たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「プリキュア5最終話」が描いた、「恐怖」という感情と、そこにある笑顔。

次期第一話が放送される日に最終回の感想ってのもなんですが。
ぶっちゃけ「最終回が見るのが怖かった」と言うのはここだけの秘密です。思い入れ強すぎると最終回が怖いんです。アニメもマンガも小説も、いつもそうです。
きちんと終わることは素晴らしいことです。終わらないよりしっかり終わる方が難しいことです。しかし単純に受け手としては何かに終わりが来るのは単純に寂しいことです。
この「プリキュア5」のキャラクターたちはみんな、今となっては前向きでがんばりやなのが証明されています。
しかし彼女たちはそんなに強い精神の持ち主だったんだろう?
子供から見てわかりやすい敵としての「コワイナー」って、結局なんだったんだろう?
そんなに、絶望や恐怖を弾き飛ばすだけの力を彼女たちは持っていたんでしょうか。 
最終回の感想と共に、このプリキュア5が含みを残しつつ描いた「恐怖」「絶望」「希望」という曖昧な言葉について書いてみたいと思います。
 

●怖いよ。怖くないわけないじゃん●

どんな屈強な人でも、怖いものがあります。それは死ぬこと。太古から恐怖は死を中心にめぐっていました。
では不老不死になれば恐怖は減るんじゃないだろうか?というのは数多くの権力者が思ったことです。ある人は不老不死のクスリを得るために全てを投げ打ち、それを元に逆に死んでしまうこともあったほどです。水銀飲んじゃったりとか。

「死なない」というのは昔から多くの作品でテーマにされてきました。しかし、死なないことが逆に更なる恐怖になることも、描かれ続けてきました。
そりゃ死にたくないですよ。永遠に生きられる方がいいです。だけれども今のまま行き続けていても、恐怖はなくならない、と「プリキュア5」では言います。
まあ、デスパライア様のようにある意味箱入りで、同時に強大な権力を得ているゆえに色々なものを失ってきた人なら、かえって得体の知れない恐怖が膨れ上がるのもわかります。
じゃあヒロイン達は、恐怖に打ち勝つだけの力があるよね!だってヒロインだもんね!

そんなわけないですよ。
怖いよ、怖いものなんていっぱいありますよ。「仲間がいるから怖くない!」と言いたいところだけれど、怖いものは怖いんです。顔のゆがみや体の震えは、精神力で乗り越えることのできるものではありません。中学生の女の子達の視界は、時々未来への希望で満ちているけれど、その倍くらい不安と恐怖が追いかけてくるものです。
じゃあ何が?何が一体怖いの?
 

●何かが失われていく●


プリキュア5では、頻繁に「そのキャラにとって一番恐ろしいもの」「一番見たくないもの」を形として表現していました。
最後の最後にのぞみさんが見た幻は、ココのものでした。
ココに抱きしめられたい。ココに優しい声をかけられたい。ココといつまでも一緒にいたい。
手にしたものを失うのは怖いよ。「プリキュア5第45、46話」
これからどうなるのかを考えるならば。仮に勝ったとしても、今のこの生活を送ることは出来なくなります。会いにいけるとは分かっているんです。パルミエ王国に行けると約束だってしているんです。
でも、日々分かりやすい敵と戦い、一つの目標を持ち、ココやナッツといた日々そのものは戻ってこなくなります。
一番怖いのは、今の空間と時間が失われることと、見えない未来。
 
ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ (角川文庫)
滝本竜彦ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」ではそこがうまいこと表現されていました。恐ろしい「敵」が襲ってきて、命がけで戦う恐ろしい日々があるわけですが、それは同時に分かりやすい目標だから、非常に口当たりが甘いんですよ。もちろん空想の世界だからの話なんですが、戦う仲間がいて、熱血して敵と戦い続ける日々はとてもある意味安定しています。
しかしそれも終わる日が来ます。終われば好きな仲間や好きな人と、同じループをたどることができなくなります。
 
