たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

冒険の中で見つける「女の子ふたり」という宝物。「蓬莱ガールズ」一巻

 
えーと、友人の山田瑯さんの初単行本が出ました!
これはもうプッシュしまくらねば! 提灯記事わっしょい!
とか意気込んでたんですが、いざ友人の作品となると逆に辛めに見てしまうことに気づきました。
なんか知人で、製作過程も知っているだけに逆に褒めるのが恥ずかしいと言うか、あと突っ込みいれるほど入れ込んじゃってると言うか。うーん。
そんなわけで今回は逆にキツめの感想になるかもしれません、ごめん瑯さん! ツンデレなんだ!
(デレがないけど)
 

●少年漫画の「目的」●

先に結論だけ言うと、このマンガ面白いです。面白いのですが、非常に掴みどころがどこなのか一瞬分からないのです。
少年向けの冒険譚、ではあるのですが、定形の「強くなって目的に向かって突き進め!」にのっとっていないので、何がどう進んでいるのか非常に分かりづらい作りになっています。
しかし、それこそがこの作品の面白いところなんじゃないかなあ?と思っています。つまり、それぞれの読者がこの作品のどこに引っ掛かりを得るかで見方が変わる作品ではないかと。
 
おおまかな流れを簡単に説明すると、ゾンビな従者が箱入り娘の少女とともに飛び出して旅に出る物語。
ですが、目的地がすげー曖昧なわけですよ。
海賊王になるわけでもないし、何かを救うために戦いに行くわけでもない。
むしろ目的は後付けになっていく感覚が強いです。
一応途中から「蓬莱に行く」という目的が出来るため、ある意味現代版の西遊記に近いかもしれませんが、西遊記以上に目的感は薄いです。だって後付ですもの。
ここがミソになっています。ようはどこかに行くことそのものが目的になっている作品。
なので最初から物語の明快さを求めると、スピード感と女の子のかわいさに一気に読めますが、読み終わった後「?」が残るかもしれません。
 
だけど、その「?」こそが、面白さになっていくんじゃないかなあーと睨んでいたりします。
 

●女の子ふたり●

この作品、少年漫画にしては珍しく、主人公にあたるのは女の子ふたりです。
しかもそのうち一人は。

ゾンビです。
やった! ゾンビ大好き!
(正確にはキョンシーに近い)
なのでからももげまくります。加えて逆にそう簡単に死にません。うん、いい設定です。ゾンビ大好き。
 
このゾンビが「従者役」。
そして箱入り娘のお嬢さんの暴走についてまわるハメになります。

そう、このお嬢さんの存在こそが作品そのものではないかと思うのです。
 
このお嬢さん、先程も書いたように「冒険」に目的を持っていません。
とにかく外に出たい!幽閉状態から開放されて、大きな世界に飛び出したい!
そんな思いを胸にかかえて箱から飛び出すので、「蓬莱に向かう」という目的はあるものの、すごい目的としては曖昧なままです。漠然としています。
ぶっちゃけ蓬莱に実際につかなくてもいいんじゃないの?と思うくらいです。一巻の時点では。
 
ところが、このお嬢さん目的どんどん増やしていくんですよ。
「あ、これをやりたい!」「これも叶えてみたい!」「こんなことしてみたい!」
すごいです。目的がないのが目的になっていて、どんどん膨れ上がる。
しかし目的がないのが逆に一本の芯になっているため、全く軸がぶれません。
 
ゾンビ従者の陽々は割と心配性なんですよ。
というか常識人です。
これをしなければいけない、あれをするべき、行動には順序を持って……云々カンヌン。
 
ある意味これは「停滞」とも取れます。
保守……ともいえなくもない。
停滞や保守は決して悪いことではありません。むしろ必要なことです。
が、それだけではいけない。そこを破壊する太陽がお嬢さんにあたります。

お嬢さん、割と何も考えてはいないんですよ。
ただ、考えすぎて行動できない陽々にしてみれば、行動してから考えるお嬢さんの存在は非常にまぶしいわけです。
 
なるほど、確かにこの作品「目的」「成長」などを考えると微妙な「?」がたくさん浮かびます。でかい世界にいるはずが、思ったよりでかく見えないこともあります。
逆にそれは「女の子二人が手を取り合って、とにかく前に進む」というテーマなのではないかと視点を置き換えると、一気に作品の見え方が変わってくるのではないかと思うのです。

 

●どこまで続くのだろうか●


視点を「女の子二人」に置き換えると、急激に物語の見え方が変わってきます。
気づいている人はひょっとしたらもう一話の時点で気づいているかもしれません。自分は一巻を読み終わってから気づいたので遅いかもですね。
とにかく前に、考えも無く進む、しかし太陽のように明るいお嬢さん。
影で支え、考え事が多く、気配りの絶えない、月のような陽々。
今は「やりたいこと」はどんどん膨れ上がっていますが、一巻時点では「目的」らしい目的はまだ明確なものにはなっていません。
でもいいんですよそんなの。
だって、大事なのは女の子ふたりで広い世界に旅立っていくことなんですもの。
そういう意味では、世界は広いように描写されているのに、感覚的に狭く見えるのも納得。むしろ世界が広いからこそ、お互い二人で見つめ合うことができます。
 
