たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

乃梨子さんと瞳子さん〜ヴァレンティーヌスの約束。

ハッピーヴァレンタイーン。
バレンタインデーは女の子が好きな女の子にチョコレートをプレゼントする日です。
 
さて、うちのサイトはマリみての「乃梨子×瞳子」応援サイトなので、愛を語る日である今日は、乃梨子瞳子の話をします。

にしても通常版の表紙考えたスタッフ天才じゃない?天才!
瞳子ラブユー!このシーンをパッケージにしたスタッフは天才じゃない?(しつこいです)。
 
以下フィクションとかそういうもの。パラレルです。バレンタイン的ドリーミングです。
 

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「やっほー、瞳子。」
乃梨子は1年生教室で最後まで残っていた瞳子を見つけ、明るく手を振りながら教室に入ってきた。
瞳子が教室に残っていたのは他でもない、演劇の自主練習のためだった。ただでも山百合会の仕事が忙しいので、こういう時間にこっそりと努力しているのが、なんとも瞳子らしいな、と乃梨子は思った。
「やっほー、ってなんですの乃梨子さん。浮かれすぎですわ。もうすぐバレンタインデーだからって。」
瞳子はあからさまに目を細めて乃梨子のじっとにらんだ。ほらほら、私練習中だから、と言わんばかりの顔をして。
「うん、あんまり興味なかったんだけど、当てられたのかもね、リリアンの浮かれた雰囲気に。結構チョコのやりとりっていいなあって。商業主義に乗っかるのも悪くないなあって。」
「夢がないんですのね。」
瞳子だって、浮かれるでしょう?祐巳様に何のチョコあげるの?手作り?それともゴディバとかそういうの?ルタオもいいなあ。」
「浮かれすぎ、です!ほんっとにもう…今までだったら『私はそういうのあんまりやらないので』みたいな顔していたくせに。」瞳子は言うのとタイミングを同じくして、音をたてて台本を閉じた。
「んー、そうだっけ。」乃梨子瞳子の前の席に座り、体を腰掛けの部分に当てるようにして瞳子側に向いた。まるで子供のように、腰掛けの部分を股ではさんでギコギコと体重を乗せていた。「なんかね、みんなが幸せそうなのが、見ていて幸せなんだよね。」
「ん。それは、わからなくもないかも。」瞳子は頬杖をついた。
彼女も色々と思い悩むモノをたくさん抱えていたことがあった。でもそれらを氷解してくれたのは間違いなく、そういうリリアンの空気と、祐巳様と、乃梨子の存在なのも分かっている。
だから、こういうイベントは嫌いじゃない。昔は虚勢をはって一人で張り詰めていたのでそんなに楽しくなかったけれど、今はみんなが楽しそうにしているのを素直に、楽しそうだなと思えるようになった。
「でしょー。」
それにしても乃梨子は浮かれすぎていた。確かに二人でいるときは結構砕けた感じになるのも知っていたが、今日は特別ゆるゆるすぎる。
「で、乃梨子さんは私に、志摩子さんとの仲の良さをのろけにきたんですの?」
瞳子はちょっといじわるげに釣り針を投げ込んでみた。当たらずとも遠からず、という所なのは間違いないのが分かっているからだ。もっとも自分も、祐巳様に何をプレゼントするか考えるだけでちょっと楽しくなっているのだけれども。
「ううん、さすがにそこまでは。」
乃梨子は冬の夕陽をあびている瞳子の顔を見つめ返しながら、指で彼女のバネ髪をくるくると弄んでいた。頬杖をついている瞳子をマネして自分も頬杖をついたのだが、一瞬間があったあと頬が赤らんで、口元がにやけた。瞳子の髪の毛を触っていた指も、ぐるぐると変な方向に動きはじめる。
「…エロおやじ。まるで先代白薔薇様みたい。」
瞳子に言われて乃梨子はぴたっと動きを止めた。
「そんなににやけてた?」
「ええ。」
「うあー。」
乃梨子の頭に、耳に指を突っ込んできた先代白薔薇様の顔が蘇る。いや、かっこいい方だったけれども、そんなにセクハラな顔をしていたなんて。
 