のぞみさんはもちろん、そのぬるま湯につかり続ける道は選びません。しかし彼女の心は想像を絶するほどの恐怖で満ちています。
「怖いよ。今も怖いと思ってる。」
「でも平気だもん」
もちろん、平気なわけはないんです。しかしのぞみさんが「怖いよ」とはっきり明言したこと、「平気」と言葉にしたことはとても重要な事実だと思います。
最初の頃はそれを言うことすら出来ませんでいた。しかし今、彼女は逃げることがある自分をも肯定できるようになったのですよ。
できれば、終わらない時間ループの中でココとい続けたいでしょう。その上でパルミエ王国が救われて…なんて都合のいい状態になればそりゃ願ったり叶ったりですが、それは許されません。


「だから私は、ココが大好き」
のろけのようにも聞こえるこの言葉、それを言うことでいったん終了する彼女とココのつながりも、彼女は理解しています。この瞳は、今までココと過ごした(大変ながらも)楽しい時間と、今後はまた別の道になるというループからの脱却の決意でもあります。
決意って言ってもね。考えたら何も出来ないんですよ。怖いじゃん。どうなるか考えたら、辛くなるじゃん。
しかし、ここで重要になるのが「空元気」
 

●希望って言ったってそんな大それたものは持てないから●

希望があればなんでもできる。
夢があれば何も怖くない。
うそです。そんなわけないです。怖いです。希望があったって逃げたくなるんです。幸せなことばかりじゃなくて苦痛もたくさんあるんです。ないわけないじゃん。
 
 

最終回で屈指の名シーン。
一人ずつがそれぞれ、プリキュアとしての役目を終えて昼食に集まるシーンです。席に着くとき、全員後姿なんですよ。笑顔でニコニコ座るわけではなく、夢を目指しながらも苦戦する姿のカットインと共に背中だけ描かれていきます。
この背中、みんな小さいじゃないですか。
決して自信に満ちた背中じゃありません。表情も泣いているのか笑っているのか分かりません。しかし、彼女達はただ、みんなのいる席に座ります。
見方を変えれば、その視線はもうここではないどこかを見ているから、こちらを向かないのかもしれません。
 
不安がないわけはない。夢や希望が出来ても、それに挑むことはさらなる恐怖を生みます。
恐怖は実際のところ、見えないものや足場のないものに対して生まれるのかもしれません。見えないものの代表格が「死」なだけであって、死を克服しても見えない未来は怖いんです。
だからこそ、のぞみさんは言葉にします。
「大丈夫」「なんとかなるよ」「平気だよ」
プリキュア5全体を通してみると、そんなわけはないんですよ。彼女は実は、他の誰よりもこの瞬間がなくなることを怖がっています。しかしそれでも、考えずに言葉にすることで、自分を保ち続けています。いわば、空元気。
 
しかし、空元気は極めて重要な手段だと思うんですよ。とりあえず言葉にすることで、考えないように思考を切り替えることができます。とりあえず元気ぶることで、無理をしなければいけないところを辛いと考える余裕すらなくすことができます。
そして、何よりも。その空元気を聞いて勇気付けられる人も多くいます。お互いが泣き言ばかり言っていても、同じように時間が流れるのならば、せめて言葉から。
それでも不安ですか?ええ、不安です。5人とも、見えない未来が不安でなりません。
そんなときどうすればいいか知ってる?
  
みんなでもりもり食えばいいじゃない!
 
これって最高の結論じゃないですか?ほら、自分達も呑みに行くじゃないですか。
もりもり食うアニメとして、徹頭徹尾描かれたプリキュア5。自分はそこを最高に評価します。よく食えば「なんとなる」んです。
 

●絶望と笑顔●

この作品の敵は、コミカルな「コワイナー」達で構成されていました。最後になってその「コワイナー」こそ、得体のしれない恐怖の形そのものだったことが明らかになります。
先ほどの「ネガティブハッピー〜」もそうかもしれませんが、敵がいるのって「恐怖」の具現化というより、「恐怖からの逃避」でもあると思います。敵を作って得体の知れないものをまとめてしまえば、ほっとするんですよ。
それが顕著に出ていたのは、強烈な最期を見せてくれたカワリーノさんでした。

