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ここがわからないよ。『第三世界の長井』10の謎を考える

ながいけん閣下『第三世界の長井』に絶句(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
 
第三世界の長井 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス) 第三世界の長井 2 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
あちこちで言ってますが、二冊まとめて読まないと本当に一巻で挫折する可能性大の、難解マンガ『第三世界の長井』。
ギャグマンガかと言われたらギャグマンガなのかもしれませんが、むしろギャグマンガの裏側の不安を描いた作品に近いです。
で、『神聖モテモテ王国』(キムタク)も深読みすると面白いマンガでした(当時はそんなの考えもしなかったけど)。
M2
ここの考察がすごい。
つかそもそも、キムタク終わってないよ。
 
で、この『第三世界の長井』もそのまま流されて笑えるところは笑い、不安なところは不安になって、考察しないほうが今はいいのかもしれません。
けれども比較的露骨に、この『第三世界の長井』にはいろいろな意味合いがあるよ、というほのめかしが二巻以降激しく入っているので、そういう意味では破滅的ギャグではなく、どこか頂点か奈落の底かに向かおうとしているマンガでもあるんです。
 
こうかくとアレですが、ほんとあらすじの説明できないんですよ。
「整合性が壊される」ためのマンガですから。
最初は落書き絵の長井とかコピペ博士で笑えますが、どんどん、どこを笑えばいいのかわからなくなる壊れ方に、不安ばかりつのる作品です。
 
自分では謎とかまとめる力全くないっていうか、これもっと読まないとわかんないよ、の世界です。
でも相当に考えて作られている作品なので、本当になんにも意味のない流れ、ではないと思うんです。
 
ぼくが読んでいて「?」となったところや、「ひょっとして?」となってネットで調べたところをちょこっと挙げてみます。
以下は読んだ人向けのネタ出しです。
でもネタバレなんかになったもんじゃないです。だって、そういうレベルじゃないから。
本の紹介は上の記事でかんべんして。

 
1・第三世界ってなによ
現時点で説明なし。
考えられる案をいくつか列挙。
・文字通りの第三世界(西でも東でもない発展途上国)。つまり長井は発展の最中だという考え方。
ドイツ第三帝国の掛けているのかも。
・『神聖モテモテ王国』のこと、かもしれない。お父さんの話題が多い=ファーザー、とも深読み。
・『チャッピーとゆかいな下僕ども』『神聖モテモテ王国』に続く三番目の世界。
チャッピーとゆかいな下僕ども 大増補版 神聖モテモテ王国[新装版]1 (少年サンデーコミックススペシャル)
・現実、虚構、人によって変えられる世界、という第三世界
ながいけんの世界、編集や読者の好み、翻弄されるキャラクター、という第三世界
ひとつ確実なのは「長井は変わり続け、長井によって世界も変わる」ということ。
 
2・神ってなによ
神の名前は本人は一切語っていません。
「ショウ」と二巻ラストで呼ばれているけど、本人は「勝手にショウとか呼ぶな。俺はもう一人だ。名前なんていらねえ」と言っています。
子供の姿だけど、間違いなく強力な力は持っている様子。ただし「この世界」=「長井を中心とした世界」においてのみ。
この世界の真相を知っている、と確定しているのは、神(ショウ?)と音那、謎のスーツ男女達。
帽子に目玉マークのロゴが入ってますが、これが背広の男によると「ゴッド・メンシュ」らしい。
ゴッド・メンシュが本来の通りなら、ヒトラーの2039年予想にある「神に近づいた人」「神人」という意味。
となると、それに対するのは操り人形、ロボット人間、ということになります。
二巻ラストでうるるが語る「永井は空虚で無価値な世界の中心でわけもなく一人踊る虚無の王」と繋がる可能性もある・・・かも?
一巻P60にある「セル・オートマトン」分類の話とは確実につながりはありそうです。
セル・オートマトン - Wikipedia
単純な機械的活動の組み合わせが産む、人間の複雑な形、の意味か?ちょっと不明。
で、このマンガの中の人類は二極化するのか? いやもうしているのか?
少なくとも、この「長井がいる世界の人間」ではありません。別の次元の存在で、この世界に手を下そうとすればできてしまう存在です。
 
