たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

明日また、ネットで会おうね。「ネットの海でつかまえて」

●不思議な縁●

まあ、ネットの縁つーのは不思議なものです。
今までなら一生会うことがないはずの人に出会うことが出来たり、世界の裏側の人と知り合いになったり。
クラスメイトの友人や家族ほど近いわけでもなく、かと言って疎遠な親戚ほど遠いわけでもなく。
なんとも不思議な関係ですが、確かに友情めいたものは生まれます。だって人間だもの。
 

●ネットゲーム!●

おこさまランチ先生の「ネットの海でつかまえて」は、ネットゲームで出会った二人のお話。
以前からおこさまランチ先生は同人でもアンソロジーでも、「ラグナロクオンライン」の漫画を描いておられて、単行本も何冊か出ています。
ラグナロクオンライン―となりの魔法使い (マジキューコミックス) ラグナロクオンラインプリさんの秘密日記 (アクションコミックス KINGDOMシリーズ)
これらの作品が面白い所は、「ネットゲームのキャラクター」の物語ではなくて、「ネットゲームをやっている人たち」の物語だということ。
だから、外見と精神のギャップ、キャラクターと本心のギャップがすごく明確に浮き彫りにされます。
特に「プリさんの秘密日記」では、よく話題にされる「ネカマ」の中の人の苦悩が丁寧に、そしてちょっと切なく描かれているのがいいんですよ。「ネカマ、キショい」じゃあない。色々苦労もありますわあな。
とことんまで「ネットゲーム」という空間をポジティブに捕らえ、その中での色々なトラブルや感情も現実のものとリンクすることを、繊細に描く作家さんです。
 

●オンラインで話す、私たち。●

主人公は人見知りの激しい女の子。
友達がいないわけじゃないけれど社交的ではなくて、自分に自信がなくて人前に出るとてんぱってしまう。そんな女の子。
それを見かねたお姉ちゃんが強引にネットゲームに連れ出すわけですが。

ネット慣れしている人なら「誰か知らない人」と話すのが当たり前なわけですが、一昔前ならそんなことあり得ない話ですよね。
いきなり知らない人の多い広場で誰かに話しかけることはほぼないです。
が、ネットの上だと「周りは全員他人」なはずなのに、気づいたら一緒に遊んで仲良くなって。不思議なもんです。
とはいえ、ネットの場合「向こう側に誰かがいる」のを忘れるわけにはいきません。相手はAIじゃない。
黙っていてはコミュニケーションはとれませんし、好き勝手言って誤解されるのも恐ろしい。

こうやって「キャラクター描写」ではなく「中の人描写」がメインになっていきます。
一人に二つの顔があるのがネットゲーム。漫画だから出来る表現でもあります。
 
ネットってのは面白いもので、顔が見えないから実際の日常以上に本音をぽろっとこぼしてしまうことも多々。
ネットの友人には言えるけどリアル友人には言えないことがある。そんな人がかなり多い時代だと思います。
それがいいか悪いかは別としても、ガチで真剣にネット上で普段言わないことを必死に言ってみたり、なかなか話せない趣味の話を共有したりできるのは新鮮な体験です。
しかもやっぱり人間相手だから、飽きるわけがない。毎日が新鮮。

普段知らない人と話すことができない対人恐怖症気味な彼女ですが、知らない人と会話を一生懸命、自分の意志でしている。
それはとても新鮮な体験。
 

●ディスプレイの向こうにあなたがいて。●

人見知りなのにはじめてあって話すことができた、ゲーム内名「カイン」君。
当然、リアルの中の人は「カイン」じゃありません。
大人か?子供か?
男か?女か?
日本人か?外国人か?
近所か?遠方か?
当然、何も分かりません。
しかし妙なもので、ネットを通じての交流は文字メインですが、自然と相手の人柄って伝わってくることがあります。
もちろん巧妙に隠す人もいますが、なんだかんだでじわじわにじみ出るもの。
 
彼女がいつも仲良くしていたカイン君は、どんな人間だったかというと・・・それは実際見てもらうとして(表紙で推測できるけど!)。
人見知りで、キータッチが遅くて、なかなかしゃべることが出来ない彼女をゆっくり、丁寧に、そして親切にし接してくれた、紳士のようなカイン君。彼とふとしたきっかけで、リアルで会うことになります。
 
冷静に考えたら、今まで人と話した事なんてほぼなくて、メールが初めて来たのがこのカイン君ってなくらいです。
そんな彼女が「会いたい」と思って行動するなんてえらい出来事なわけですよ。
もちろん、危険な部分も現実にはあるのでじゅーーーぶんに気をつけなければいけない所なんですが、この作品を「漫画」として見たとき、確かにそう動くだろうなあとじわじわ感じさせてくれるのがイイんだなあ。
勇気振り絞って、大胆に一歩前進しちゃうだろうなあ、と。

