たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

そこに暴力があればいい。「シンシア ザ ミッション」

CYNTHIA THE MISSION 1 (ZERO-SUM COMICS) CYNTHIA THE MISSION 2 (ZERO-SUM COMICS) CYNTHIA_THE_MISSION 3 (3)    IDコミックス REXコミックス CYNTHIA THE MISSION ドラマCD第1巻
友人に勧められて読んだのですが、音速で正中線三段突きをされるような快楽に身をゆだねられるような作品でおいらは鼻血を吹きながらありがとうといいマットに沈んだのでした。
これはすごいわ。自分的に抑えきれないくらいツボにきたので、すこしネチネチと書いていきたいと思います。前半は読んだことない人向け、後半はほとばしって止まらない感想です。

  • 暴力に生きる少女達の群像

少女に必要なのはぬいぐるみではない、暴力である。そうある人が言いました。
うそです。今考えました。
主人公は、ありとあらゆる格闘技と暗殺術を学んでいる少女シンシア。特徴は一言で言うとハゲ。

こんな子。よく動くチビでハゲです。作者はこのマンガを「ハゲマンガ」と読んでいます。

数多くの人を手にかけてきた彼女。ナイス暴力!1巻では殺人を捨てていないのでものすごい強いんですほんとに。2、3巻ではやられ役担当みたいになってる感もあるのですが、それは彼女のまわりに強すぎる少女たちや異形の少女が多数出現するからです。
 

高野果苗。非常におとなしくやさしい少女ですが、彼女には王子様がいます。その王子様は果苗のためなら世界のあらゆる人を惨殺していきます。理由は果苗を守る、その一点のみ。一点のみだからその手には迷いがありません。はてその王子様と言うのは誰かと言うのは、・・・ナイショ。
 

多分一番人気なんじゃないかと思われる、華道の達人にしてケンカ番町、久我阿頼耶(あらや)。彼女は刃物も銃弾も使わず、ただひたすら徒手空拳でケンカの最高峰を目指します。その欲求は言葉では表せない闘争への思い。つか余計なこと言わなくてもこの姿見たら一発でホレます。ただひたすらに美しいんだこれが。

1000%です。スパーキングです。
ね、もうがむしゃらに彼女に突っ込んで戦って1秒でぶったおされたいじゃないですかほんとにもう。月姫の秋葉に似てますが、実際は「X」の鬼咒嵐+「魔法騎士レイアース」の龍咲海+「羊のうた」の高城千砂だそうです。
 

中塚侑実子(ゆみこ)。パっと見普通の女の子なんですが、

無差別殺人鬼です。
個人的に一番好きなキャラ。感情をまったく感じない行動と殺しっぷりは「狂気」を持っていません。まるで当たり前の世界の真理のように、ただ殺します。イイネ。
阿頼耶いわく「突然変異」な彼女。この手の格闘マンガとしては反則的な特性を持っており、今後もしストーリーに絡むにしてもかなり特殊なキャラになりそうです。だからこそ再登場を熱望します。
少女版ハンニバル・レクターと聞いてピクっと反応したら、このマンガは読んだ方がいいですマジで。
 

ブリギット。テロリストで国際指名手配されています。この子もとある反則的な特性を持っている異形の子。嫉妬や陰険さや嘲りなどの負の感情と、シンシアの姉シベールに対する絶対的従隷感で塗り固められた濃いキャラです。

ってちょ!なんでベッドでコトを終えたカップル状態なのですか最高ですね(迷わずの瞳で。)
彼女の特性が何かはネタバレになるので書きませんが、非常にフェティッシュなキャラだとだけ書いておきます。
 
唯一清廉潔白を貫き通しているのは阿頼耶くらいで、みんな殺人経験あり。このほかにも邪眼の持ち主紫水ほたるや、隻眼の少女檎桐など魅力的なキャラ満載ですが、とにかくみんな現実世界のリズムとは違う、この世界のリズムにのっとってただひたすらに暴力に生きます。