3・博士ってなによ
長井があんな落書きみたいな容姿になったのは、一巻69ページの落書きのアンカーのせい。
だとしたら、「主人公」である長井は元々存在して、アンカーによってこういう姿になった、と考えるのが妥当なところでしょうか。
もし「主人公」の長井以外、アンカーによってどんどん生み出される(変えられる)としたら、コピペな博士は設定19「主人公は博士の命令でたったひとりで世界を守らされる(匿名)」によって産まれた人物。
(一番古い「博士」記述は設定8の娘の話だけど、もっと前にあるかも)
ようは、アンカーによって、長井が泣きながらメッタ斬りにした馬謖と同じレベルの、作られた存在だと思われますが、不明な点の方が多いです。
神の話によると「……あいつや博士だってたぶん元はもっと普通の奴だったんだろ?」(二巻P7)とあるので、元々普通の人だった可能性はかなり高い。
神でも、長井と博士がいったい何なのか理解できていません。知っているとしたら音那だけか。
極度に異常なのは、長井・博士・お父さん。この三人はアンカーがめちゃくちゃ多い。アンカーが多重化すると奇怪度が高まり、アンカーが少ないと軽度な変化しかない(記憶だけとか)のかも。
 
4・「表層」ってなに?
一巻30Pで出てくる音那の発言「……お前は表層だけを見て、そこから推察するつもりはないのか?」
これが作品のテーマの一つになっているようで、ようはどんどん整合性を失いめちゃくちゃになる世界が「表層」、それを作り出してしまっているのが「アンカー」で、アンカーが入ること=外部からの意思で、表層は乱れているのがこのマンガ。
一巻P61のセリフ。「コンテクスト不在のテクストによる重層的決定から誤配される差延
難しい言葉使いたがってわけわかんねーよっていう笑いのネタではあるんですが、素で受け取ってみます。
「コンテクスト」は、コミュニケーションに意味を与えるための背景や情報のこと。
つまり、『第三世界の長井』の世界では、キャラクターに背景や設定、会話に意味が存在していない。コンテクスト不在です。
だとしたら、この作品は表層的には読んでも「わかるわけがない」のが正解。
逆を返すと、なぜキャラクター・人間(表層)に、背景や意味がないのか、になります。
神(ショウ?)の話だと、彼はこの長井のいる「世界」を見放していることになるからでしょうか。
 
テクスト(物語)が「アンカー」という「設定」によって何重にも上書きされることで、整合性を失い、「表層」部分、見えているマンガの部分が崩壊していっている、というのが背広の男の説。
ただこれも明確ではなく、あくまでも彼らの推論です。
ちぐはぐになった結果としてわかりやすく、非常に重要なのが、一巻でヘリが落ちるシーン。
ギャグマンガではヘリが爆発して落ちる(意味)なんてよくあるシーンです。しかしリアルマンガの文法(表層)で描くと、全然笑えないショッキングなシーンになる。ここで表層と意味の「ズレ」が起きてます。
同じように二巻P887の火山噴火も、ギャグマンガ的出来事なのですが、表層に見えるのは大惨事。
 
神のセリフ「ただのジェノテクストじゃねえ。こんな半端なのは……」とあるのも鍵になりそう。
「ジェノテクスト」は意味の生成。それによって生まれる表層が「フェノテクスト(こっちは出てきてない)」。
神がや音那はジェノテクストとしての狂った「アンカー」を見ながら、「表層」の歪みを確認している、ということになります。
 
もう一つ一巻P89のセリフ。シニフィアンの多義分割連鎖による歪みが先駆的決意性を通訳不可能にしてるのか」
シニフィアン」は記号表現のこと。ようするに「長井」とか「博士」とかの絵や文字、見ているマンガそのもの。出て来ませんが「シニフィエ」というのが、それに直結するはずの意味や概念のこと。
「設定」による記号的な「マンガ」が多義的に、矛盾していてもくっつけちゃっているので、歪みすぎてしまって意味をなさなくなっている。表層的には。
一巻P91では「物理法則を超えた場合、その時点で象徴秩序の投射により観測不能となる」と言われているので、矛盾が続いてもこの世界は成立してしまうけれども、表層部分が物理的に完全に壊れた場合、見ることすらできなくなる(でも「存在」はしてしまう)ことも示唆しています。
その深層部分、意味部分についてを、神と音那が探っています。
自分でも書いててよくわからないので詳しい人に任せる!
 