「でも、不思議ですわね。」瞳子がぼそりと言った。「高校の間はこんなにチョコレートのやりとりが楽しいですけど、大学でもチョコレート持って行ったりするのかしら。」
「そか、そういわれてみれば、そだね。」乃梨子はあっけにとられたように言った。そういえばそもそも中学校の時だってあんまりチョコを誰かにあげたりしなかった。仏像仲間のタクヤくんにはあげた気がするけれど、浮かれるようなモノじゃなかったし。
「でもね、プレゼントするって、楽しいじゃない。」
「ええ。」
「いつでもいいんだけど、それが堂々と、しかもこんなにみんなで楽しく出来るって、凄いことだと思うんだよね。リリアンみんなが楽しそうだもの。」
「ですわね。ひょっとしたら一生で一番楽しいバレンタインデーを今、してるのかもしれないですわね。」
瞳子は外の景色を見ながら言った。
空は晴れ渡り、凜とした寒い空気を張り巡らせている。その中を貫くような夕陽が、彼女達二人だけの教室に差し込んでくる。
降り積もった雪に反射し、陽の光はどこまでも明るかった。
きっと、どこまでも、世界の向こうまでも、今だけは明るく光っているんじゃないかとすら思った。
木々も、人々も、町中も、世界中も、みんなこの一瞬の光を見ているようにすら思った。
ずっと見ていたい。
でも、この美しい景色は、あと数分もしたら終わる。陽は落ちて、周囲は急に夜の闇に包まれるのだ。
なんだか不安になり、瞳子は言った。
「腕をふるって、すてきなチョコ作らないといけないですわね。」
「…あれあれ瞳子、はりきっちゃってるんだ?」
「だ、だって、さっき乃梨子さんが…むー!」
乃梨子はけらけらと笑った。笑いながら漆黒の髪の毛が、夕陽にキラキラと揺れる。
瞳子今年は自作なんだねー。」
乃梨子さんは?」
「自作ー。ちょっとだけお酒入れてみようかなーって。ちょっとだけね。ちょっとだけ。」
「ボンボンとかじゃないですわよね?…はっ、まさか酔わせたあとに志摩子さんを…。」
瞳子エロい!エロおやじっ!」
乃梨子に言われたくないー!」
なんだか急におかしくなって、二人でけらけらと笑った。
体が揺れ、キラキラと夕陽が目に差し込んだりかげったりする。
瞳子が作ったチョコ見るの楽しみだなー。祐巳様喜んで見せびらかして回りそう。『由乃さん、見てみて瞳子ちゃんのチョコだよ!!』」
「なんという公開裁判…。」
瞳子は卒業したら、誰か男の子にチョコ作ってあげるようになるんだろうなあ。」
乃梨子はぽろっと言った。
 
