たまごまごごはん

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セカイ系に向かうのか、模倣に向かうのか〜「SCAPE-GOD」〜

●「セカイ系」という言葉のもつよさと悪さ●

自分もよくわかってないし、特段に定義があるわけでもない、だけどまれに使われる言葉に「セカイ系」という言葉があります。
セカイ系(wikipedia)
セカイ系とは(はてな)
セカイ系(惑星開発大辞典)

[きみとぼく←→社会←→世界]という3段階のうち、「社会」をすっ飛ばして「きみとぼく」と「世界」のあり方が直結してしまうような作品を指すという定義もあるようだ。

エヴァンゲリオン」や「最終兵器彼女」は典型として、最近だと「涼宮ハルヒ」や西尾維新作品などでしょうか。このへんの判断基準は個々で大いに違うと思うので、あくまでも自己判断ですが。自分の悩みはセカイの悩み。自分と他者との感覚が、セカイの感覚、みたいな。
個人的にはこういうの大好きっていうかエヴァ大好き☆なので、その中高生時代のあいまいな世界観の青臭さがたまらなく好きなんですが、同時に「視野が狭いですね」という批判としても使われるみたいですね。使い方を失敗するとただの独りよがりになりがち、というか。
 
このへんはまさにエヴァ以降10年近く語り続けられたものなので、今更色々書くと、ちょっと青臭くて恥ずかしいデス。
ただここ10年間くらいをオタクとして生活してきた人には激しくハートに刻まれた刻印の一つでもあるわけです。いまだにエヴァの面影を追っている人はいっぱいいるんですよ!…自分だけですかそうですか。
その手法を用いた作品に魅力的なものも多いのですが、時としてものすごく視野をせばめてしまうこともあります。
一部の「萌え」作品にも同じ鋭い刃が眠っていることがあります。少ないキャラが、ラブコメディを広げることはとても見ていて楽しいのですが、彼らの一喜一憂が世界のすべてであるような環境になると、はたから見て「おいおい甘ったれるなヨ!」と突っ込みをいれられることも。
まあ、それを分かってあえて逃げ込める箱庭であるのも確かなのですが、出てこれなくなるとちょっと大変。
 

●客観的に描こうとするとき、今までの模倣になり…ますか?●

ちょっと前置きが長くなりましたが、ここで、自分の中でのマンガ観に大きく一つ刻印を残してくれたマンガを紹介します。
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高遠るい「SCAPE-GOD」。
同じ作者の「CYNTHIA THE_MISSION」を読んだことのある方なら分かると思いますが、この作者のマンガの描き方、ものすごい「敬愛するマンガそのまま」な部分が多いです。パロディといえばパロディなシーンも満載ですが、それ以上に「そのまま」です。
具体的に言うと、「CYNTHIA THE_MISSION」の場合は「刃牙」の文法をそのままなぞっています。ぱっとみたら「真似!?模倣!?パクリ?!」と思っても仕方ないくらいに。しかし一通り読むと、ものすごい特殊であるのも分かります。

ファーオ。危ない!けど面白い。描き方は板垣イズムですね。
しかしこの作者高遠るい先生は、それを決して隠そうとはしません。むしろ、愛した作品たちに敬意を払うように、その作品の文法を借りて、自分の言葉を語ろうとします。
 
作中解説で、庵野秀明監督が「自分の中にあるガジェットからテーマまで所詮すべて借り物でしかない」と言って悩んでいたことが引き合いに出されていました。コレを見て、ある雑誌で押井守監督が言っていた言葉を思い出しました。

僕がずっと観てきた映画の引用…言っちゃえば総パクリなんだよね。そういう観てきた映画への想いなしで、映画はつくれないから。
同じ映画の引用であっても、奥目もなくやるのかひねりを入れるのかっていうのは決定的な違いだと思うよ。日本には「本歌取り」っていう伝統があるけど、アレンジを入れるものなんだから。本歌を取っているうちに、時代の意識が反映されたり、新しいものが入っていくんだよ。
(CONTINUE vol.27より)

社会を描くには、どこかしこで何らかの「今までの文化」がまじってくるのを「パクリ」と取るのか、あるいは「敬意を払ってそれにのっとる」のかで変わってくるのでしょうか。
なんらかの、既存の作品に最大限の敬意を払って描かれている作品は、とても好きです。そうすることで多様な方面から見る視点が交じり合ってくるから。
もっともパクり問題に関してはほんと難しいですし、論じ合っても仕方ない部分ではあるんですよね。言い始めたらおそらく「あれもこれもパクリじゃないか」となって、完全オリジナル?→自分の内面セカイ→他から見て閉鎖的、となってしまうかもしれません。
じゃないとこうなるよ!

