「少女」は「美千代」のように、自由奔放にして時に逸脱する
森ニきゑ『美千代』が大変ツボです。
このビジュアル見て、グッと来た人は、ほぼ間違いないので買うといいですよ。
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舞台は多分昭和初期。缶ジュースじゃなくてラムネとか飲んでる時代です。
女学校でいつもいじめられている町子(黒髪そばかすの方)。
彼女はいつも考えていました。
私は違う。
彼女たちとは違う。
こんな教室で、等間隔に詰め込まれて、同じ顔して同じ毎日繰り返してる、あんな奴らとは違うんだ……!
悶々とする彼女の前に現れたのは、笑顔でエキセントリックな行動をする美千代。
突然キスをしたり、男の先生にパンツを脱いで渡したり。
「誰だって狼と犬なら、犬をいじめるに決まってるわ。今からあンたは狼よ」
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町子がものすごい勢いで、美千代という摩訶不思議な少女に惹かれていきます。
モノローグがすごい。
美千代は違う。クラスのどの女の子とも美千代は違う。
自由奔放で、周りを振り回し、常識もモラルも通用しない。
そんな美千代に、私はこの中で、一番近い存在なんだ……
崇拝ですよねもう。
美千代と町子は一緒に駆けまわりながら、奔放な行動を繰り返します。
変態教師を女子トイレに押し込めて水をぶっかける。
先生を好きなクラスメイトのパンツを脱がせてノーパンブルマにさせる。
教室で下着姿になって、悲鳴をあげて変態教師をビビらせる。
(変態教師ばっかだなこの学校)
崇拝は次第に依存になり、町子は狂っていきます。
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美千代のいうところの「狼」。
少女(という概念)には三種類あって。
一つはクスクス笑いをしながらヒミツの世界を作っている子たち。
一つは規律正しくルールを守って世界を紡いでいく子たち。
もう一つはこの世の常識から逸脱していく子たち。
そして、逸脱に憧れながらも、そこに届かない子もいる。
ヒミツの世界に入れない子もいる。
宙ぶらりんだったのが、町子。
これもまた、少女像のひとつ。
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ナボコフの「ロリータ」に出てくるロリータも、相当気まぐれ。
というか手に負えない。
はねっかえり、って表現でいいのかな。
ヒミツの子たちも、逸脱する子も、世界を紡ぐ子も、みんな「大人の常識」でははかれない部分の住人。
現実的にはわかるんだけどね。
いわゆる「少女」という語は、「大人がわからないものを持つ女の子」って意味だと思う。
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美千代たちは性に関しても攻撃的なのが面白い。
変態教師たちをことごとく撃退します。
ぶっちゃけ、読者側は変態教師視点なわけですよ。
女子トイレに閉じ込められて、棒で突かれて、水をぶっかけられたい。
美千代のようなエキセントリックな少女に振り回されたい。
そういう性癖じゃない人でも、飲み込んでしまう魔力が美千代にはある。
これって「少女」の究極形だと思う。
町子が狂うのがよくわかる。
だって、自分は普通の「女子」だけど、目の前にいるのは「少女」だもの。
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これを見て思い出したのは、谷口敬の「水の戯れ」でした。
でもそっちも入手困難ですね。
中身を説明すると……なんもしてないんですよ。
女の子たちが学校で、戯れるだけです。
下着姿になって飛び回る。
これがどうしようもなくキラッキラしてる。
女の子はいいですねー。がんじがらめになるほど守られていながら自由奔放に振舞っているようで嫉妬さえしてしまいます(それがロリコンブームの本質だったのかも)。でもそんな女の子も成長しなければなりません。いつまでも少女ではいけません。成長の場には学校が最適。それは男の子も同様でしょうが。この女の子たちも今はけっこういい歳に……。
(「水の戯れ」コメント 英知出版)
80年代、ロリコンブームのにおいがひしひしと伝わってきます。
ロリコンといっても今の少女性愛とちょっと違う。少女へのあこがれから、アニメ趣味全般までひっくるめた、ほぼ「オタク」と同義語みたいな扱いでした。
ただし、美少女必須です。
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この一文が、「少女」という言葉の真意をすごく突いている。
・守られている(子供)
・自由奔放で気まぐれ
・成長する刹那感
「美千代」も「水の戯れ」も、少女たちの姿こそ違えども、自由に駆け回り、大人の保護の中にいながら大人を飛び越えていく。
「少女」が好きな人……たとえばぼくとかは、嫉妬しているのかもしれない。
少女になりたいんだろう。
生まれ変わったら少女になりたい。
しかし、少女でいる時間は、わずかしかない。
そもそも、「少女」なんて概念になれるのか?
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奇しくも、「水の戯れ」収録作品の一部は80年代のリュウに掲載。
「美千代」は今のコミックリュウ連載。
血はつながっていた。