  • 最初に愛する作品達ありき。

この作品、最初に手に取ると「○○っぽい」のオンパレードです。
誰もが見て感じるのは「バキ」板垣恵介イズム。最初は「この人はバキが好きなんだなあ」と思って読んでいたのですが、途中からそれが「当たり前」になってきました。このマンガ、板垣恵介が好きなんじゃなくて、崇拝し、それが宇宙の法則にまで昇華されて、世界の流れの中心になっているんだなと感じさせるパワーに満ちているんですよ。他にもじっくり読むと、キャラクターの細部に様々な作品が感じられます。そして作者はそれを胸を張って「リスペクトしました。これらの作品を愛してます。」と前面に押し出しています。
そのストレートな崇拝にも似た敬愛の思いが、読者に訴えかけてくるんですよ「さあ、君も好きだろ?」って。
ああ!好きだよ!好きですよもう!だからもっとやって。
作者の高遠るいさんは、アンソロジーマンガでも異端児とよばれた人だそうです。だからこそ何かに流されることなく描けるんでしょうね。もちろんバキや他の作品を読んでいなくても存分に楽しめます。ストレートだから、弾軌道に迷いなく入り込んできますヨ。
それがスゴイ。
作者HP・たかとお寝具店

  • 「シンシア」に見る少女の加虐・被虐図式

このマンガの「暴力」の魅力は、「暴力を振るう」と「暴力を振るわれる」のバランスだと自分は感じました。
香港マフィアの暗殺者という肩書きで異常に強いはずの主人公シンシアが、読んでいてあまりにもいたぶられている事に驚きました。ギャグシーンとかだけではなくてリアルに。

ゴッドフリート・ヘルンヴァインの写真の少女をふと思い出しました。暴力に生きる彼女ですから、暴力を振るわれるのは当然っちゃ当然なんですが、いかんせんこの歳相応ではない小さな体と愛すべき広いオデコが、あまりにもその被虐感を強くさせます。骨折られるわ頭踏み潰されるわ。

毒打ち込まれるわ。
小さな彼女がでかい敵を倒すカタルシスもあれば、小さな彼女がこれでもかと言わんばかりに傷つけられるカタルシスもあります。
他にも、

注意「ザク」。女の子だからって容赦ないです。いや、女の子だから容赦ないです。そして容赦を考えない暴力は見ていて爽快なんだな。
 
この作品での暴力は、様々な格闘マンガで描かれる形の中でも特にフェティッシュです。しかし、イヤミやグロさや後味の悪さを自分は感じませんでした。
あ!自分は、女の子が陰湿に痛めつけられるマンガが取り立てて好きだってわけじゃないですヨ。ほんとだヨ。だって痛いのやだもん。あんまりいじめられてるの見ると余計なこと考えて悲しくなりますもん。
しかしこのマンガはそういうの考えず、むしろ少女が暴力を振るい振るわれるのがスカッと描かれています。絵柄がかわいらしいせいもありますし、何より痛めつけられている少女達にはあらがうだけの力があるから安心(?)してみていられるのかもしれません。
ぶん殴られたり切られたりする女の子達を描くと、ともするとエグさが先行してしまいがちですが、このマンガに関してはグロいの怖いの苦手という人でも「さあこい!」と構えて読めますヨ。独特の語り口調とストーリーのリズムが暴力の加減をうまく調節していて、見ている側に「もっと暴力を」と感じさせます。そして答えてくれます。
それがスゴイ。
 

  • こちらを挑発してくるような面白さ。

ここまで興奮して書きましたが、あんまり万人向けのマンガではないと思います。「少女」が「暴力」を持って「むちゃくちゃなことをする」のが好き、という人にはためらうことなくすすめます。
こうやって「万人向けではない」なーんて書くことで、すんなり心に落ちる気がするのはなんでかなあ。オタクエゴなのかもしれないですが、「香港映画を激プッシュする気持ち」や「ホラー映画を激プッシュする気持ち」と似てるんですヨ。
そして、そこがいいんです。
極A級のB級、と表現しておきます。
あとはハゲブームが来れば問題ありません。そのときのために読んでおくのもいいかもしれません。
多分こないけど。