たまごまごごはん

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人間の尊厳、ロボットの尊厳。「団地にロボがやってきた」

B'sLOG COMICS系列は本当にノーマークなのですが、ふっと見てみると面白い伏兵が多いから曲者。
このレーベル、女性向けですがBLではないです。女の子の萌え路線、かと思いきや意外とそうでもなかったり。これ案外男の子もいける作品多いかもですよ。
そんな中、今回手にとって個人的に面白かったのが夏目ココロ先生の「団地にロボがやってきた」
個人的に「ロボットと人間の境界線ってなんだろう」という永遠の問いがものすごく好きなので、そこに挑んでいるという意味で評価三倍増しのひいき点ではありますが、「男性型」で「雑用専門」、かつ「人間と見分けがつかない」ようなロボットが主人公というのはちょっと面白い立ち位置です。
そんなロボットにとって、自分の存在はどう見えるのでしょう?
 

●ロボットの表情なんてさ●

物語は、管理人さんの元に一体のロボットが届いたところから始まります。
その青年は団地の管理の一切をしているんですが、ようするに「人件費削減ね☆」というお達しをするために、雑務の一切をまかなうロボが届いちゃったわけですよ。本人はそんなこと知らないんですが。
でもこれって考えてみたら、すごく怖いことですよ。
ある程度の、人間のクリエイティブな感覚を伴わない仕事は、ロボットでまかなえちゃうよね?という、「ロボット」の概念ができた当初からの恐怖がそこに根付いているわけです。
 
そこに、自分の仕事のみならず、立場やアイデンティティが奪われたら・・・と考えるとぞっとします。自分のいる位置をロボットが奪い去ることなんて、至って簡単なことですもの。

ロボットのくせに。感情もないしプログラム通り動いているだけのくせに。偽者の笑顔なんて作るなよ。偽者の涙なんて流すなよ。
偽者のくせにおれの居場所を偽者の顔で奪うなよ。
 

●人格。●

なかなかこの話の作り、複雑に行ったりきたりしていて面白いです。
事件的にはすごく地味な話ではあるんですよ。ロボットがなにかすごいことをするわけじゃあありません。
ただ、ロボットと人間の持っている「人格」とは何なのか、守るべき思いはなんなのかをそれぞれの視点で描いていきます。
ん?ロボットの「人格」ってなんだい?という話ですね。

人間は人格を疑われると、心に傷を受けます。
誰だって信頼されたいです。誰だって誰かに好かれたいです。しかしそれを否定されること、人格を認められないことはショックです。なんてことはない一言でそれは簡単に傷ついてしまうから人間てもうね。不思議だね。
ロボットにとって「自分」を認められるというのはこれまた不思議な話です。そもそもプログラムされた物にとっての「自分」ってなに?というお話。そんなもの存在しないよ、というのは簡単ですが、よくよく考えたら「そのプログラム自体がプログラムを守ることは、人格を守ることなのではないのか?」という疑問も出てきます。
 
とまあ文章で書くとなんだか自分でもよくわからないんですが、それをある2つの事件を通してこの話は描いていきます。ラストはひとつの解答として「なるほど」と自分は思いました。思わない人もいるかもしれませんが、ひとつの考え方としては面白いと思います。


何を守り、何を優先するかは、人間だって分からないものです。
ロボットならば逆に優先順位は単純にポンポンとつけていけるかもしれませんが、世の中は矛盾でいっぱいです、それを処理しきれるのかどうかは、今の技術で言えば完全にはNOです。人間がそれらをきわめて曖昧に感情をまじえて選択していくのと同じだけのことはできません。
できないけれども、未来では何を守るのかを「ロボットの視点で」考える、そんなことだってありうるのかもしれませんよ。
 

●今見ているものは事実ですか●

もう一個短編で、ものすごく何度も読み返しては首をかしげるほど面白いのが「第一回食育裁判」
ロボットをネタに使いながらも、確かに小学生のときに感じた「この世界のどこまでが本当なのだろう?」を描き出して、かつどれが答えかを読者に考えさせるという、トリッキーなお話です。

ロボットは一体だけ。先ほどの作品と違ってまったく人間と似ていません。
そしてこのロボは「サシミは海を泳いでいる」と主張しています。それをクラスで裁判にかけるわけです。
「そんなのあるわけないじゃん」と言いたいところですが、話はロボットを交えていることで複雑になっていきます。

ロボットなんだから、どっか壊れてるんじゃないの?
ここで「ロボットの精神鑑定」という言葉が使われているのもまたユニークですね。そもそもロボットなら精神じゃなくてプログラム鑑定でもいいんですが、彼らはこのロボットの存在を認めているわけです。ロボットだからなあと言いつつも、彼の言うことを裁判にするほどに認めているのです。
裁判の結果がどうなるのか、どういうオチがくるのかは実際に読んでいただいたほうが言いと思いますが、一回読んで「?」と自分はなりました。叙述トリックでだまされたような、いやしかし正しいような。
子供たちの見ている世界と、ロボットが持っているプログラム情報、そして世界の事実は必ずしも一致しません。
じゃあどれが事実?どれも事実なんじゃない?
 
ううむ、もう一度読み直しておこう。もしかしたらサシミが泳いでいるという考え方もありかもしれない。
 

短編集なんですが、「団地にロボがやってきた」と「第一回食育裁判」は続きがものすごく読みたい作品。作者の夏目先生は相当ロボットの視点についていろいろな角度から考えて、世界をひとつとして捕らえていない面白い描き方をする作家さんだと思います。もっとロボット描いてほしいよう。かすがの謎をもっと描いてほしいよう。
「王様の学校」も読んでみようかなあ。
 
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