閑話休題
 

●「SCAPE-GOD」の大きくて小さい世界●


このマンガに出てくる主要キャラは、主人公のビアン少女牧原緑と、セカイの創造主であり神様のひつじさん(仮)
ひつじさんの価値観自体、かなり偏っていて、でかいんだか小さいんだか。少なくとも人間の一言でヘコんでセカイを滅亡させちゃおっかなー、とか言うんだからたまったものじゃありません。

ひつじさんが「神様」であることで、この作品が「はい、セカイ系ですよー」と明言化している気がします。神様があきらめたり悩んだりしたら、セカイがぐらぐらするわけです。「ひつじさんは世界の総体」とまではっきり書かれていますもの。
高遠センセったら、確信犯なんだからもう。
 
他にもものすごくたくさんの敵キャラ(「特異」と呼ばれます)が出てきますが、

どんなにすごい神話での神レベルであろうと、たいていヒトコマで殺されます。このセカイにとっては強大で恐れるべき存在、人間をたくさん殺す存在ではあっても、ひつじさんと緑にとっては日常の一部でしかないわけです。
だって神様だもん。

緑の、人間の世界に対してもっている一見歪んだ感覚もまた、この世界の命運を左右することになります。
ただ、このキャラのいいところは、どんなに世界が狭くても「苦悩しない」んですよね。ほっぺたパパン!とたたいて「さーてどうすっかな」と。見ている視点は緑とひつじさんの二人きりの、狭い狭い視野なんですが、いわゆる「セカイ系」の閉鎖感があまりないのです。
 

●どでかい視野とほっそい視野の百合感覚●


人造の、ひつじさんの模造品でアレする緑。
もうなんか、すがすがしいな!
緑は女性しか好きになれない、いわゆる「ビアンキャラ」として描かれているんですが、どうも他の百合作品のような空間と何か違うんですヨ。
緑とひつじさん視点から描かれている本作、男女愛のある世界というよりは「同性愛しか見えない」世界です。後半とあるキャラが出てきて「少年」と呼ばれるのですが、この少年がどう見ても少女、つか少女。なんで少年って呼ばれたのかすらわからないですが、その不条理さがいいんだな。
不条理で、ときどき「これは正しいのか?」と感じさせるシーンもありますが、オマージュとセカイ系の間を、たった1巻で駆け抜ける剛速球な本作にそんなことは通用しません。不条理がこの世界のルールです。
つまりはこういうこと。

なんかすべてを物語るようなヒトコトなのです。
 

●悩むな、逃げるな、闘え!●

上下の世代に挟まれ、両サイドにまたがったアンビヴァレントな意識を持たざるを得なかった困難が、共同幻想にも逃げ込まず、生理的な刺激だけを拠り所にもしない高遠の「倫理的なマンガ」を生んだと言えるのではないか。
前田久解説より)

難しくてこれの意味が最初さーっぱり分からなかったのですが、やっぱり分からないので自分なりの解釈をしてみました。
作品のキャラと自分がリンクして、悩んで悩んで悩むのを描こうとすると、いわゆる「セカイ系」になりがちかもしれません。またものすごい遠く離れた視点から淡々と描くと、ひねりのない模倣になるかもしれません。
先ほども書いたように「模倣」「セカイ系」という言葉はどちらも諸刃の剣。一度その言葉の視点で作品を見ると、何もかもつまらなくなってしまいます。自分みたいなオタクにはよくあることです。
しかし高遠先生はそれも踏まえた上で、最終章を描きました。

個人の内面における不安を世界の破滅と同一視した、よくある大人げのない黙示録です。お取り扱いの際は、優しい気持ちになってください。
(前書きより)

青臭いもの好きですか?セカイ系好きですか?
自分は大好きですよ。
だけどその視点にはいつくばって、悩んでいても道は開けないし、好きなものだけに囲まれて逃げていても前は見えないです。
理由もわからない、答えも見えない。
んじゃどうする?
「闘え!」
 
だから高遠るい作品が大好きです。
1巻で駆け抜けたスピード感ある作品なので、難しいこと考えながら読んでも面白いし、気軽にテンポ楽しむにも面白いですよ。
どちらかというと前者がオススメ。解説つきなので、それにそって元ネタ探ししながら「うーむ」とあごに手を当てて読みましょう。
 
ところで作中に出てくる、「特異110番ひつじや」のHPのアドレス打ってみたら、
ttp://www.hitsujiya.co.jp/
これ、わざとでしょう?
 
〜関連記事〜
そこに暴力があればいい。「シンシア ザ ミッション」
サディスティックな少女はお好き?「CYNTHIA THE_MISSION」4巻
 
〜関連リンク〜
たかとお寝具店
限界小説評論
作者高遠るい先生と、解説前田久先生のHP。
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