絶望絶望ってやたら連呼していましたが、彼にとっての絶望って希望なのでしょう。だって「絶望」って言葉でまとめたら、わかりやすいですもの。
しかし本当の絶望は、「絶望にすら見放されること」。彼の最期はあまりにも救いのないものでした。こここそがこのプリキュア5の突きつける現実の一つなのかも。
そう、現実の未来は、努力と根性と勝ち負けでどうにかなるものじゃあない。
カワリーノさんのように追及し続けることもいいのですが、もっと大事な乗り切り方は、先ほどの「食うこと」と。

笑うことだ
ずーっと使われ続けてきたこのイラスト。最初の頃は「天真爛漫で仲が良い」という程度のイメージしかなかったのですが、改めて最後にこれを見ると、ぜんぜん感覚が変わりますね。
色々全員心に何かかかえつつ。それでも「まずは笑おうよ」。
 
これにて一旦、プリキュア5は終了。
今日から新シリーズが始まりますが、1年を経てはぐくまれた彼女達の絆と、歯を食いしばって笑顔をつくる心が、今後どう展開していくのかじっくり楽しませていただこうじゃないですか。
 
1年間ありがとう。
これからもよろしく。
自分はのぞみさんのように、ひたすら前にダッシュできないけれど。もりもり食いながら笑うみんなを見て、ちょっとだけがんばってみてもいいかな、って、子供みたいに思いました。
 
ただ、ブンビーさんの今後だけが気がかりなんですが。
 
以下過去記事
 
 
大人になったら何になりたい?「YES!プリキュア5」第一話
プリキュア5が二話目にしていきなり百合展開でした。
実力の伴わない夢は持ってはいけませんか?「YES!プリキュア5 第4話」
これからのヒロインはもりもり食う時代へ!「プリキュア5 第5話」
やけにリアル社会人な敵のお仕事。「プリキュア5第6話」
少女たちの絆は、少しずつ歩き出した。「プリキュア5第7話」
学年や身分による感覚のカベってありますか。「プリキュア5第8話」
有名なみんなと、そうでない自分と。「プリキュア5第9話」
社会の仕事は甘くない。「プリキュア5第10話」
今がんばることは、ムダじゃない!「プリキュア5第11話」
アイドル業は、その一歩から。「プリキュア5第12話」
自分のために生きる?誰かのために生きる?「プリキュア5第13話」
お金で買えるの?その価値は。「プリキュア5第14話」
少女達の友情はいつまでも。「プリキュア5第15話」
自分の視野を仲間内だけで満足してはいないか。「プリキュア5第16話」
どんな時でも、そばにいるよ。「プリキュア5第17話」
友達は、必要ですか?「プリキュア5第18話」 
心配は何のためにするの?「プリキュア5第19話」
まっすぐ進むだけが道じゃない。「プリキュア5第20話」
ミルク視線で楽しむ「プリキュア第21話」
大人としてのココの立ち位置。「プリキュア5第22話」
5人それぞれの心の闇へ。「プリキュア5第23話」
追悼・ギリンマへ。平社員の憂鬱と哀しみに敬礼
さあ、その手をつなごう。「プリキュア5第24話」
4人の心がここから開くんだ!「プリキュア5第25話」
見終わった後の顔は鏡では見られない。「プリキュア5第26話」 
夏に女の子を怖がらせたくはないかい。「プリキュア5第27話」
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乙女の感情の高ぶりに、ニヤけたりへこんだり。「プリキュア5第31話」
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マスコミという名前のコミュニケーション。「プリキュア5第33話」
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バランスよい食事と、バランスよい人間関係。「プリキュア5第37話」
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手にしたものを失うのは怖いよ。「プリキュア5第45、46話」
のぞみは本当にポジティブなのだろうか。「プリキュア5第47話」
目標と希望の階段、そしてのぞみのある方向へ。「プリキュア5第48話」