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世界一かっこいいオナニーをした男。「アイアムアヒーロー」7巻

いやあ、表紙でまずびっくりしましたけんどね。
それはともかく、ゾンビパニック物としても、ルサンチマン物としても一級品すぎる「アイアムアヒーロー」ももう7巻目。
ゾンビ物と言っていいかな?微妙カナ?作中では「ZQN」と言われていて、社会的には死んでいる(人間としての意識を失って、過去の行動の繰り返しをしている)けど生物学的には生きている(生命が死んだわけじゃない)感染者を描いた作品。
このバランスは、それこそゾンビ作品の根幹のテーマでもあるので、本当にうまく挑んでいるなあと感じます。
 
さて。
今はまだ感染していない人間が集まってZQNから逃げている状態。7巻では生き残りの人たちと合流したところから始まっています。
 
何が凄いって、ゾンビより人間の方が酷いってことだよね。
いやあ待ってましたよ、花沢流人間不信描写。今までもDQNなやつらはDQNでしたが、それ以上に今回は生死も関わっているので、お互いの人間不信極まれりな感じです。
一巻の頃からそうでしたが、不快感を与える人間の描写が強烈極まりない。生理的嫌悪感を催します。
ゾンビはまだ「ゾンビだしねー」で済むんですが、生きている人間の嫌悪感は生きている分劣悪。
まあ、この見た目の生理的嫌悪感や画面の窮屈さは、主人公鈴木英雄が見ている世界そのものだから、でしょう。
窮屈で混乱した世界観はマンガの中でも「ゴーグル越しに覗いた世界」としてコマ割りをする、というかなり特殊な手法で表現されていました。半分恐怖、半分ゲーム感覚に見える世界が面白いです。
 
今まで主人公の英雄は、逃げることしかしませんでした。
しかし、今回ついにやったね。
自分の意思で動いたね!
初めてと言っていいくらい自分の意志で明確に決めたこと、それは。
世界一かっこいいオナニーでした。
 
自慰的とかそういう意味じゃないです。文字通りの自慰。
連載当初から「ついに英雄が動いた! オナニーを!」と話題になったものです。
そのくらい強烈だったんですよ。絶対何も出来ない、逃げてばかりだろうと思っていた彼が、自ら決めて、逃げず流されず行動したといっていいくらいの出来事。
他にもまあ色々今まで行動していますが、個人的にはオナニーをしたシーンからが、彼が本当の意味でヒーローになるターニングポイントだと思っています。
 
簡単にいうとオナニーをすることで相手の尊厳を守った、人としての自分を保ったのです。
それはある意味命がけの行為ですらありました。極限状態で、目の前には据え膳。
だけど彼はオナニーを選ぶことで、「人間」であることを選びました。
 
花沢作品全般に言えることなのかもしれませんが、人間は信頼出来ない時は徹底してできないという強烈な思いと、それでも「人間」に歯を食いしばってしがみつく様子が描きこまれています。
今回「アイアムアヒーロー」では明確に人間と人間ではなくなってしまったものを描きました。もう人間じゃないんですが、でも比呂美のように感染しても英雄を助けるために動く、信じるキャラもいるという対比が興味深い。
今回の7巻で、「人間だって人間じゃないような行為するじゃねえか」とはっきり描いています。
感染した比呂美の方が人間的で、人間の生き残りの方がよっぽど信用できない。なんでしょうねえもう。
 
まだ生き残りメンバーの中ではまともな女性、藪さん。
まあまともといっても生き残るために手段を選ばないできてますが、ある意味英雄のオナニーという行動で「人間」であることにしがみついたキャラの一人です。
しかしアレですね、藪さんかなりいいキャラですし、頼もしいんですが、彼女とヤらないことがかっこいい、というのがこのマンガのキモですよほんと。
今までの作品に比べると女性不信度は下がって、てっこ、比呂美、藪といい女性キャラも増えてきています。
それでも彼は、こう言ったね。
「大丈夫だ。一人でできる」
最高に、かっこいいオナニーでした。
 
ゾンビから生き残るのも大事だけれども、それと同じくらい英雄が何を選択し、どう動くかを自分の意思で決めるのは重要なこと。
 

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この世界が怖くて仕方ないに決まってるだろうが。「アイアムアヒーロー 1巻」 - たまごまごごはん
個人的には一巻の、英雄が妄想癖で怯えているシチュエーションがすっごい好きだったので、ゾンビパニック物にならないで、恐怖心に追われている状態を見続けてみたかったんです。
でもやっぱりここまできても、英雄が熱血にならずいつもどおりで怯えているのが描かれているのは本当に見事。
しかし女性の描写はやはり気になりますね。藪が感染した比呂美から見たら化け物っぽいのが気になります。