たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「エンマ」が少年達に魅せる、理不尽な「死」の描写。

●死と裁きへのいざない●

人の「死」や「裁き」の執行者を扱った作品は昔から多くあります。
えんどコイチ先生の「死神くん」、垣野内成美先生の「吸血姫美夕」、アニメ「地獄少女」、高橋ツトム先生「スカイハイ」などなど。
これらの作品の面白い所は、「死」や「永遠の眠り」という、ある意味人間として究極の状況に置かれたときの様子を見ることができる、ということ。
そもそもリアル体験したくないですよ、死にたくないもん。人の死ぬの見たくないもん。でもマンガという創作の中でなら、それを疑似体験できます。
この人が死ぬとなったとき、どういう行動を取るのか。その人の本当の本当が出てくる瞬間です。
死の瞬間を見つめるのは、無垢なる少年・少女の瞳。
 

●死の連鎖を絶つために。●

少年誌、ライバルで連載中の「エンマ」
エンマ 1 (1) (ライバルコミックス) エンマ 2 (2) (ライバルコミックス)
ぶっちゃけ表紙買いでした。だって、エンマのお肉が!お肉が!
 
それはともかく。この話の骨子は至ってシンプルです。
閻魔大王の使い、少女エンマが「死人が増えすぎると困るので、大量の死者を出すきっかけの人間の骨を抜いて殺す」というもの。それを世界の枠・歴史の枠を越えて実行していきます。
しかし、ここで注目すべきは「その人が悪行を犯したかどうかに関わらない」という点です。
つまり、死の連鎖を産む引き金になる人間は、みんな殺すのです。逆に言えば、死の連鎖を引き起こさなくて済むのなら殺す必要はありません。
このへん、基本の理念はすごくシンプルなんですが、人間側としてはものすごく複雑な気分になります。
 
たとえば、こんな話があります。

時代は19世紀。インドにやってきた白人少年とシュードラのインド少年のお話。
随分とまた歴史上で光の当たらないところに話を持ってきた物ですが、このシーンを見て「何がどう死の連鎖を引き起こすかわからない」のが普通だと思います。少なくとも人殺しをする少年たちではありません。
しかし、あることが原因でこのインド人少年の元にエンマはやってきます。
条件は簡単。この友達から離れなさい、と。
実際彼もそれを実行しようとしますが、何の罪もない二人です。本当に、何も悪いことするわけでもなんでもないのです。そうそう簡単に別れることは出来ません。それが人間の情ってもんだろう?
でも物語は理不尽に終わりを告げます。

何がどうなったかは、実際に読んでもらうとして。
理不尽なんです。本当に「なんで?どうして?」と机を叩きながら訴えたくなるほどに。
非常に淡々と、物語はエンマ視点で描かれます。そして理不尽と苦しみにまみれながら、人間視点で描かれます。
「死の連鎖を絶つ」という、至極まっとうで正しく思えることが、こんなにも理不尽に感じさせられる。
でも。
「死」ってそもそも理不尽なんだよね。
 

●「エンマ」が魅せる2つのポイント●

キャラクター達の「死」が「理にかなった物か」「理不尽か」は解答がありません。
そもそも必要なのは解答ではありません。求められているのはただの結果です。
その「結果」がいかなるものかを、「エンマ」というマンガはうまく設定を使って描き出しています。
 
まず、一つ目。
エンマの殺し方は血が出ません。苦しみません。一瞬です。
これがまたきれいなもんでしてねえ。

骨を全身引っこ抜くんですよ。
毎回キャラクターが殺されるたびに、このポーズやアングルがぐるぐると変わって美しいので、それだけでも必見。
んで、ここに変わった設定が一つ挿入されています。
引っこ抜いた後でも、その人のことを心から思う人の数だけ骨が体に残るんです。
ようするに、思われている相手がものすごく多ければ死なない可能性もある、というのを暗示しています。実際にはそういうセリフはないんですが、そうなるわけです。
しかし、出てくるキャラクター達は皆孤独です。

彼女は3本だけが残りました。
3人にだけ思われていた、ということです。
これを多いと見るか、少ないと見るかは、実際に読んで個々が感じることでしょう。とりあえず、ごっそり残ったキャラはほとんどいません。
この設定によって、その人間が生きてきた証のようなものが端的に隠喩されることになります。その「結果」を自由に考えてみるのも面白いです。
 
二つ目。

この少女エンマがとにかく美しい。
普段は表紙のように露出度の高い格好をしていますが、その土地その時代にあわせて色々な格好で登場します。
一応話の流れとしては「その世界の住人として溶け込んでいる」のですが、明らかに彼女は異質なものとして描かれています。
瞳のせいもありますが、彼女、感情が描かれないんですよね。
死に面した人間達の顔がまた、強烈なわけです。色々な表情がこんもりと描かれています。ある者は信念のままに安らかに、ある者は恐怖と悲しみにまみれながら。
しかし、少女は顔色一つ変えずに、死の連鎖を止めるために黙々と殺します。
そのギャップがあるからこそ、人間像が色々な角度から浮かび上がってきます。
 
どのように人が生きてきたか。
死ぬ間際に何を考えるか。
一生懸命立派に生きていれば死なずに済むのか。
そんな難しい問題を少年向けにざっくりと分かりやすく、かつ抱かされる感想が複雑になるような描き方をしているこの作品は凄いです。

またね…出てくる場所と時代のチョイスがマニアックなんだ。さっきのインドもすごいですが、17世紀インドネシアとか15世紀ドイツとか。歴史好きな人ならニヤっとするような絶妙なチョイスが含まれているのが楽しいです。これをきっかけに歴史に興味持つのもいいかもねー。
このマンガを小中学生の頃に読んだら、影響うけるだろうなあ…グロテスク趣味な部分もありますが、かなりキャラクターが練り込まれていて「理不尽」への不満がどんどん膨らんで感情を圧迫するような作品なので、むしろそういう時期に読んでほしいマンガでもあります。
ストーリーにつながりはないオムニバスなので、1・2のどちらから読んでも大丈夫です。1は比較的有名な話題を織り交ぜていますが、2の方はかなり変化球に富んでいる気がします。
あ!「エンマかわいい!」で読むのも全然ありです。歴史ファッションショーなエンマはむちゃくちゃかわいいです。
 
〜関連リンク〜
NOX3
ののやまさき先生のHP。
ぜんまい
土屋計先生のHP。