たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

世間の風に、冷たさに、アップルシードは枯れすすき。

アップルシードα(1)
映画の『アップルシードアルファ』見てきました。
結論だけいうとすげー面白い
あそこまで「サイボーグ好き……サイボーグ愛してる……」っていう映画作られたら、バンザイです。
なんせ人間4人しか出てこないからね(しかも完全な人間はデュナンだけ)。
 
ストーリーはほとんどないです。デュナンのアクションも一作目の映画に比べれば少ない。
とにかくブリアレオス愛しい……かわいい……っていう映画。双角がそれとためはるくらいかわいい。
コアなファンなら、『アップルシード』の難解さ全カットなので物足りなく感じるかもしれないけど、『アップルシード』であることには間違いないってわかると思う。
 
あと、リアルCG化されたデュナンに声ついたら、もーかわいくてね。
ブリアレオスにデレッデレで、かなり性格は雑という、大変原作準拠なキャラでした。
声色とセリフでコロッといってしまうんだから、我ながらチョロいです。トレーラー見た時「これはないわー」って思ってたのになあ。
 

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で、黒田硫黄版『アップルシードアルファ』は……。
全然つながってないじゃねえか!
共通点は「二人がオリュンポスに行く前」っていうだけ。
双角はNY市長で、ブリアレオスはエネルギー切れでスクラップ寸前というところからスタート。
 
NYっていうのをド無視して、街中に日本語の看板が立ち並ぶ闇市場をでかでかと描いているのを見て、もうバンザーイバンザーイ。
二話から英語になるけど、やっぱりアジアすぎるぜこの世界。言うことなし。
 

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正直、自分の中で「士郎正宗作品」をちょっと神聖化しすぎていました。
 
いや、するだろ。
だって若い時に『アップルシード』や『攻殻機動隊』や『ブラックマジック』や『ドミニオン』やらを見たら、もう神様扱いですよ。
なにこれすごい天才じゃないの創造主じゃないの、って。
今でも見返すたびに思うもん。やーっぱすごいよシロマサは。
 
けれど、それって停滞。ゆりかご願望は極言すれば死ですよ。
 
シロマサのエロ方面の活動も「やっぱ神がかってるなー」と信者の目で見ていました。
そこに飛び込んできた爆弾が『紅殻のパンドラ』。
紅殻のパンドラ (5) (カドカワコミックス・エース)
確かにシロマサだ。けどシロマサじゃなくて六道紳士だ。
なぜフィルターを通したんだろう?
ひょっとしたらシロマサは「神格化された作品に埋もれたくない」んじゃないかなあ?と。
いやわからんけど。
 

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今回の映画版『アップルシードアルファ』も、「シンプルな話にしたい」と言い出したのはシロマサの方だそうで。
アップルシード』を、こうぐわーっと世界級のでかい話にするんじゃなくて、デュナンとブリアレオスが出会った事件を解決しますよー程度におさめた、ざっくりした中身にしたいと。
あーなるほどなと。
 
そもそも「自分の作品の前日譚」って、一番預けたくない場所じゃないですか。
スピンオフじゃないんだし。改変次第で、自作が否定すらされてしまう。
でもそこを変えようとしたシロマサと荒牧監督と、黒田硫黄
「このままではいけない、変え続けたい」という意欲なんだろうな。
 

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黒田硫黄は、相当なプレッシャーの中、ダイナミックに改変したと思う。
アップルシード』原作から確かに離れてはいないけど、言われなきゃ同じだとはわからない。
本人も自分の絵柄のタッチをよく理解しているから、ムリにシロマサに寄せていない。
それどころか、本には「原作:士郎正宗」の文字がない。
これは「黒田硫黄の作品」です。
 

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明日生き延びられるかどうかもわからない、動けないブリアレオスとデュナン。
二人が彷徨いながら辿り着いた、雑多な闇の街、NY。
この世界ではサイボーグが優遇され、人間は冷遇される。
序盤はエネルギー切れが多すぎて、まるで介護しているようなデュナン。
嗚呼、明日はどこへやら。

貧しさに負けた
いえ 世間に負けた
この街も追われた
いっそきれいに死のうか
力の限り 生きたから
未練などないわ
花さえも咲かぬ 二人は枯れすすき
 
(中略)
 
この俺を捨てろ
なぜ こんなに好きよ
死ぬ時は一緒と
あの日決めたじゃないのよ
世間の風に 冷たさに
こみあげる涙
苦しみに耐える 二人は枯れすすき
(「昭和枯れすすき」より)

作中にも引用されている歌詞です。
黒田版アップルシードアルファでは、二人が必死になって街を守るため戦うシーンがあります。
事件はおさまるのですが、その後撮影された映像は改変されて、街のプロパガンダに勝手に使われます。
デュナンは、やり場のない怒りを抱えながら、エネルギー切れして動けないブリアレオスとこの曲を偶然聞いたのを思い出します。
もちろん日本語だから、理解は出来ない。
でも、身体に染み渡る。
 

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デュナンとブリアレオスの二人の苦悩の旅は、昭和枯れすすきだったんだ。
もうこの視点で、新しい「黒田硫黄の世界」「アップルシードの世界」ができてしまった。
平服するしかないじゃんそんなの。
多分この後人間とサイボーグの問題とかも出てくるとは思うけど、それより枯れすすきなんだよ。
 

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映画とコミックスで、「シロマサ神格化」は無理矢理にでもやめようと思いました。
ゆりかご願望は極言すれば死ですよ。二回言いますよ。
 
黒田版は黒田硫黄ファンも、アップルシードファンも、絶対楽しめるので読んだほうがいい。
多分熱狂的なシロマサファンほど、「おー、そう解釈するのね、面白い」ってなるんじゃないかな。
 
物語は、流転するほど面白い。
 
 
 
おわり。