エッチから始まる恋もある。草野紅壱の描く、ねじの外れたキュートな女の子の世界
お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!! (1) (アクションコミックス)
posted with amazlet at 09.04.23
「お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!」がとても売れていて、昔からのファンとしてはこれはもううれしい限りです。
題名のインパクトもさることながら、内容の暴走疾走感が最高に心地よいわけですよ。
キュートな妹ちゃんが全力疾走で間違った方向に走るのもいいのですが、なんといって、どうしようもないくらいダメな兄貴がキモです。本当にダメすぎてすばらしい。
読後も爽快な草野先生らしい作品になっています。
で、この本の感想は各地で挙がっているので自分はとりあえずそれは後回しにして、今回は「是非このマンガから入った人が、過去の草野先生作品に触れて欲しい」ということで、エロマンガの方の魅力を紹介してみようと思います。
●女の子はねじがはずれたくらいがかわいいんだぜ●
「お兄ちゃんのことなんか〜」でもそうでしたが、草野作品の女の子は時々たがが外れたように明るく元気で、そして暴走気味なことが多いです。
確かに理路整然としている女の子もいいんですが、多少ねじが飛んでいる位の方が女の子キャラはかわいくなることがあります（男の子も）。もちろんそれだけではないんですが、それは後で話すとして、キュートな飛びっぷりを覗いてみます。
「思春期絶対領域」に掲載されている連作「僕と義妹の秘密」の華歩。
何をしているかというと、お兄ちゃんがオナニーした後のティッシュを手にしているというすごいシーン。この後さらにすごいことします。
女の子の無茶がかった行動もそうですが、このティッシュの山の量も異常です。
鼻血も吹くよ！
ちょうどこのダメ兄と暴走妹の構図は「お兄ちゃんのことなんか〜」のプロトタイプともいえます。
草野先生の絵はとても特徴的。表情のかわいらしさももちろん印象的ですが、なんといっても手です。
彼女たちの手は少し大きくてぽっくりしています。その動きが丁寧に描かれることで、手で心情が描写されています。
また手が大きいために、アクションもダイナミックに見える効果があります。
エロマンガでこれは非常に効果的。エロマンガにおける手は時には表情や性器よりエロいのです。
あとはこだわりのニーソックスを履いた脚。これがまたすらりと長いわけですよ。
制服姿にすらりと映える脚と、大きくふんわりした手によって、女の子のか細い感じと、抱きしめたら柔らかい感じが絵から伝わってきます。
「思春期エレジー」の「GoGo！girl!!」より。
デフォルメのきいた大胆な動かし方。大見得を切るかのような大げさな歩き方と擬音。それによって、女の子達がいかにキュートでねじが飛んでいるかが描写されます。
「多少おおげさな動き」と言うのは非常にバランスが難しい物で、あんまり大げさだと嘘くさくなるし、中途半端にリアルだけにするとダイナミックなパワーに欠けます。
その部分を、こだわった制服・ニーソと長い脚、歌舞伎を彷彿とさせる構図とポーズ、時折はいるデフォルメで、最大限に体を機能させる「女の子」像を絶妙なバランスで紡ぎ上げていくわけです。
まさに「マンガを読むほどにかわいく見える女の子」の描き手だと思います。
●交錯しまくる心の声●
草野作品の特徴の一つに、お互いの心の声が思いっきり表面化して読者に突きつけられるというのがあります。
たとえば象徴的なのはこのシーン。
「思春期エレジー」より「秘密の放課後」。
腐れ縁な異性の友人同士、周囲でカップルが出来ているのがうらやましくてついついセックスをしたものの、すっかりはまってしまっちゃうんです。
で、「なあ俺たち付き合ってみないか？」「ど、どうしようかな・・・」とほほえましいやりとりをしているように見えて、見ての通り心の裏では「セックスしてえ！」「セックスしたい！！」という本音丸出し。このギャップの激しさが面白いし、なんだかとってもよくわかる。
