たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

女の子は砂糖菓子と嘘の塊だ。「ろりーた絶対王政」

ろりーた絶対王政 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
わたくし、ちょっとサディスティックでえらそうな幼女がキツいことを言って男を振り回す作品が大好きです。
「わらわの言うことを聞くのじゃ!」とか言われたらもうダメですね。「はいごめんなさいお嬢様!」とか言って超裸足で踏まれたいですね。もうぺちぺち踏まれたいですね。
なので題名と表紙でこれを買いました。ああ、これは自分のような愚民が買うんだなあと。踏むときは裸足か靴下かは大きな問題だよなあと。
甘かった。
あまりにも予想外の少女の描き方に驚愕。というか作者の三嶋くるみ先生ただものじゃないぞ?
ちょっと読んでみて驚いたので説明を書いてみようと思います。
 

●オレは女の子を信じない●

すごく大雑把にまとめると、主人公の男の子の家(この手にしては珍しく、親が普通にいる!)に双子と称する、どうみても双子ではない美少女二人がやってくる、というお話。当然題名のとおり、ちっちゃいほうと少年の間にほわほわしたラブコメが展開される、のでしょう。多分。
こうしてみると確かに「萌え萌えですねえ」とにやけたくなるところですが、そこでちょっと待つのです。
このマンガ、少女は美しくてかわいくて砂糖菓子で出来ていて…というくだりではまとまっていきません。男の子の都合のいい妄想のような妖精でもありません。
むしろ男の子視点からみて「なんだか分からないから気持ちが悪い存在」として切り取られているのです。
なるほど確かに少女は彼岸の存在。男の子には分からないことだらけです。それが「だからかわいー☆」となるのか「だからなんだか不気味…」となるのかのライン引きというものが存在します。
このマンガはその中間ラインをうまくするりと抜けていきます。
ええ、表紙のとおりかわいいんですよ。キュートでふわふわ花びらみたいで。でもこちらの思惑なんて知ったこっちゃない、一人の人間として血を垂らしたような生々しさにあふれています。

女なんて 嘘ばっかりの生き物だって
かわいいのは事実かもしれない。しかし「かわいい」は本当に正義なのか?現実社会での「かわいい」は時として相手の心を傷つける凶器なのではないか?
そう。この少年、極度の少女不信なのです。
 

●「かわいい」の凶器●

もちろん、出てくる女の子達は非常にかわいらしいです。本当に本当にかわいいんです。
だから物語は軽快に進んでいくのですが、「女の子」は「かわいい」から男性の思い通りになるような存在、では決してない。むしろ「かわいい」から男の思惑をはるかに飛び越え、理解しえないことだっていっぱいあるよ。
そんなすれ違いを滑らかに差し込んでくるからこの作品は恐ろしい。

「かわいい」はたいてい好意をこめて使われる言葉ですが、同時に大人の男女は「かわいい」が刃に変わる瞬間も知っているかもしれません。
特に少女同士の間で生まれる「かわいい」は時として残酷。
少年達が「かわいい」で目を覆っている間に行われるどろどろしたものも含めて、少女は成り立っていきます。
 
そんな不信感が男の子目線で描かれていくのはなかなかに新鮮。結構えげつないことをさらりと描いてきます。一部の少女漫画で描かれるほどそれは残虐な包丁ではないけれど、気づいたら差し込まれるナイフのよう。

「かわいい」という言葉は本当に複雑怪奇。
ええそうだよ、出てくる女の子はみんな、男の子と違ってふわふわきらきらして「かわいい」んだよ。
でもね、その「かわいい」って一体なんなんだろう。
わからないんだよ。だから不気味。
 

●気が付けばいつも少女は、ぼくらの先に●

双子のお姉ちゃんは体が弱弱しそうなしっかりものです。みんなに「かわいい」と言われます。
双子の妹は元気はつらつだけどどう見ても小学生。やっぱりみんなに「かわいい」と言われます。
しかしそれを主人公の少年は「かわいいけど、かわいいからどこから信頼すればいいのか分からない」のです。過去のトラウマもあいまって、女の子という存在が自分の理解の範疇を超えている事に困惑を覚える様が、とてもすんなりと描かれていくのがこの作品の特徴です。
面白いですよね。これが女の子視点だったらもっとドロドロした話になったでしょう。これがただのクラスの子程度の距離だったらもっと萌えマンガで終わっていたでしょう。
その微妙なバランスの中で、プラスの「かわいい」とマイナスの「かわいい」を見つけていく過程が見事なのです。
じゃあぼくはどう接すればいいの?と。

また、女の子が少年よりポーン!と高い位置にいるように描かれているのも面白い。
この子は妹さんの友人なんですが、この幼さにしてこの色気。少女なんだけど「女」してます。
「ああもうほんと、女ってなんなんだよ!」とじたばたしながら悶え苦しむ中学校・高校男子の気持ちに、あえてなって読んで見ると楽しさ倍増。
そうなんだよ、女の子って「かわいい」から「なんだかわからない」んだよね。

もちろん少女達の苦悩もしっかり描かれています。
彼女たちもただ「かわいくてわからない」存在じゃなく、色々思惑を抱えながら必死にがんばっているから「かわいい」。そんな本質を失っていないので、キャラクターがイキイキしています。
題名が「ろりーた」なので、いかに人形のような少女達がキャピキャピした話になるのかと思いきや、そこにあるのは時には驚くほど血の通った少女たちを不思議そうに見つめる少年の瞳の物語。
不思議だね。「かわいい」ってなんなんだろうね。
 
ろりーた絶対王政 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
意外と生々しい少年少女の悩みが詰まった良作なんですが、痛いのをメインにしたえげつないストーリーではなく、前向きに彼女たちが捕らえているので非常にすがすがしいです。すがすがしいですがそれだけじゃなく、次々と難問を抱えていく予感が感じられるから続きが気になる、そんなマンガ。
この絶妙な少女バランス感は見事だなあ。三嶋くるみ先生、続きが楽しみです。
 
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