外見は予想外ですが、中身は一緒。
あんまりうまくしゃべれない彼女と、優しく接してくれる彼、のままです。
下心が全くない、というのがこの子達を引き合わせた原動力・・・なんて考えるのはロマンチストすぎますかね。でもそういうのが伝わることがあっても、いいんじゃないかしら。
 

●私たちは弱いところだらけだから。●


このお話、最初に出会った時点で「こういうエンディングにいけばいいな!」と言うのがものっすごい明確に出ているわけです。
ネット楽しい!
いい人に出会ってうれしい!
人見知り克服に第一歩やった!
最後、二人が付き合ってハッピー!
って。
そんなにうまくいかないよ!ありえないよ!と叫びたくなる気持ちもありますが、実はそうじゃなくて、彼女たちがこの奇縁にうかれず、不安を常に抱きながら「そうなるためにはどうすればいいのか」を模索していくのが、この作品のツボだと思います。

ネットのつながりは「すべて」ではないけれども、人と人のつながりの「ひとつ」ではあります。
そうそううまく行くことばっかりじゃないし、ましてや人見知りな性格が祟ってしゃべれない子です、激しい自己嫌悪に陥ることもあります。
もっともカイン君だって、言葉にはしないけれども色々悩みもあります。
ネットメインで会った人と話すときに、一番不安になることは「それは本心なの?」ということ。いくらでも文字では嘘を書ける。いくらでも性別や年齢をごまかせる。
昨日言ってくれた「約束」って、本当なんだろうか?あのとき一緒に笑ってくれたのは本心だったんだろうか?真剣に接してくれていたようで、実は私のことどうでもいいんじゃないだろうか。
・・・ああ。なんだ、現実とあまり変わらない悩みなんじゃないか。
それでいいんじゃないかな。だから、毎日実生活でもネットでも、誰かと会うわけだし。
 

●ネットの不思議●

基本誰でも楽しめる作品になっていると思いますが、ネットゲームorネットでの交流経験がある人なら何倍も楽しめると思います。
なんて書いてますが、この文を読んでいる人はネットをやってないわけがないですよね。そもそもこの文章自体がネットでの交流を求めて書かれているわけで。
ある部分は「ネットゲームならでは」なシーンもあります。
たとえば「AFK」とか。先日サイト関連の友人と話していて「ちょっとAFKー」とネットゲーム時代のノリで話していたら「AFKってなに?」と不思議がられてカルチャーショックでした。そっかー。ですよねー。ちなみに「退席中(Away from Keyboard)」の意味です。
そのほか、「リアルで何回かオフ会しているのに、ハンドルネームしか分からない」なんていう、いかにもな出来事も当然起こります。いまだに名前知らない友人、自分もすごく多いです。

そして、やっぱり出てくる「ネカマ問題」。
サイトや掲示板では「無性(性別無し)」でかまわないのですが、ゲームは男か女を選ばなければいけません。
とはいえ、相手が「そのキャラクター」であり、「その人」であるのは間違いないのですから、どうでもよくなってくる不思議。こればっかりは経験しないと、いまいち分かりづらい部分はあります。
 
最初にも書きましたが、おこさまランチ先生はネットでのつながりを否定しません。完全肯定です。
現実を考えるとあんな危険やこんな危険でいっぱいなのですが、いい人がたくさんいるのもまた事実。その「いい部分」を切り取って魅せてくれます。
ある意味きれいごとなんですが、ちょっとスイッチを切り替えて「いいところってなんだろう?」と探すのは結構新鮮な気持ちになります。
今は疎遠なネットの友人、今頃何してるかな?あー、久しぶりにメールしてみようかな・・・。
 

自分がやってたのは「ラグナロクオンライン」と「スカッとゴルフパンヤ」です。
ぶっちゃけ「ゲームする」のが目的ではなくて「誰かと集まってチャットする」のが楽しかったので、ほとんどレベル上がりませんでしたが。そういうのってありますよね。
今はX-BOX360で世界の知らない誰かと一緒にゾンビの群れを撃ってます。
言葉は通じないですが・・・たのしいねえ。
 

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ネットゲーム漫画の傑作といえばこれ。

想像力を問われる、非常にかみ応えのある漫画です。
出てくる人みんなコミュニケーション障害なんじゃないかと思うほど苦しんで苦しんで苦しんでいく様が圧巻。そして、妙にリアル。
そのコミュニケーション障害が、「百舌谷さん」のツンデレ病につながるんだからすごいもんです。
 
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