たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「純潔のマリア」の、魅せ方の構造〜マリアが処女じゃないといけないわけ〜

もうね。
限定版は見たら買ったほうがいい。
付録画集、作者は「画集というほどのものじゃない」といってますが、これは超貴重。
フルアナログマンガ絵画の美学を堪能できるすごい本です。ぜひ!
 
まあ、なんでここまでオススメするかというと、「純潔のマリア」のイラスト自体も素晴らしいからなんですが、作品の前身となった10年前のマンガ原案「コンピエーニュの魔女」がちょっと載っているからです。
百年戦争+魔女、というまさに「純潔のマリア」と同じ設定なんですが、非常にリアル志向で内容は重め。
これはぜひ見ていただきたいです。全部は載ってないですが、何をやりたかったのかが分かるとこの作品の見え方が深まります。
 

                                                                                                                                          • -

 
石川雅之先生がやりたかったことが、二巻では一気に広がっています。
人間が引き起こした戦争。
誰も望んでいない、でも止めることができない面倒くささ。
死にたいなんて思う人はいない、なのに戦争が終わらなくて死んでいく人々。
大人の事情で戦争をやめることができない派閥等のまどろっこしさ。
王侯貴族たちの誇りがネックとなって混迷していく戦況。
キリスト教を広めるために、土着の宗教を取り込んでいったカトリック
異端審問と魔女狩り
精神的に圧迫される人々の生活。
(このへんも画集・ブログに書かれています)
 
いやあもう、めんどくさいったらありゃしない。
だから100年以上もダラダラも続くわけですが、当事者としては気が気じゃない、というか一番迷惑千万なのは民衆。
そもそも「平和」という状況をしらないキャラも登場しています。
だよねえ。長いもんねえ。ずっと戦争だもんねえ。
百年戦争 - Wikipedia
 
ヒロインのマリアは、魔女です。
簡単に言うと、魔女のマリアはサキュバス達を駆使し、「夜の政治」を牛耳りながら戦争を止める方向に動いています。
それ自体は他の魔女達(二巻でいっぱいいるのが判明)もやっており、どちらかというとむしろ戦争が長引いてお金が手に入ることを目的にしているんですが、マリアと使い淫魔達はあくまでも戦争を止めるために行動します。
で、それだけでおさまることも多いけれども、おさまらないことも多いので実力で魔物を呼び出して、戦争を強引にぶち壊します。
 
一巻ではこれが面白かったわけですよ。
魔女マリアが戦争が嫌いで、ムキになって実力行使で戦争をぶっ壊すユニークさ。軽快に描かれています。
しかし途中から天使が登場します。
天使というからには神の使いなわけで、神の使いということは人間の味方……かとおもいきや、人間の戦争に干渉するな、と言ってきて、お目付け役をマリアにつけることになります。
あれ、戦争を止めに来たんじゃないのか……。
 
タイトルにもあるように、マリアは処女。名前もマリアですしね。
別に心が貞操を守っているとかじゃなくて、興味はあるんだけど、心が純情な少女なので踏み出せないだけ。ここがかわいい。すごいかわいい。めちゃくちゃかわいい。
しかし、お目付け役エゼキエル(注・聖書の本物ではなく、女の子型です)が付けられます。
そして、彼女は処女を失うと魔女ではなく人間になります。
個人の幸せ(好きな人と結ばれる)と世界の幸せを天秤にかけられた状態。
 
それでもマリアは戦争を止めるために、二巻でも淫魔達を使い走らせ、魔物を呼んで戦争をぶっ壊し、みんな家にお帰り、と言います。
別に神になろうってんじゃない。フランスの味方でもイングランドの味方でもない。ただ目の前で血を流し人が死ぬのを見たくない。
マリアは、天使と教会と戦争そのものにケンカを売ったのです。
 

                                                                                                                                          • -

 
この話、実はというまでもなくとんでもなく巨大で重いテーマを扱っています。
戦争はなぜ起きるのか、止むことがないのか。
当時の教会は何のためにあったのか。
ひいては天使の規律に基づいた行動が正しいのか、魔女マリアの人情に基づいた行動が正しいのか。
これをストレートに描いたら、もう、相当に読みづらい、きっつい話しになっていたでしょう。
というか、現時点で、がっちり読もうとするとものすごい読解力を求められる部分は多いんですよね。ぼくも全部はわかってないです。100年戦争やカトリック教会の実情も知らないですし。
まあそのへんは史実とは違うファンタジーだからよいとしても、描かれている人間・魔女・天使・妖精のばらばらな行動は読み解くのが非常に難しいです。戦争なだけあって、人間が最も恐ろしい生き物だというのも押さえているため、一筋縄では行きません。
だけどマンガとしての読みやすさがケタ違いにいい。
絵が綺麗なのもありますがとーにかくすんなり読めます。「もやしもん」のテンポで笑えます。人間の怖さも「そう描くか!」ってくらいライトにわかりやすくなっています。
 
基本的にマリアのことを知っている民衆は、マリアのことが大好きです。
マリアが戦争をめちゃくちゃにして止めてくれた。
おかげで家族が帰ってきた!
自分たちの力ではどうにもならない、命がけでもマリアの森に矢文を撃てば、止めてくれるかもしれない!
 