なんだか、瞳子は急に言葉が出なくなった。
楽しかった世界が、夕陽で明るかった世界が、見えない何かに包まれるかのようなものに、怯えている。
「そ、それは…どうかしら…。」
「えー、きっとものすごいの作っちゃうよ瞳子なら。ものすごいどっぷり恋に溺れてるんだけど、ちょっと意地はってさ『これ、別に好きだから作ったわけじゃないんだからね!』とか言うの。」
「いや、それは、無いかなーって…。」
「またまたー。で、開けてみたらでっかいハート型で。本・命!みたいなの。」
乃梨子さん、あのね、」
「あ、でも意地はって『義理』とか書いちゃうかもね。ツンデレ!」
乃梨子さん。」
「大丈夫、応援しちゃうよ。愛を、あなたに!」
乃梨子っ!」
瞳子は目をつぶって怒鳴った。
二人の間の時間が、止まった。
乃梨子乃梨子。」
「ん?」
乃梨子。なんで泣いてるの。」
「ん。」
乃梨子は、泣いていた。浮かれて、笑いながら、泣いていた。
必死にこらえて、涙はまだ目元に浮かんでいるにとどまっている。
「泣いてるよ。乃梨子、泣いてる。」
「ん。」
乃梨子は急に何もしゃべることができなくなった。
堰を切ったように、口から、嗚咽が漏れた。
体がどうこうすることが出来ず、ただぼろぼろと涙が目から溢れ、どんどんほおを伝って瞳子の机と台本を濡らした。ぼろぼろと、ぼろぼろと涙が流れた。
「あ、やだ、なんで。」
乃梨子は必死に目をぬぐいはじめた。ぬぐってもぬぐっても、涙は溢れた。
そうか。
乃梨子も、同じだったんだ。
瞳子はつられ泣きしそうになるのを必死にこらえた。
「ごめ、や、見ないで。なんか変。」
「うん、いいよ。いいよ乃梨子。」
「うん。」
陽は、沈んだ。辺りは急激に暗くなり、寒さと夜の闇が支配し始めようとしていた。帰り道はきっと、凍えながらおぼつかない足取りで帰ることになるのだろう。
しかし、真っ暗闇になると思っていた景色は別の光で満ち始めていた。
月だ。
月の光が陽の光にとってかわって、世界を照らし始めていた。
その薄く柔らかな光は窓から差し込んで、乃梨子の涙をキラキラと光らせた。
雪に照りかえり、二人きりの教室を淡く浮かび上がらせた。
見たことも考えたこともなかったその光に、瞳子は不思議な安堵感を覚えていた。
ああ、そうか。
そうなんだ。
乃梨子は涙を止めるのに必死だった。顔をそむけ、必死にハンカチで目をぬぐっていたが、漏れる嗚咽を止めることができずにいた。
瞳子は、乃梨子の頭をなでた。
そして、乃梨子の目元に唇を近づけて、そっとその涙をなめた。
「しょっぱい。」
「…瞳子。」
「しょっぱい涙ですわ。」
「当たり前じゃん。」
泣き笑いしながら、乃梨子は言った。その一言で、呼吸が整ったようだ。
「約束しません?」
瞳子乃梨子の顔にめいっぱい近づきながら言った。時々キスをする時にこのくらい近づくこともあるが、その時のドキドキは今はない。ただひたすらに、乃梨子の濡れた瞳を見ていた。濡れたまつげが、きれいだなと思った。
「やくそく?」
震える猫のような乃梨子の目がそう言った。
「ええ。今年の2月14日には、お互いのチョコを持ってくること。」
「うん。うん。大丈夫。」
「そして、来年も持ってくること。」
「うん。」
「そして、卒業して、お互いどうなるか分からないけど。もしかしたら彼氏ができたり、結婚したり、海外に行ったりするかもしれないけれど、連絡が取れたらできる範囲で、チョコを送りあいましょう。ううん、絶対じゃなくてもいい。出来る範囲でかまわないから。」
「おばあさんに、なっても?」
「うん。出来る限り。おばあさんになっても。」
「…うん。」
乃梨子はもう一回涙をぬぐった。
もう泣いてはいなかった。
幸せな時が増えるほどに、不安になる。ならその不安は自分たちでかき消す努力をすればいい。
きっと、できると思うから。
一人じゃないから。
 
と、その時安堵していた瞳子の唇に、乃梨子が唇を重ねた。
ものすごいスピードで、舌が絡んできた。
「ひゃあ!」
瞳子は顔を真っ赤にしてのけぞった。
「いただき!」
乃梨子はいたずらっぽく笑った。
乃梨子ずるいですわ!もう…。」
そう言いながら、瞳子はその感触を確かめながら乃梨子の胸に顔をうずめた。
「うん、ありがとう瞳子。」
「どういたしまして。」
今度は緊張の糸がほぐれた瞳子の目から涙が出ていた。
しかし、見ようとも思わないし、見せるつもりもなかった。
気がついたら、二人ともぎゅっと抱きしめ合っていた。
あったかい。
お互いを感じるこの体温は、夢でも幻でもない。
今ここにいる証。
なくさないよ。
一緒に、いるよ。
 

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はっぴーばれんたいんー。