たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

9回裏、逆転ホームランの百合コメディ「ヒメ・コイ」

さて、今月来月と百合マンガラッシュです。
今月は百合姫コミックスが、来月はつぼみコミックスがずどばどーんと出ますよ!
財布の準備は大丈夫か!
ぼくはもうかつかつだ!
 
さて、「百合、うーん、興味あるけど、どれがどれやら・・・」という方多いと思います。
来月出るつぼみコミックシリーズは3冊とも「全部買っていいよ!」と言えるんですが、特に今月出ている百合姫の百合マンガはかなり通好みというか、百合慣れしている人じゃないと手を出しづらいかもしれません。逆に言えば百合慣れしている人には美味しいラインナップなんですが、敷居がいかんせん高い。このへんは読んで自分も感想書いてプッシュしていきたいのですが……表紙買い難しいですよね、百合は。
そんな中、敷居がずばぬけて低い作品が一作品あります。
それがマシュー正木先生の「ヒメ・コイ」です。

いやあ、自分マシュー正木先生大好きなんですよ。
作中で描かれる女の子達がダメすぎて。
逆に言えばダメな女性の魅力をよーく分かっている作家さんだと思います。
 
で、先に結論からいいます。どんな百合マンガか。
いわばフォアボール寸前でストライクゾーンに入ってきたボールをかっとばすような百合マンガです。

 

●序盤フォアボール。女の子のダメな生態●

百合センサー高い人も当然楽しめるんですが、むしろこれは、百合慣れしていない人の方も楽しめるんじゃないでしょうか。
というのも「百合」という「女の子同士の恋愛」をメタ視点で、っつかちょっと離れた位置から見てコメディにしているからです。
しかも「女の子かわいいかわいい!」だけではなく「女の子のこんなところがダメダナ!」というのも赤裸々に描いて笑いに変えてしまっている。普通百合マンガじゃやらないですよね……いや、かわいい女の子メインの話ではやらないですね。
だが、そここそがいい!

ブッシュー!
なんでしょうこのデジャヴ。
そうだこれは「女子高生」のノリだ!

出てくる女の子みんなかわいいのですが、それぞれ女子校であるが故にあけっぴろげにダメなところも開きっぱなしな豪快マンガ。これがもーめちゃくちゃ面白い。女子高生に幻想を持っている人の夢を打ち砕く! そんな下品なノリが最高でした。
ある意味「ヒメ・コイ」は百合マンガの皮をかぶった、女子校あけっぴろげマンガでもあります。
たとえばパンチラシーンはおろかパンモロシーンも多いんですが、ここまでありがたみのないパンモロシーンはなかなかお目にかかれません。

女子校だから見せるよ!
……女子校ってこうやって見せたりするの?流石にやり過ぎな気がするけどそのなんというかうらやましいな!
だがしかし、なんとも物足りないこのありがたみの無さ。
 
とにかくヒロインの桜(スカートめくってる子)が思いっきりダメなんですよ。どうしようもないくらいダメなんですよ。
ずぶといというかずうずうしいというか適当というか。マナーなんてあったもんじゃありません。
しかも女の子が好きで好きで好きで好きで仕方ないんですが、惚れっぽい上に適当すぎるため「100人斬り」と書いて100振られします。
100人に振られるとかどういうことなの……と思っていましたが。

誰でもいいのかこの子は。
この桜の「欲求丸出し」感が最高にいいんですよ。マシュー正木先生の味炸裂です。
それをストップさせるために、イライラしながら止めるのがヘアピンの少女、みどり。
幼なじみにして、みどりにしてみたら究極の腐れ縁。何をしでかすか分からないからたまったもんじゃない。
 
前半は桜とみどりが「娘たちの秘められた恋を応援する」という名目の「ヒメコイ部」を強制的にさせられる桜とみどりの話になっていきます。
まー出てくる女の子達のとんちんかんな恋っぷりがまたヒドイ(褒め言葉
もちろん百合の繊細さを好む人も多いと思いますが、どっちかというとこのマンガの百合感情はハイパーなむき出し欲求に近いです。肉食獣達の集いといったありさま。
うん、これは肩の力を抜いてゲラゲラ笑うタイプの百合だな。
よし!(サムズアップ
そういう意味において「別に百合好きってわけじゃないけどギャグマンガ好き」という人には非常にハードルが低い作品なのです。
 

