たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

追悼・ギリンマへ。平社員の憂鬱と哀しみに敬礼

いやあ。
プリキュア5第24話なんですが、りんちゃん告白とかびっくりな新アイテム(?)とか、涙の復活とかいろいろ書きたいことがあるんですが、何よりもまずこれ消化しないと自分が何も書けないのでだだ漏らしににしておきます。
それは、悪役としてがんばってくれたギリンマのことです。
 

●ギリンマの軌跡●


第一回から登場しており、そのわりに平社員としてこき使われているというキャラ。ヒーロー・ヒロイン物の敵キャラとしてもかなり異色のきもちわるいデザインが、なんともキモかわいい。
元コンセプトはカマキリ。プリキュア5がチョウチョなので、それを襲う、という構図です。

確かに、彼が敵か味方かというと、間違いなく敵です。結構えげつないこともしています。それこそ初期のころは、仲間も集まっていなかったし、脅威的なキャラ、のはずでした。普通の人間なら真っ二つにされるくらいの強さは持っています。実際大地や建物を切り裂いたりするのはお手の物です。やっぱり、倒すべき敵らしさはあったのですよ。
しかし、彼はアニメの敵キャラとして、非常に類まれなる素質を持っていたゆえに、非常に愛されるキャラへと変化しました。
 

●平社員の憂鬱●

子供にはどう見られていたのかは自分では判断しきれませんが、大人たちから見て非常に哀愁漂うキャラだったギリンマ。
その理由は、彼の置かれていた立場にあります。

THE・平社員。中間管理職のブンビーさん、上司のカワリーノさんから無能のレッテルを貼られてしまいまくり。これでも昔はパルミエ王国(ココ・ナッツたちの国)を攻め立てた、有能な戦士だったはずなのです。…ん?あの小さいけだものをカマイタチでばんばん切り裂いていたのか…怖いなあ。
とはいえ、人間界では実績0。ブンビーさんから「クビだね」といわれるもの無理はないでしょう。あくまでも、この「ナイトメア」という組織は、今のところはお金でつながっている会社なのです。実際、働きが悪いゆえにボーナスカットされたり、給料袋に一喜一憂したり、お金がもらえないからとガマオが仕事ぶっちしたりと、目的が今のところお金でしか描かれていません。*1

しかし、エリートのプライドをかけて戦うアラクネアや、お金がもらえればなんでもいいというガマオと違って、ギリンマはすんごく真剣なんですよね。第一、お仕事としてなら別にこの組織クビになったって他の職場でもいけそうな気はするわけです。ギリンマがニコニコ営業とか想像したら面白いしほっとします。
でも彼は、ナイトメアに命を賭して働こうと躍起になるんです。というか、上司にいかに認めてもらうかで、日々胃をギリギリといためています。
正直、彼の人生はもったいない。
でも、きっと、彼はこうするしかないんだろうな、と思うと、胸がしめつけられるほどに切ない気持ちになるのです。クビになるなら死ぬしかない。そう思ってしまう彼を見て、こんなにやりきれない気分になるのは、それが妙にリアルな社会と似ているから。あるいは、もしかしたら自分の中にそういう気持ちが芽生えたことがあったから、か。
 

●追い詰められた者の行く果て●


23話ではすっかり狂気におかされた目になってしまったギリンマ。見ていて痛々しくて仕方ない。
彼がこれで、自分の力を最大限発揮して戦って死んだのならば、まだ「お疲れ様です!」と涙で送ることができるのですが、いかんせん彼の死の後味の悪さは別のところにあります。
彼は、自我を捨てなさい、という会社の命令を、自ら選ぶんですよね。
ある意味置き換えれば「社会の歯車になりなさい」「自分を捨てて会社の思い通りになりなさい」という意思表示が、組織から出されるわけです。「従って自分を捨てるか、クビか」。「思う存分戦って死ね」という選択肢はないのです。むしろ、こっちの方がよっぽどたちが悪い。ブンビーさんのセリフによれば、パルミエ王国侵略のときは共に朝まで語り明かすほどの友情を育んでいたようですが、会社組織の中にあっては何の意味も持たなかったようです。
 
ギリンマがクビを選ばず、自我を捨てることを選んだコトに関しては、以前いただいたコメントがあまりにも胸を打ったので、再掲しておきます。きっとこの気持ちだったんだろうと本当に納得させられます。

ギリンマがなぜこれほどナイトメアに忠誠を誓うのか。
彼には他に生き方がないのだと思います。
ナイトメアに長い間勤めてきて今更、ナイトメアでない自分など想像もつかないのでしょう。
この辺り、あっさり逃げ出せるガマオとは全く持って対照的。
「バカなやつ、さっさと辞表出せばいいのに」と他人事で言うのは簡単です。
けれどその後のギリンマに何が残るのでしょう。
今更新しい会社になじんでやっていけるのか。 そもそも平社員レベルで転職先など見つかるのか。
自分より年下の上司の下で肩身の狭い思いをしながら、胃の痛みを抱えて転職雑誌を必死にめくりながら
生きていく事は、戦死するよりマシな事なのでしょうか。
 