特に作品の視点は陽々寄りです。
陽々から見た、もうまばゆいような元気の固まりのお嬢さんが、すごいいいんですよ。輝きまくってるんですよ。どんなことがあっても、挫けたりしないんですよ。
 
少年漫画的には「ここでくじけて、そこから這い上がるだろう」みたいな構えが読み手側にあるんですが、それをお嬢さんは華麗に飛び越えていきます。
「悩み? やってから考えるよ」と。
彼女が挫折する日がくるかどうかは今の時点では分かりませんが、少なくとも陽々視点から見た場合、挫折をするのではなく燦々と輝く太陽であってほしいように見えてなりません。
 
しかし、この「二人で旅をする」というのは素晴らしい目的の一つだと思いますが、同時に言えばそれ自体が「目的」であるが故に、達成が見えないんですよ。


人間よりもタフで、すぐ体がもぎもぎされるゾンビっ子の陽々。彼女は歳をとりません。お嬢さんが子供の時から仕え、何時までも自分はその姿のままでいられます。
今は自分の姿とお嬢さんの姿が一致しているという、非常に幸せな瞬間です。
お嬢さんのワガママに振り回され、体はしょっちゅうもげ、苦労が絶えず、お嬢さんの尻拭いばかり……主従関係の従者側の苦労の固まりみたいな子ですが、それでも陽々視点だとやっぱりそれは幸せなんですよ。
これって、陽々の「目的」ですよね。
 
そして、その目的は達成地点がありません。

だから、いつか終りが来ます。
楽しい時を過ごして、必死に頑張って、目的をつかみとるはずじゃないのか?
自分はなぜお嬢さんと一緒にいるのか?
失うために、いるのか?
 
これが男女の主従関係じゃないのが面白いですね。
女の子同士なんです。
陽々はきっと、これからずーっと悩み続けるでしょう。どうすればいいか分からない、今このまま旅を続けて行くのは「楽しい」かもしれないけど、どこにたどり着くのか、目の前に見えるのは光なのか闇なのか分からない。
しかし、それをお嬢さんは簡単に破壊します。

このコマ好きだなあ。
やっぱり視点は陽々なんですよ。
陽々が、元気で明るくて挫けないお嬢さんを見て、ものすごく憧れと、嬉しさと、手のかかる子だなあという思いと、愛しさを持って見ているこの関係。
お嬢さんは掛け値なしに陽々が好きです。裏表一切ありません。「好き!」と言ったら好きなんです。
今は確かに幸せだ。
さあ……じゃあ女の子二人で、しかも自分は歳をとらずゾンビで。
もしかしたらお嬢さんが死んでも、自分だけ生き残ってしまうかもしれない。
あるいは自分だけ先にバラバラになって壊れてしまうかもしれない。
 
人間が「ストレス」をかかえるのは、人間だけが特に「未来を予測しよう」とする感覚を持っているからだと聞きます。これは科学的な話。
未来のことを考えようとする力を持っているから複雑な行動をとることが出来ると同時に、悩みやストレスを抱えるようになったというのです。
ならば、陽々の抱えているストレスはまさにその「未来への不安」そのもの。
「幸せな結末ってあるの?」と自問自答してドツボにハマっている感覚が見られます。
そうした陽々視点で見たとき、お嬢さんはその悩みを切り開いてくれるんだろうか?
 
この作品はおそらく「蓬莱に向かう」というでかーい夢よりも、「すぐ側にいる人とどこまで一緒にいられるのだろうか」という女の子二人の距離感への悩みをまとって、その解決のために前に前に進んでいくのではないかしら。

とかめんどくさいことを考えず「主従関係萌え」として見ても面白いですね。
元気の権化みたいなお嬢さんに振り回される、白髪ロングのゾンビ子!くそうかわいいな。
 

うまいなーと思うのは、蓬莱の名の通り中国風世界が舞台なのに、お嬢さんと陽々だけは極めて現代的な女の子ファッションだということ。これが意外と浮いていないから、完全に二人の世界が切り取られているんですよね。だから広い世界の中でも、狭い二人の関係がクローズアップされるのかもしれません。
自分の感想はちょっと穿った感じになっていますが、少年漫画的アクション物としてみても遜色ないので、是非。
にしても、現時点で単行本化されている別マガのマンガはどれも面白すぎて大変。別マガはこの独自の作品群でしっかり礎を作っていく方がいいんじゃないかしら、無理にメディアミックスとか週刊から作家引っ張ってくるよりも。「ラブプラス」表紙はとてもいいけど、いっそ「悪の華」とか表紙にしてくださいよ!