●中盤押し出し。女の子の生の感情●

さて、入り口はフォアボール気味どころか暴投にも近いハイパーハイテンション+お下品で楽しめるのですが、中盤から徐々に趣が変わってきます。
「ヒメコイ部」に来る女の子達も、とんちんかんな悩みの子たちから、真剣な悩みの少女達の姿へと変わっていきます。

序盤がものすごい超速球だったため、中盤に来た時点で「女の子同士の恋愛」についての観点がすっきりなだらかになっているんですよ。この見せ方はうまい。
アホに見えるシチュエーションも、真剣な子達も、みんなちゃんと恋してる。
じわじわと「女の子の『好き』をなめるな!」という力強さに変わっていきます。
桜も序盤は、相談にくる女の子を狙ってみたりとめちゃくちゃなんですが、やはり役に入るとキャラが変わるというか見えてくる物があるというか……ちゃんと分かっていくんですよね。「好き」ってなんなのか。
桜は特にいい意味でアホな子なので、感情に裏表がありません。みどりがうまくそれを制御してくれていますが、同時に吹っ切って全身出来るのは桜。

どんなシチュエーションかは読んでもらうとして。
かっこいいでしょ!?
そうなんだよ、さくらはバカだし猪突猛進もいいところなんだけど、彼女の「好き」という感情のストレートさは最高に気持ちいいんですよ。
 
序盤は女の子の「ダメ」なところを大プッシュでゲラゲラ笑わせていくんですが、中盤からその「ダメ」な部分も含めて、いかに力強いかにシフトチェンジしていきます。
恋する乙女は無敵というけど、それは綺麗事じゃなくてダメな部分もふくめてのパワー。
さあ、体当たりの時間のはじまりだ。
 

●後半逆転満塁サヨナラホームラン!!●

で、後半。
このマンガが「ギャグ百合マンガ」から「高級百合マンガ」へと大逆転します。
百合アンテナの高い方なら、もうマンガを読まなくても気づいていると思います。
ヒント。

序盤でみどりに桜が手を、何の気なしに差し出すシーン。
序盤はね、これだけなんですよ。
そこからアホな行動を積み重ねて積み重ねて……中盤盛り返して……そして、そして!!!
 
「百合」を描く場合、ストレートに直球で描く物と、遠回りでじわじわ描く物があります。
それをミックスしたらこうなりました!というのが「ヒメ・コイ」。なので相当カオスです。
ところがそれがいい具合に作用して、「百合入門」になってるんですよね。
序盤、人によっては「それって百合なのどうなの」というネタも確かにないわけじゃないんですが、裾野は広いんです、最初から限定しちゃいけない。むしろ裾野が広くて自由だからこそ、先ほどのセリフ「好きな気持ちにキリツなんてないね!!!」が生きてきます。
自分で言ったからには、あとは自分達の恋愛をどうするか。
無論結果は吉と出るか凶と出るかは今のところ分かりません。けれども「好き」は「好き」なんだぞ!と一発逆転ホームラン。

序盤からじわじわとバントやフォアボールで満塁にして、最後にかっとばして最高の少女達の笑顔を見せてくれる。
なんだもう、楽しいじゃないか!
しっとり百合マンガも最高ですが、たまにはこんなゲラゲラ笑える百合マンガもよいものです。
そして百合に抵抗ある人でもすんなりソフトランディング出来る作品なのです。

「こどもブロッサム」は「ダメな女の先生萌え」な自分にはストライクすぎる作品でした。最高。
マシュー正木先生はハイテンションの維持の仕方と緩急の付け方が非常に上手いので大好きです。
 
それにしても最初にも書いたんですが……百合マンガラッシュがすさまじすぎです。
ぼくの財布はどうなるんだ! うれしいぞ!