の「ロリコン先生と女子中学生」という設定にしっくりくるから不思議。

 
とりあえず読む前に種明かししたら面白くない作品だと思うので、詳しい内容は読む前は上記リンクを見ていただくとして、感想は伏せて書きます。
 
 
 
 
 
 

ほんと、ロリコンであることの覚悟」を描いた作品だなあとしみじみ感じました。
愛とか努力で勝ち取ってほしいっていうのは物語に求めたいじゃあないですか。特に年の差恋愛ものだったら、その壁は乗り越えて欲しいわけですよ。
でもできない。
できないというかしない。
いわば諦念哲学みたいな作品です。
 
入り口がすっごい軽いんですよ。
ロリコンだから塾講師になりましたーって。アウトー!ってこっちも気楽に突っ込める。
文体も最初の方はラノベのノリですし、「みつどもえ」「イカ娘」などのネタが入っているのでオタク的にも楽しい。
日向まさみち先生、マジチャンピオン紳士。
特に「みつどもえ」ネタが細かくて、ヒロインの都との会話では大いに笑わせてもらいました。そうかー、三女さん派かー。僕は宮なんとかさん!
 
そういう気軽なノリから、恋愛になってしまった状態で直面する現実が痛い痛い。
いや、痛いなんて言葉じゃ軽いなあ。
ロリコンであるという「業」を背負っている状態がガッチガチに描かれているんですよ。
そもそも主人公が都を好きになってしまうのは子供だからなのか、都だからなのか、読んでも判別出来ませんし、おそらく本人もそこで行き詰まっていることでしょう。
都の方は恋ですね。ただし女子中学生の恋です。
 
だからこそなんですが、「幸せ」という言葉の意味がわからなくなる作品です。
ラスト寸前までは割と安心して読めると思うんです。
といってもかなり異質。
ロリコンだからこそ、人一倍立派であろう、信頼される人間であろうと必死になる、という姿を描いている。ロリコンであることをよしとせず、自分の背負った重荷であることを明確にしている。
言葉として分かっても、世間の目が認めない、というのは主人公が塾講師という設定が引き立てていると思います。
おそらく描きたかったのは、ロリコンが悪いわけじゃない、でも認められることはない」という諦念の覚悟でしょう。
ロリコンが悪だとは描いてないんです。むしろ主人公、他のキャラよりはるかに誠実です。
でも、決して彼は許してもらえません。
ぶっちゃけ何にもしてないのにね。冤罪の話のくだりはゾッとするものがあります。
 
ラスト賛否分かれると思います。
まさかの選択ですよ。そっちなの!?って。
自分もすっごいモヤモヤします。作品がそう言っているからいいんですが、本当にそれでいいの!?って。
都と一緒に新しい道を探すという幸せの道を閉ざしてしまった可能性については?とか。
実は言い訳にして逃げているんじゃないのか?とか。
なんか素直に「その諦念はいいね!」って言えないんですよ。
 
納得ができるのは「ロリコンは、ロリコンの願う性癖を満たすことは決してできない」という部分。
これは間違いないです。主人公がここはちゃんと心得ていてよかった。
でも、だからといってあのラストが最善なのかどうかが全然分からないんです。
 
このね、「モヤモヤさせられた」時点で、日向まさみち先生に負けたね!
男性ロリコンの中にある、なんとも言えない罪悪感が恐ろしいほどに揺り動かされて、このラストについて考えることで鏡になって自分の姿が見えてくるんです。
なので、最後まで読んで欲しいんですこれ。文体はほんとライトだから読みやすいですし。
 
ふっと、関谷あさみ先生の「YOUR DOG」を思い出しました。
ちょうど対極ですよね。
大雑把に言うと、援交ビデオを撮っていた男性が、少女への情がわいて猛省する話です。
しかし、実際のところ主導権を奪われていたのは男性側で、少女側の方がある意味純粋な愛情で、ある意味したたかで、はるかに大人なんですよ。
「ロンリー・コンバット!」のラストはそういう意味では、男性的だなーと思います。
女性から見たら、どう見えるんでしょう。
少なくとも少女漫画だったら別の展開になるだろうなあ。
 
主人公の選択に納得はいかないものの、じゃあどうすればいいかってのも分からず。
一応この作品自体はロリコンの諦念についてがテーマではありますが、ロリコン以外でも当てはまる作品だと思います。
文体とサブキャラ達がマンガチックなので一瞬騙されそうになりますが、人間の背負った性と愛に対する、永遠に解けない問いのような気もします。
そこにきて、あのカバー裏な!
最初なにかと思ったらそういう意味ですか!
ひどいよ!(泣きながら)
でもそうかー、そうよなー。そうだよなー。
 
主人公の友達や先輩の「いい人」な部分に期待しつつ、彼がただ諦念と「ロリコン」の十字架を背負うのではない、と信じたいところですが。
ですが、もし十字架ならば、鍵のかかった部屋に閉じ込められて、ジクジクと腐敗する気持ちと闘いながら、「よりよく」生きて見せるしかない。
なんでしょう、読む日の気分でラストシーンのイメージがガラっと変わりそうな、玉虫色した作品だと思います。
 
本当にロンリー。
主人公の気持ちがロンリーでなくなる続編が見たいです。が、そこは読者が考えるべきところなんですかね。
 
ラノベ的でありながら、文学的。
このあり方で、20代・30代読者層を狙い撃ちしているとしたら、かなりすごい精度の作品。
その年令の男女に読んで欲しいです。
 
ああ。
「なかったほうが幸せ」という理論には抗いたい派ですが、これに関しては抗う術がないなんて。
罪な作品ですまったく。一生忘れないですわこれ。