しかし教会とマリアの仲は最悪です。
まあ、そりゃそっか。魔女だし。
カトリックの町は魔女のマリアが薬を持って行っても、罵り、殴り、追い返しました。それ以来、マリアも町に行くことはなくなりました。
でも、薬が欲しいと求めて、こっそり慕ってやってくる人には薬を分け与えます。
いい子なんです。
うん、いい「子」。
 

                                                                                                                                          • -

 
難しすぎてYES・NOでは答えられない問いを描いた本作品、それをエンタテインメントとして読みやすくするにはどうするべきか。
それを考えたときに出てきたのが魔女で処女という設定だったのだと思います。
これすごい発明ですよ。
もちろん作者は別に処女崇拝的考えの持ち主ではないので、サキュバスはエロティックで魅力的に描きますし、エッチ大好き魔女さんが出てきた時も「処女礼賛なんて童貞の妄想かロリコンの夢物語、男は所詮最後は女のテクニックにおぼれたいのよ」とばっさり言います。
個人的にビビったのは、ミカエルの使いエゼキエルが処女じゃなかったということでした。
なるほどね、そういう世界観なのね!
戦争ばかりの暇な生活でやるこたひとつーってか。
 
ここに「処女を捨てると魔女じゃなくなる」というネタが盛り込まれることで、マリアのキャラが立ちます。
使い魔にすらバカで夢見がちな処女とまで言われるマリアですが、それでいいんですよ。
真剣に処女云々考えるんじゃなくて、みんなエッチしている世界だから処女のマリア、ってのはキャラ付けの個性になってるんです。「ツンデレのマリア」みたいなノリなんです。
で、この処女って言葉が入ることで、「マリアは夢見がち」というキャラがドン!と立ちます。
 
同時に、戦争がテーマの重い話、ってなると読むのがしんどいですが、エロティックなサキュバスが出てきて、処女のマリアにオナニーを促すマンガって言うと、超読みたくなるじゃないですか。
うまいよなあー。
このシーンだって、マリアが使い魔に振り回されている時点でマリアのキャラさらにたってますもんね。
 
まさに「うぶなねんね」なマリア。
自分も処女かどうかでキャラを見ることあんまりなかったのですが、この作品に関してはマリアは処女じゃないとだめだよなあとしみじみ感じます。
要するにマリアは特別というのをすっごい引き立てているんですよ。
 

                                                                                                                                          • -

 
全体的にマリアが処女というのはネタで盛り込んでいるので、あんまり難しい部分考えこまなくても感覚でパラパラっと見られます。
また石川雅之先生の描く女体がエロティックだから、たまらんですよ。
そしてマリアとエゼキエルのロリボディが、ぼくのハートにはズキュンですね。もちろんgoodアフタに付いてたフィギュアも持ってるよ!
 
あらすじを誰かに説明すると、本当に重たい作品なんですが、マリア処女ネタがうまーくオブラートになって、戦争の苦しさを包んで見せます。
またマリアが強大な力の持ち主で、戦場そのものをぶっ壊す描写も非常に重要。これがあるから「もーいいや!」ってなります。
だから気楽に読める。
気楽に読めるけども、何かが必ず引っかかるはず。
特に2巻では。
 

                                                                                                                                          • -

 
マリアは泣き叫びながら言います。

家族を守りたいと願う男達
子を守りたいと祈る女達
父母を信じ疑うことなど考えもせず、決して離れることないようその一念のみでしがみついていた子供達
その想い全て、何もかもなくなっちゃったじゃない!

 
二巻は基本、エゼキエル視点で物語が進みます。
むしろ二巻の主役といってもいい。
エゼキエルはあくまでも天使の使いなので、何かを判断して逆らう事ができません。
しかし「人間の、目の前にある不幸を見過ごしたくない」という純粋な思いで涙を流すマリアを見て、困惑します。
自分はマリアを戦争から引き離す、ひいてはマリアが「世の理を破る時裁く槍」。
でも目の前で必死になっているマリアを見てエゼキエルは心が激しくえぐられるのです。

魔女マリアはその力を用いて願いを叶える事が出来ます。
マリアは認めています、自分もまた主の作りたもうたこの世界の中の一人だと。
敬虔ではないとしても、あの者の行いそのものは断罪に値するのか悩ましいのです。

本当は何も言えず、ただ断罪するだけのためにきたエゼキエルの存在が、今後物語の大きな鍵になっていくでしょう。
 

                                                                                                                                          • -

 
15話は本当にすごかった。
すごい、って表現は適切じゃないのかもしれないですが、あんまり書いてもいけないし、かといってこれ以外の言葉が見つからないくらい、この回のために今までがあったんだろうと思うくらいにすごかった。
気まぐれ乙女だけど、人を救いたい、戦争を止めたいと願う純真なマリア。
天使の使命を背負いつつも、マリアの意思に強く惹かれ苦しむエゼキエル。
物語は大きく動きます。
 
動くけど、構えすぎると読むの大変なので、他の魔女に「いい男みつくろってあげる」と言われて「ででででも心の準備が」と照れてしまうオンナノコなマリアかわいいくらいの感覚で読むとちょうどいいと思います。
 
長々書きましたが、マリアの処女ネタというセクシャルなエンタテインメント要素と、戦争とマリアの望みや対立の重みのバランスが最高のところでぶつかってできた作品だと思います。
まさに、画集にあった「コンピエーニュの魔女」で出来なかったことを、ここに来てリミックスしたなあと驚かされました。
3巻以降の展開は強烈なものになることまちがいなしだろうなあ。こうなっちゃったら、マリアもエゼキエルもただじゃすまないもんなあ。
 
処女と百年戦争といえばジャンヌ・ダルク、ってくらいのインパクトイメージがあったので、それがこのままマリアに引き継がれている気もします。
ジャンヌ・ダルクが魔女の力を持っていたらどうなったのかなあ……とか考えちゃいますな。
いずれにしても、マリアがそもそも処女(魔女は悪魔との交わりで力を得るから)って時点で、魔力の所在が不明なので、もしかしたら……という一波乱も妄想したりします。
まさかね。でもわからないね。
純潔のマリア 1 (アフタヌーンKC) 純潔のマリア(2)限定版 純潔のマリア(2) (アフタヌーンKC)