興味深いのは、最後まで読むとその心の声すら本当かどうかわからなくなるところです。「セックスしたい！」というのは本音ではあるのですが、その裏の裏に隠された心情があるわけですよ。
心の声をあらわにすることで、逆に描かれていない本音を読者に読ませる、というちょっと「マンガツンデレ気味」なテクニックです。
また、心の声を丸出しにすることで、キャラクターの心情変化の流れがより一層魅力的になります。
「思春期絶対領域」より連作「彼女と彼の秘密」。
お互いの秘密を共有することで、性のつながりを持ち始める二人の関係がとてもエロティックなわけです。
しかし、体を重ねるごとにどんどんお互いの心情も変わっていきます。最初はここにあるように、完全に興味本位なわけです。しかし「本当はどうなんだろう？」「相手はどう思っているんだろう？」というのはいくら読者が見ることが出来ても、二人の間で通じ合うことはありません。
その「心の内」を二人がいかに通わせるか。その描写が非常になだらかで、気持ちいい。
たいていエロマンガだとセックスシーンがクライマックスにきて、１ページ挟めて終わり、ということが多いです。
しかし草野作品は「心の声」と「現実の言葉」が一体になっていく過程を大事にしているので、ピロートークや、セックス以外の日常会話シーンがクライマックスになることが多いのです。
そこが、気持ちいいんだなー。
●セックスから始まる恋もある。●
ここで、草野先生の傑作の一つでもある長編「恋愛とセックスと僕と彼女」についてご紹介します。
お互い、好きでもなんでもない相手同士だったのですが、突然少女千鶴香が「わたしとセックスしてよ」と言って、二人のよくわからないセックスライフが始まります。
実際、少年隆義も「セックスには興味あるけどなんで俺？」みたいな感じで始まります。千鶴香側には一応理由はあるのですが・・・それは読んでのお楽しみに。
あっけらかんと、日常で急に「セックスしたくなった！」という千鶴香に読んでいて興奮してならないわけです。
あまりに日常化しているので、こんなデフォルメ化されたシーンで描かれることも。
とはいえ、少しS気味な女の子に「セックスしよう！」と振り回されたらそりゃうれしいですよ。楽しいですよ。
男の子なら、・・・好きになっちゃいますよ。
心情の変化は上に書いた「心の声」や二人の大げさ気味な行動パターンでどんどん明らかになっていきます。
それでも「これは体だけの割り切りだから」としているかたくなな有様。とはいえ言葉で「好き」と言わなくても、体からはじまって、体が体も心も欲することがあるんだ。
エロマンガのいいところは、体が内奥から、全力で相手を欲する様を描くことが出来ること。
最初はわけありの、割り切りな関係でしたが、体は本当に正直なのです。
この二人のセックスシーンもエロティックなのですが、何よりもこの作品、事前のやりとりとピロートークがすばらしい。
とても丁寧に、丹念に描かれたそれらはエロティックを越えて、ほっこり幸せな気分にさせてくれます。
「心の声」を超越した、二人の関係がじわじわとにじみ出してくるから。
最初の項目で「ねじのとんだ女の子はかわいい」と書きました。
それは転じると「ねじがとんだように見えて、実は相手のことを深く好きになっていく繊細な女の子だからかわいい」ということに他なりません。
「お兄ちゃんのことなんか〜」も妹ちゃんがアホでならないのが楽しいのですが、だんだん繊細になっていく彼女の様子にハート奪われていきます。
そうやって、読んでるぼくらは草野流の女の子に恋しちゃうんだな。
とりあえず「お兄ちゃんのことなんか〜」が好きな人は、恋愛模様が丁寧に描かれている「恋愛とセックスと僕と彼女」か、プロトタイプのような兄妹物の「思春期絶対領域」がおすすめ。
あと、言うまでもないですがニーソです。ニーソすばらしいです。制服・ニーソ・微乳！うーんデリシャス。
