たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「たかまれ!タカマル16巻」が投げかけてきた、出版に関するものすごい難問

「たかまれ!タカマル」は気がついたらあっというまに「天からトルテ!」(全14巻+全1巻)を超えて、近藤るるる先生の最長連載になりました。
どんな話かというと、タカマルというなんだかひょろっとした少年がゲーム雑誌を作る部活に入り、ぽっちゃりした女の子といちゃいちゃしたり、あばらの浮いているアイドルっ子といちゃいちゃしたり、ものすごいちびなゲーマー少女にいじめられたり、のっぽの才女に怒られたりするマンガです。
なんというフェティッシュ祭り!
 
ブコメ展開も楽しい「タカマル」ですが、この作品が長く愛されているのはわけがあります。
掲載しているのがファミ通で、横書き逆綴じというかなり変わった形式のこのマンガ。ゲーム業界の悲喜こもごもや、雑誌作りの細かな話に、青春模様をそっとトッピングしているのでえらい面白い。
ゲームが好きであればあるほどニヤニヤ度が増します。テンションの高いギャグマンガながらも、冷静にゲーム業界を見て描いているのがるるる先生の鋭い目線でしょうか。
 
んで、今回の16巻にはたまげました。
この作品、なにげにものすごい難問を投げかけてきましたよ。
 

●「嫌がらせ」と「いい雑誌」●

おおまかな流れ。
「SML」という学生がつくるゲーム雑誌をタカマル達がこつこつ編集しているのですが、そのOBの難波がものすごい自分勝手なやつで、なんだか悔しいから腹いせにと「SML'」という別雑誌を作って勝手に売り出してしまいます。
当然大パニックであちこち騒然。
しかもえらいテンポで「芸がない」「つまんない」と歯に衣着せず書きまくったものだから、情報提供したゲーム業界は言いたい放題書かれていることに怒り狂い、苦情殺到。
もうここしばらくの難波は見ていて「消えてくれ!!」と本気で思うくらいの小悪役っぷりを披露してくれました。ほんとうざいったらありゃしない。
 
しかし、メーカーからの苦情で「ひどい嫌がらせだ!」と怒るタカマル達に対しての、彼の反応でころっと場がひっくり返ります。

「いい物を作って負かしたい」
それまでは読者も読んでいて、難波ひでえ!となるわけですが、ここにきて視点が急激に揺さぶられます。
あれ?なんだかよくわからなくなってきたぞ。いい雑誌って…なんだ?
 

●雑誌が伝える物●

ここからの展開がすごい。
タカマル達元祖「SML」と難波の「SML'」が順繰り順繰り隔週で出ることになります。
どっちがすごいか見てみようぜ、ってことです。
あの先ほど引用したコマだけで分かると思うんですが、難波とタカマルの「いい雑誌」の定義が全然違うんですよ。
それをどう描くのかと思いきや、ものすごい方法でるるる先生はたたき出したねこれ。
 
たとえばものすごくたくさんのスポンサー料を出すゲーム会社があったとします。しかも8ページも!これはおいしいですね。雑誌的に。そのゲームのことはそりゃもう宣伝しますわな。スポンサーだもの。
だがですよ。
そのゲームがつまらなかったらどうする?

もちろん評価というのは絶対のものではありません。ここでモモちゃんがいっているように「個人的にはイマイチ」です。
他の人はもしかしたら評価高いかもしれません。前評判もとてもいいです。企業もものすごく力を入れて宣伝しています。キラーソフトとして売り出す意気込みでしょう。
 
だが「個人的にはイマイチ」。
これが責任のない一人の感想なら「イマイチ」と書いたり、全くスルーすることもできるのですが、スポンサー料もらって広告8ページも載せているのに、果たして「イマイチ」と言えるんだろうか?
いや、イマイチってのは大人げないとしてもプッシュ「しない」ことが出来るんだろうか。
 
これ…マジでファミ通で掲載したの?
すごいな…。雑誌作る上で、一番難しい問題じゃないのかしら。
 

●自由に主観的情報提供するか、マスコミとなるか●


難波チームはフットワークが軽いのと、お金の心配がないため、自由に書く道をチョイス。
なにげにココで言っていることものすごいですよね。分かってくれるところだけ広告載せればいい。こっちは「いい雑誌」を作るから、おべんちゃらなんて振りませんよと。
あまりにもかっこいいですし理想的ですが、それはこの難波チームが、タカマルチームのように「存続させる」ことを重要視していない上に、お金の経営をはなから深く考えていないから。
 
これ、正直わからない。どっちが「いい雑誌」かと言われたらそりゃ、思ったことを率直に書ける雑誌なんですが…それを貫き通すのはあまりにも至難の業です。
特に「ゲーム」という、ストーリーやビジュアルだけではどうにも出来ず、感覚に訴えるとても特殊な位置にあるメディアです。ファンの声や評価は映画や小説のそれとはかなり変わって、多様です。面白い人もいればつまらない人もいるのがゲームの複雑怪奇なところ。
 
雑誌経営と、ゲーム評価。
スポンサーと、自らの評価。
なんつー難しくて、できれば回避しちゃえと思っちゃう問題をたたき出してきたんだタカマル!これは面白すぎるぞ。
 
ちなみにこの展開、まだ決着はなにもついてません。問題提起だけです。
今はさらに別の問題が絡んでややこしくなっているんですが、それも含めて相当目の離せない作品になってきてます。
 
興味があるけど16冊買うのはナー、という人もいると思います。この「スポンサーと記事」問題は16巻からはじまった話題なので、興味がある人はこれだけでも読んでみるといいかもしれません。
そして、前半のモモちゃんの話がまたいい話なので、その前の巻に…そして前に…そして、全部読んじゃえばいいじゃない!
 

ゲーム業界をギャグにし続けてきたこの作品が、まさかの、ものすごい「攻め」の姿勢なネタの展開。でも考えてみたら確かに今までも冷静にゲームを見ている、るるる先生。
どう転んでもなかなか興味深い結果が待ち受けていそうです。