5・UFOなんで出てきたの?
宇宙人が次々出てきて長井と戦いますが(これは後述)、一巻に出てくるUFOはちょっと異質。
見るからにUFOだったので、もちろん宇宙人と同一と見ることもできます。アダムスキーです。
ただ可能性としてありうるのが、UFOは歪み・ひずみが生じた時に見えるという現象としての考え方。
一巻ラストで意味の分からない突風が吹いて、神は半端だというのですが、これも同じ可能性大。
アンカーでわざわざ「風が吹く」「UFOが出る」ってないですから、神が言うように「中途半端」。なら何かの「現象」の方がしっくりきます。
ゆがみ・ひずみを生んでいるのは音那の可能性大。次はアンカーか。
 
6・アンカーってなによ
正式には「エクリチュールアンカー」。単純に考えるとイカリやクサビ。エクリチュールの意味は「書かれたもの」。あるいは「書く」行為そのもの。
極めて近いのは2ちゃんの「安価」だと思います。
ただ、安価は「これからの行動」に対しての指針であるのに対し、こちらの「アンカー」は「今までの設定」上書きできるのが決定的な違い。
「アンカー」はながいけん先生自身が作っているのではなく(作っているかも?)、編集さんや知人の漫画家さんなどによるもの。
もし、表層と深層のズレと世界の崩壊を、他人からもらった本人もわからないアンカーで作っているマンガだとしたら、ちょっとこれやばいよ。とんでもない実験作だよ。
「例えて言うなら……映画の設定や脚本を、スポンサーの息子が無理やり書き換えちゃった様なもんですか。スポンサーにゃ逆らえないから……監督もその歪んだ設定やら脚本で、できるだけまともな映画をでっち上げなきゃならない」(一巻P71)
ちなみに、「アンカー」の通りに全て動いてしまい壊れてしまう理由は不明ですが、「アンカー」にないことはできません。
(例・アンカーにないので、長井はヒーローの変身が解けない)
神が放置したことによって破壊され、奇怪にアンカーで再創造されている可能性が大ですが、二巻ラストでは「冗談じゃねえ、世界は俺のもんだ」と言う意思表示も。
実際、彼自身わかっていないですが、神自身の意思でアンカーを上書きして、キャラを「殺す」(抹消する)こともできるようです。
 
7・長井以外の人間は全部アンカー生成なの?
違います。アンカーの重なりによって変異させられていますが、アンカー絡んでない「普通の人間」の方が今は多いです。今は。
先ほどの博士が「たぶん元はもっと普通の奴」だったように、一巻P73で出てくる長井の友達、オタ丸、関羽張飛は、名前こそアンカーで決まっているものの、思考回路は普通です。
ただし、長井のアンカーによって、全く別人になる可能性も、死ぬ可能性すらもありうる。
今はアンカーが少ないので、かろうじて普通にとどまっているキャラです。
ここから、長井のアンカーは全人類に及ぶ可能性があるというのがはっきりします。
例えば「長井以外は実はみんな女性だった」と誰かが設定を加えれば、博士もオタ丸も、それどころか地球全人類が女になります。
一巻P84で友人側がこれをフォリ・ア・ドゥと呼んでいます。
「フォリ・ア・ドゥ」とは感応精神病(一人の精神症状が他の人に影響を及ぼすこと。こっくりさんの影響を受けたり、同時に幻覚が見えることなども広義で含む)のこと。第二話タイトルも「虚構とリアルのフォリ・ア・ドゥ」です。
アンカーが少ない人間は「異常」と考えますし、軽度でも感染する程度。アンカーが重なりすぎるともう取り返しがつかなくなる、ヘタすると殺さざるをえない、と言ったところでしょうか。

 
8・長井の戦ってる宇宙人ってなに?
マンガの中にある説は2つ。
一つは博士の娘うるるが言っているアンチテーゼ。「今ある世界を否定する力が受肉し顕在化したもの達」(二巻P83)。
うるるの解説によると、この世界(長井の狂った世界)の「主人公」が長井。アンチテーゼ(宇宙人)は、長井を殺して世界の主人公になろうとしている次の主役候補のこと。
うるるのこの説は非常に的を射ていて、この作品のテーマになりそうな「この世界は主人公を中心として狂う、空虚で無価値な虚無の世界」の話につながりそうです。
もう一つは、音那が意図的に、狂った世界を正すために介入しているという説。二巻P99の背広の男たちの仮説です。
長井のアンカーがこのままだと本当に世界を破壊してしまうので、それを阻止するべく音那が、上書きはできないけど、実力介入している、ということ。
つまり音那には別の流れでアンカーを打って人物を生み出す力があることになりますが、現時点ではにおわせているだけで全く不明。
神側は「生み出す」シーンはありませんが、「殺す」ことは可能=アンカーの上書きは可能なようです。
最悪、神が邪魔な人物・キャストを消そうと思えばいつでも消せる可能性がある。
 