私がギリンマなら、間違いなく同じようにあの黒いカードを取るでしょう。
ナイトメアへの忠誠心など彼にはありません。 他に道がないだけです。
それもどうせ死ぬなら、と好き放題やって人の反感を買って死ぬのではなく、
無力でも最期まで忠義を貫いた献身者としての死を選んで。
私はむしろギリンマを、このまま華々しく散らせてあげたいです。
願わくば、ほんの少しでも誰かの心に残る形で。

彼の上司はギリンマが自分すらも投げ打って、戦いのステゴマになったことに対して「君の忠誠心はすばらしい!」と言います。でも本当なのか?
この意見と同様、自分も彼にあったのは忠誠心とは思えないのです。彼の中にあったのは、追い詰められた心情だと思います。

自分は、正直「選べ」と言われたら、クビを選びます。チキンだから。あるいは、自我が残っている状態でなんとかしようとすると思います。しかしギリンマはそれを選びませんでした。傀儡として死んでいくことを選んだのです。
もうはなから「勝てる」という自信すら感じられませんでした。カワリーノさんも同じですが、あくまでも他の人が戦う上での捨て駒にすぎない、というのは分かってるんですよね彼。第一、本気で戦って勝っても、自分には勝ったかどうかわかりません、自我を捨てているので。
結果なんてどうでもいいわけです。選んだ時点で「ギリンマ」という人は、死んだのです。
 

●生きていてほしいが。●

もう似ても似つかない化け物にされ、最後には自分の意思ではない状態のむちゃなドーピングまでほどこされ、ボロボロのカスカスになるまでこきつかわれたギリンマ。あんなにニヤニヤしたりじくじく悩んでいた彼も、最終的には知性を失ってしまいました。
そして。

一言もなく。
感傷もなく、断末魔の叫びもなく、自我が戻ることもなく、ただ消滅を迎えました。
敵だからいずれやられる日はくるだろう。主人公に勝って幸せになって終わるということはなかなかないだろう。でも、あんまりにもあんまりな最期に、涙を流すことすら許されないシビアさにかなり本気でやられてしまいました。
プリキュアたちの苦しみも見ていて辛かったし、なんとか勝ってほしい!と心からのぞんでいたけれども、ギリンマの人格の部分が今まで割りと繊細に描かれていただけに、その人格を一切失われた状態で死んでいったのがあまりにも苦痛でした。
 
どこかでさっくりと復活するかもしれません。カマキリに戻って(?)のうのうと暮らしているかもしれません。が、今までのプリキュアの流れから考えて、この散り方は多分もう後はないんだろうなあ、と思いました。
正直、復活してほしいです。声を聞かせてほしいです。会社の下っ端としてヘコヘコしながらブンビーさんにいびられて落ち込むあのぬるま湯な日々がまた見たいです。
しかしもうないんですね。
彼の死が象徴するものはこの作品においては大きい気がします。自ら選び、自我を捨て散るその姿は、夢や希望というものに対して、あるいは絶望という言葉に対して、何を意味するんでしょうか。
 

●追悼●

WEB拍手コメントよりいくつか。

僕の中ではギリンマ戦死確定だった訳ですが。まぁ倒されても蟷螂に戻ったりしないかなぁとかも考えてました

そうやって、細々と生きていてほしい。あるいはどこかぜんぜん違う場所で違う道を歩んでほしい、と願いつつも可能性は低そう。ただ、もし生き返ったら、彼はまたナイトメアに戻るんだろうな、なんて妄想しました。

ギリンマの最期、最敬礼をもって見送りました。
それにしても巨大化したとはいえ、あんな機動兵器に轢き逃げのごとく
粉砕殺害されるとは。 何ら感傷的なシチュエーションもなく。
ギリンマという人は、最期までギリンマらしさを貫いた人でした。

かませ犬を自ら望んで、かませ犬で死んでいった彼は本当に、ギリンマとしかいいようがなかったです。
彼を「ばかだ」と言うのは簡単だし、そのとおりなのだけれども、彼の最期に対しては敬意をもって追悼したいと思います。それが、彼「ギリンマ」という男だから。
ええ、おおげさなんです。でもそのくらい彼の生き方には共感したり慰められたり苦笑したりしたんです。だからこそ。
 
ここまで書いておいてなんですが、敵キャラでここまで思いいれあるのはギリンマとブンビーさんくらいな気がします。Splash Starの時のキントレスキーも死ぬほど好きでしたが、彼は彼らしく最期を迎えたのでスッキリしてました。ただ今回は、じわじわと不安な要素が積もり積もっての後味の悪い最期だからこそ、切なさが押し寄せてきています。これがギリンマらしさだということもわかりつつ。
わずかな復活の希望を抱きつつも、平社員としてのわずかなプライドに生きて、ぼくらの日々の不安を代弁してくれたギリンマへ。
お疲れ様。ゆっくり休んでくれ。
 

*1:とはいっても今後、他のキャラの思惑は描かれていくと思う。