たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

バイクってのは、止まってると倒れちまうんだ。「恋ヶ窪☆ワークス」

●バイクはただ走る●

バイクは、色々ある乗り物の中でも特殊なものです。
場所をとらず便利な側面もありながら、車より手がかかることもあるし、なんせ事故ったら簡単に死にます。
そんな乗り物なのに今も昔も、多くの人が魅了されます。
なぜかって?
ただ、走るからだよ。
 

恋ヶ窪★ワークス 愛蔵版 (Motor Magazine Mook)
大森 しんや
モータマガジン社
売り上げランキング: 1313

大森しんや先生の「恋ヶ窪☆ワークス」の愛蔵版が出ました。
この作品「ミスター・バイク」で2003年から2006年まで連載されていたという、なかなか手にする機会のないタイプのマンガ。今まで本は出ておらず、ミスターバイクの付録としてだけ出ていたものが、待望の単行本化です。
 
バイクマンガといわれると「バイクはあんまり興味がないからなあ」という人も多いはず。特に走り・ウンチク系となってくるとなおのこと。
しかし。このマンガは、むしろバイクに乗らない人こそ見て楽しい作品です。すげー乗りたくなるよ。
 

●その女の子はどんどん走ろうと決めた●

舞台はごくごく普通の、でも今は見かけなくなりつつある街中の小さなバイク屋。
そこで働く変なおっさんと、元気いっぱいの女の子を中心に物語は進んでいきます。

なんだかゆっくり流れる時間の中、毎日でも通いたくなるようなお店なのです。
 
ちょっと半目で丸っこくて、感情的になることもある、裏表のないこの子。
この子、ひたすらにやることなすこと幼いです。それがキュートでもあり、青臭くもあり。
そんな彼女がただひたすらにバイクを愛する話なのですが、この乗り物を愛する時一気に視野が広がっていくわけですよ。
 
バイクに乗って走る時、前が見えるだろう。
バイクを触って手入れしている時、共に歩んだ時間が見えるだろう。
バイクに乗っている人に出会うとき、未来が見えるだろう。
 
そんなふうにバイクと共に彼女が、もがいたり、笑ったり、駆け回ったり、泣いたり、叫んだりするのにはわけがあります。


マンガの最初の方ですぐに描かれるのですが、彼女の親友の原チャリ仲間が、死ぬんです。
事故で。
 
バイク事故は本当に怖いです。
友人のライダーたちも「1回、死にそうになったことがある」と語る人が多いです。それが武勇伝でもなんでもなくてトラウマになっているように語るのだもの。ですよね。車事故と比べてはるかに簡単に死にます。
しかし走っている時にそんなこと考えられないじゃないですか。もう永遠に走っていられると思っているのに。一瞬で終わるんだもの。
 
この物語は明るくて幸せな作品ですが、根底にぼんやりと、生と死が隣り合わせな人生の一本道を走っている感覚が漂っています。
だから心に入ってくる。
 

●アタシのボス。●

この作品で欠かせないのが、彼女の師匠みたいな存在であるボス。
小汚いバイクマニアなおっさんです。インパクト強いキャラの割りにそこまで登場はしません。
とにかく胡散臭いし、そばにいたらとりあえず疑うタイプの外見をしているんですが、どうにもこうにもこの作品があやめ視点なので、非常にこのボスの存在が見ていて居心地がいいんですよ。

事故で親友を失ったあやめが自殺を図るシーンで、唐突にわけのわからないことを言う、知らんおやじ。
誰だよお前!オレを置いていくなとかいわれても困るよ!知らないよ!
 
彼は常にひょうひょうとしていて、いつの間にかあやめにとっても「ボス」な存在になっていきます。彼の「ボス」っぷりは必見。何をするでもないのにとっても「ボス」してます。
またこの響きが古臭くていいですよね。「ボス」ですよ。
 
彼があやめたちのどたばたを茶化しているうちに、物語はどんどん帰る場所になっていきます。
バイクでどんどんどんどん走って走って。時には何も考えず、時には悩みながら走って、でも帰ったらボスがいる。
 

●走った時に、景色は通り過ぎる。●

あやめ達のような若者は、ボスの元に戻りながらどんどんバイクで走りまくります。
走って走って、時に休んでまた走って。
確かに帰る場所はありますし、時間はのんびり流れているようにすら見えます。
しかし、一つ大事なことがバイクにはあります。
それは、一度通り過ぎたらどんなにロースピードでも振り返る事がないこと。

バイクが走ることは、生の風を受けて一走りごとに道路を踏みしめて前に進むこと。
彼女は確かにアクセルを吹かしながら前に進みます。楽しい事も気に食わないことも悲しい事も、ただ前に進むだけです。振り返らないよ。
街の明かりは後ろに通り過ぎ。きれいな一瞬の景色を心に刻んだら、また前に進んで。
 
それを全速力でぬけるのもいいだろう。
それをゆっくり名残惜しみながら見るのもいいだろう。

「こんなにムキになって、これ以上スピードは出ないよ」
「小さいエンジンなんだもの、無理すると壊れちゃうよ」

 
ぼくらは、バイクみたいなものだ。
ちょっと事故をすれば死んでしまう。ムチャをすると簡単に壊れてしまう。メンテナンスも必要だ。
でもそのバイクに乗っていくんだよ。
なぜかって?
ただ、走るからだよ。
 

●それぞれの二輪に乗って●

自分は相当集中力のない人間なので、大型バイクは乗ってはいけないと家族に言われ続けていました。自分もそう思います。
でもやっぱり憧れがありましてん。

ベスパに乗りたいんだよ!
まあミーハーなので、ローマの休日とかフリクリとかそのへんの影響なんですが。飛ばさなくていいです、のんびり近所をこれで走りたいんだよ!
なんかその理想って、とっても自分らしいなあとも思うんです。あまり冒険の出来ないタイプなので全速力でかっ飛ばすのには向いてないし。「サナギさん」たちみたいに身近なことに楽しい事を探したいなあと願っているので、ぽてぽて走るレトロなスクーターでカメラ構えてくるくる回りたいのです。でも楽しい事したい。なんか自分の人生みたいです。
 
走るシーンがあまり多くないこの作品ではありますが、日常風景にはたくさんの種類のバイクが出てきます。愛蔵版ではそれらが解説されているのであわせて見ると楽しいです。
そうしてふと、詳しくない人間でも気づきます。
ああ、それぞれの人生があって、それぞれにぴったりのバイクがあるんだなあと。
最後まで読むと、それがなぜなのかも分かります。
 
どんな走り方をしているかなんてわからない。
でも、間違いなく時間はすぎる。みんな走ってる。
この本に出会って、読んだこともその走った道の一つになるはず。
 

恋ヶ窪★ワークス 愛蔵版 (Motor Magazine Mook)
大森 しんや
モータマガジン社
売り上げランキング: 1313
 
〜関連リンク〜
「恋ヶ窪ワークス」大森しんや - モーターマガジン社スタッフ発@今日の編集後記

さて実は、この「恋ヶ窪ワークス」。
続きではなく、読みきり編も存在しています。
この愛蔵版の売れ行き次第では、それらも収録した「続編」の可能性も…なんです。
熱望される方は読後の感想なども入れて、「ミスターバイク」編集部へ「続きを出せ!」と
メールでも、はがきでも出してください。
このブログにでもかまいませんよ!

出してください!続き出してください!あやめの走る道がもっと見たいです!