9・音那って何者?
わかりません。
すべてを知っている人物で、神とは敵対関係、というのは間違いないようです。
みなは「ねな」と呼ぶのに、神だけ「おとな」と呼びます。また音那だけが神を「ショウ」と呼びます。
神は彼女を「悪魔」「詐欺師」とも呼びます。
二巻ラストで「創る事は壊す事……ショウ……今は手に入れたすべてのものを捨て去る覚悟を持て」と言っているので、神と同列か、似たくらいの力はある様子。
神よりもこの世界を見て、理解しています。おそらく本作で一番すべてを見ている存在。
このへんは今後の展開でわかるのか、わからないのか。最も鍵になる人物の一人。
 
10・うるるって何者?
超重要人物。彼女のことがわかれば、このマンガのヒントが見えるはずです。
二巻P18で、アンカーによって変化の瞬間が見えた唯一の人物。元々は長井の友人でした。
最初は髪の毛の色が黒から青(二巻表紙より)になるだけで、友人達もなにも感じていませんでしたが、次第に友人達の中から彼女の存在が消えていくことから、アンカーによる上書きは少しずつ変化させるというのがわかります。
「うるる」という博士の娘になったのは、設定8「博士には娘がいる(匿名)」のアンカーから。
他のアンカーが絡んだキャラは、最初こそ「気持ち悪い」「不気味」「不思議」と驚くのですが、次第に慣れていき、狂った世界に馴染んでいきます。
二巻P62、ラーメン戦を目撃した少年が、驚きから興味を無くす流れがまさにこれ。アンカーに侵食されます。
ところがうるるは、この世界の人間なのに長井がおかしいことを理解しているのが、このマンガの謎の一つ。
長井の狂いを理解しているのは神と音那と背広達だけのはずなんですが、うるるは妄言にしては妙に的確で、長井の歪みをわかっている。
見た目は黒髪少女から打って変わって、頭にゼンマイ、黒ナース服とまるで朝の特撮(石ノ森風)に出てきそうな格好ですが、妙に冷静に長井の狂いを見て、利用しようとしています。
二巻ラスト「それにうるるにはわかるの……世界はこれから長井にふさわしく、際限なくくるっていくわっ」
これが妄言なのか、真意を知っているのかは現時点では不明。
二巻P59のラーメン星人が、気を取り戻したように「か……関係ないから……あたしのせいじゃないし……」と言って去ってしまうように、一部の人間にはアンカーの上書きが弱くて、元の人格が残っている可能性もあります。
だとしたら、うるるは、
・元の女の子の意識がある中で「うるる」を演じている。
・客観的に状況を見て長井の様子がおかしいのもわかっている。
・長井のことについての知識があるのは「博士の娘」という設定アンカーのせい。
という可能性が出てきます。
 
11・誰が一番かわいいとおもう?
ラーメン星人ヴェーレ。
中二病でもラーメンで実写版デビルマン
 

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限界だ! 続きはまかせた!!!! 誰かブログ書いて。
謎だらけすぎてキリがないですが、じっくり読んでいくと笑えなくなってくるマンガです。
多くの人が言っていたのが、『神聖モテモテ王国』のようなギャグマンガの裏の面なんじゃないか、という話。
ギャグマンガの滑稽な主人公は、それを作り上げる作者がいて、いろいろな人に翻弄され踊る、虚無の王。
うるるの存在とセリフが強烈なので、もう一度繰り返します。1・2巻はまとめて読むんだ。
 
第三世界の長井 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス) 第三世界の長井 2 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
キムタク復活して欲しいけど、これ読んだ後にキムタク読むと、マジで「虚無の王」に見える恐怖。
友人に「魔王もトーマスも元は普通の人間だったんじゃないか」って言われてゾッとした。